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パトラッシュが駆ける!

忖度 

2017年05月06日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

この歳になっても、知らない言葉がある。
ざらにある。
それが外来語なら、やむを得ない。
もともと私は、他国の言語に疎い。
海外旅行へは、数えるほどしか行っていないし、
外国の小説を読むことも、少なかった。
国産が好きだ。
料理だって、洋食より、和食が好きだ。

外来語を多用する人間を、尊敬するどころか、
むしろ蔑んでさえいた。
日本語で言えるはずなのに、何故、外国語を使うんだ……
人を煙に巻くために、ことさらに使っているんだろう……
気障な奴めと、腹を立てこそすれ、自らの不明を、
恥じるなんてことはなかった。

では、日本語なら任せておけ。
なんてことには、ならない。
知らない言葉は、たくさんある。
特に漢字だ。
へえ、そんな言葉が、あったのか……
未知の熟語に出会い、驚かされることが、この歳になってもある。
のべつある。
まだまだ勉強不足だなあ……
と思いつつ、しかし、仕方のない面もある。
漢字そのものが、厖大だからだ。

私は、現代の中国は嫌いだが、漢字を発明した、
古代の中国人には、限りない敬意を抱いている。
漢字ほどに、豊かな広がりを見せる言語文化は、他にない。

私は、こと漢語となると、その不知が悔しい。
外国語に弱い分、国語には、人より通じていたいと思っている。
初見の熟語を見かけるや、必ず、辞書を引くようにしている。
引くだけ。
意味を知るだけ。
それが骨肉となり、縦横に駆使出来るまでは、
とても行かないのだが。

 * * *

上野黒門町に、落語協会の本部があり、この建物の二階に、
高座が設えてある。
畳二十畳敷きほど、定員四十人の、ささやかな寄席である。
ここで毎月「初演の会」というのが行われる。
噺家三人が、それぞれにとっての、初演となる噺をやる。
つまりは、発表会のようなものだ。
しかし、真打を含む、プロの噺家であるから、
もちろん、余興などではなく、真剣勝負である。

誘われて、それを見に行った。
三者三様に落語をやる。
その他に、ちょっとした試みをやる。
客から、題を募り、それを三つ組み合わせ、落語へと組み立てる。
今月募集した題を、来月に発表する。
その間一ヶ月、当番の落語家が、頭をひねるのであろう。

「では、来月のお題を募集します」
司会の、林家はな平さんが、客席に向かって求めた。
誰からも、声が出ない。
私は、その日が初見参であったのだが、なに構うことはない。
手を上げて言った。
「そんたく」
このところ、この言葉の聞かれない日はない。
そのくらいに、テレビに氾濫している。
おそらくは、今年の流行語大賞の、トップになるのではあるまいか。

私の声が、呼び水となったのであろう。
次々に、題が出た。
その中から、客の拍手の多寡により、三つに絞る。
私の「そんたく」は、最も拍手が多く、文句なしに決まった。
後は「サーフィン」「演歌歌手」であった。

一か月後の「初演の会」へ、私は、もちろん行った。
自分の出した題が、どう料理されるか、興味があった。
担当は、古今亭菊生さんであった。

女性二人を登場させ、その会話でもって、噺を進展させた。
「ねえ、あきえったら、おもんばかってくれても、いいんじゃないの」
と言う調子である。
今しも話題の人物の名を入れ、面白おかしく、一話にまとめ、
客の笑いを、誘っていた。
さすがにプロだ。
やることに、そつがない。

 * * *

「そんたく」なんて言葉、初めて知った。
という人が、少なくない。
前述の、はな平さん、菊生さんにしても、そう言っていた。
漢字が堆積するボタ山の、その深層に埋もれていた
「忖度」の二字が、突如として掘り起こされ、
日の目を見たようなものだ。

使われてみれば、なるほど、その行為を表すに、
これほど適切な言葉はない。
「おもんばかる」より、ずっと簡潔で、しかも力がある。
この言葉は、事件の推移に関係なく、今後長きに渡り、
用いられるであろう。

これを言うと、自慢になるのだが、私はこの「忖度」を、
かねてから知っていた。
文中において、使ったことも、何度かある。
その度に、苦情が来ていた。
「意味がわかりません」
古くからの、読者さんだ。

私は、新たに知った言葉を、使いたくてたまらない。
さながら、新しいシャツを買ったなら、早速にそれを着て、
出かけたくなるようなものだ。
滅多にないシャツであり、そこに瀟洒なイメージもある。
着古し感がないから、斬新ということも出来る。
しかし、着て行く先がない。
それなら、作っちまえで、わざわざシャツにふさわしい、
会合を催したりする。
そんなようなものだ。

古くからの読者さんには、その辺を、しっかりと見透かされている。
「あいつ、またやってる」
呆れつつも、遠回しに、言って下さる。
たしなめて下さる。
「意味、わかりません」
これをこそ、忖度と言わないだろうか。

今や、一般語として定着してしまった感のある「忖度」。
私としては、既にして着古した、シャツの感がある。
あまつさえ、そこに、“あきえ”氏の匂いが染みついている。
こうなったら、もう終りだ。
私は、この言葉を、もう使わないであろう。



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庶民のそれは別次元です

パトラッシュさん

澪つくしさん、
そうなのです。
本来は、美しい言葉なのです。
「忖度」と言う言葉にとって、こんなダーティな事件にちなんで、世に知れ渡るのは、きっと不本意なことでしょう。

行政に忖度してもらう。
そこにやましさがなければ、よろしいのではないでしょうか。
澪つくしさんの、過去の実績が、ものを言っているのでしょう、きっと……

2017/05/06 17:08:42

いえいえ

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
決して、粋なんかではありません。
「忖度」は、もうまともには、使えなくなってしまったのです。手あかが付き、匂いが付き……
また何か、適語を探しましょう。
さながら、気の利いたシャツを探すように……

2017/05/06 16:59:07

いいのか・・・ 悪いのか・・・

澪つくしさん

私は「忖度」と言う言葉を、今回の
”アッキード事件”で初めて知りました(/ω\)ハズカシ

政治がらみだから、また何か胡散臭い意味かと
調べてみると、

「他人の心を推しはかること」とある。

な〜んも悪い意味ではない!
気遣いの出来る、好い意味なんだ〜♪

日本語って、絡んだ事柄でこんなにも曖昧なのネ?

これからは、何となく良い意味では使い辛い気が
するのは、私一人でしょうか???


とは言うものの・・・
仕事上、永年行政との絡みが多い私、
担当者が随分と忖度してくれているな〜と感じる
今日この頃です∬´ー`∬ウフ♪(ナイショ!)

2017/05/06 13:44:02

さすが師匠、粋ですねぇ

シシーマニアさん

この言葉を使う、最後の舞台が、落語のお題、とは。

でも、こんな時代が、いつまで続くのでしょうね。

2017/05/06 09:39:03

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