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昭和の30年代から40年代始めにかけて「歌声喫茶」というものが流行ったことは私も知っていました。喫茶店の客たちが、誰かのギター伴奏にのって、声を合わせて外国民謡などを歌ったそうです。
私が大学に入って喫茶店に出入りするようになった昭和40年代後半には、学生運動の退潮と歩調をあわせるかのように、歌声喫茶の人気はすでに下火になっていました。
歌声喫茶全盛期の人気ナンバーには、折からの左翼ブームが影響したのか、ロシア民謡が多かったようです。「トロイカ」「カチュウシャ」「バイカル湖のほとり」等々。(余談ですが、私が大学時代よく通っていた洋酒喫茶は、その少し前までは歌声喫茶だったそうです。店名を「どん底」といい、ゴーリキーの名作戯曲に因んだ命名でした。)
これらの曲は、当時の学校の音楽の教科書にも多数取り上げられていたので、誰でも唱和できた、という事情も良く歌われた理由のようです。
私自身もロシア民謡の哀愁を帯びたメロディーが好きでしたので、成人してから、正調ロシア民謡のCDを買ったり借りたりして聴いてみました。そして驚きました。本来の歌の内容と日本語の詩とが随分、趣が違うのです。
日本では軽快なテンポで歌われる「トロイカ」は、実は許婚を領主に妾として奪われた貧しい若者の嘆きの歌でした。トロイカ(馬車)の御者である若者が、客に悲しみを訴える、スローテンポの実に暗い歌が原曲です。
明るくて可愛い感じのする「カチューシャ」は、詩の内容自体は大きく変わりませんが、原曲はなんとロシア空軍の軍歌だそうです。
「ステンカラージン」は、ロシア赤軍合唱団によるアカペラのすばらしくドラマチックな歌唱をCDで聴いたことがありますが、内容は、英雄ステンカラージンが、「戦利品」であるペルシャの姫君を、仲間の妬み嫉みを押さえ込み、一団の団結を維持するため、海に投げ込んで殺す、という学校唱歌にはあまりふさわしいとは思えない内容でした。
哀愁を帯びた日本人好みのメロディーとロシアの歴史に密接に結びついたドラマチックな歌詞。ロシア民謡は魅力的です。 |