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パトラッシュが駆ける!

続・銚子は国のとっぱずれ 

2017年06月03日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

河口近くに、総ガラス張りの展望塔が立っていて、
その名を「ポートタワー」……
この町も、モダンになったものだ。
エレベーターで展望台に上がり、私はやっと、
太平洋を見はるかすことが出来た。

実を言えば、私は銚子の町を、まんざら知らないわけではない。
過去に、何度か訪れている。
最初は、小学生の頃であった。
夏休みに、母に連れられ、弟妹と共に来た。
母の弟、つまり叔父さんが、市内に住んでいたからだ。
従弟に案内され、海に泳ぎに行ったりした。
醤油工場があり、側溝に流れる汚水が、醤油の色に濁り、
周辺には、醤油の匂いが漂っていた。
異様な光景として、今も覚えている。

その叔父さんが死んだ時、葬儀に参列するために来た。
母はそれより前に亡くなり、私が親の代わりに、来たことになる。
その後、観光でも来た。
初めて、3ナンバーの乗用車を買った時だ。
「叔父さんの墓に、線香を上げに来た」
従弟に言ったが、実は新車を、見せびらかしたかったのだ。
車でもって、ステータスを誇示する。
かつて、そういう時代があった。
いや、今だってある。
世間にざらにある。

ポートタワーの麓に「ウオッセ」という商業施設があり、
当地の産品を販売している。
もちろん、海産物が主になる。
銚子は、魚の町である。

魚を買って帰りたい。
しかし、本日の私は、車ではなく、電車で来ている。
持ち帰るには、様々な制約がある。
そしてまた、消費のことも考えねばならない。
我が家は、二人所帯だ。

従弟とは、その後も、年賀状のやりとりが、続いている。
しかし、それだけだ。
もう、双方とも、親の回忌法要を営むこともない。
今回も、連絡なんぞ、しないで来ている。
道でばったり、出くわしでもしたら、きっと言われるだろう。
「声くらい、かけてくれれば、いいのに」と。
しかし、ためらうものがある。
もう、親戚づきあいは、終わっている。
次の世代に、引き継ぐ縁ではない。
それなら、黙って来て、黙って帰る方がいい。

サンマの銚子煮というのがあった。
ぶつ切りにされた、さんまの胴が、醤油の色に煮詰められている。
イワシもサンマも、盛期には、持て余すくらいに獲れる。
だから、保存食にする。
これを食べてみたくなり、買った。

魚と言うのは、目の毒だ。
見ていると、つい、自制心を失う。
イワシの丸干しが、美味そうだ。
その肌が、銀色に光っている。
背の青い魚は、鮮魚もいいが、干物にすると、もっと美味くなる。
これを肴に、一杯やったら、堪えられないだろうな……
と思ったら、もういけない。
発泡スチロールの箱を、引っ掴んでいた。
「これ、東京まで、持って帰れるかな?」
「大丈夫です。保冷剤を入れ、パックに入れますから」
店のおばちゃん、慣れたものだ。

銚子駅まで戻ったら、次の電車の発車まで、一時間もある。
駅前の、シンボルロードを歩き、セレクト市場に行った。
この町も、今や、横文字ばかりだ。

ここを、冷かしていたら、今度は、サンマの卯の花漬けが、目に付いた。
叔父さんが健在の頃、よく送ってくれた。
箱にたっぷりと入っていて、しばらくの間、サンマ責めにさせられた。
いくら美味くても、毎日となると、飽きる。
しかし、今となっては、懐かしい。
これも買うことにした。

鰹の角煮の、その身が大きい。
これは、ご飯に合うだろう。
銚子名物の、濡れ煎餅がある。
ビールを飲む時に、良さそうだ。
煮豆がある。
添加物なしだからだろう「本日中にお召し上がり下さい」と書いてある。
黒豆、うずら、うぐいすと並んでいる。
見ていたら、全部美味そうだ。
えーい、まとめて面倒みてしまえ……で、三パック買った。
もしかしたら、これを「大人買い」というのかもしれない。
私は、銚子の町に来て、にわかに、大人になっている。
この町を去るに当たり、買わずに居られなくなっている。
だから、これを「衝動買い」と言ってもいい。

私にも、エクスキューズがある。
ほんのかすかながら、縁のある町だ。
そこに金を落してやるのは、叔父さんへの供養になると思っている。

 * * *

帰宅したら、案の定だ。
妻に、呆れられた。
「どうするの、こんなに?」
「食うさ」
「食べ切れないわよ、こんなに」
「食えるさ。食ってみせる」

見得を切った手前、私は、毎日毎晩、イワシの丸干しを食べている。
二匹ずつ焼いてもらい、一匹を酒の肴とし、
もう一匹で、ご飯を食べる。
不思議なことに、日が経つほどに、干物の味が美味くなる。
塩が馴染んで来るから……ではあるまいか。

煮豆も煎餅も、あらかたは、人にくれてやった。
娘一家が、階下に住んでいると、こんな時に便利だ。
サンマの銚子煮と、カツオの角煮は、パックに入っているから、
しばらくもつだろう。
私の大人買いは、失敗でなかったことになる。

銚子に行くことは、多分、もうないだろう。
町のあらかたは、見ている。
知り尽くしている。
犬吠埼灯台には、もう、何度も登った。
銚子電鉄にも、もう、何度も乗った。
飯沼観音にも、詣でた。
従弟に会うことも、ないだろう。

そう思いつつ、しかし、今回も訪れてしまった。
これが不思議なのだが、何だかわからないままに、
つい、来てしまう。
この私に、ヒマのあり過ぎるのが、いけないのかもしれない。

漁港の食堂で、昼飯を食う。
魚をたくさん、買い込んで帰る。
そのためだけにでも、銚子の町に来る。
思えば、酔狂なことを、私はやっている。



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銚子病かも……

パトラッシュさん

漫歩さん、
ここには書きませんでしたが、私の母は、利根川のほとり、小見川の出身です。(今は香取市に編入されてしまいましたが)
それで、毎年、初夏の頃に、墓参りに行っております。(その墓に、私の祖父母、伯父などが眠っておりますので)
行ったところで、どうということもないのですが、母が生きていたら、きっと行きたいだろうなと思うと、どうせ暇があるなら、私が行ってやろうと思うわけです。
そこから、足を伸ばして、今年は銚子に行きました。
来年はどうなるか……
墓参の後で、寄るところは、佐原、佐倉、成田山など、たくさんありますので。

2017/06/08 16:46:49

読後感

漫歩さん

パトラッシュさんの名文を、懐かしく、愉しく、そして少しばかり感傷に誘われながら読ましていただきました。
私も少年時代に始まって銚子には結構足を延ばしています。
「あの頃の醤油の匂い」、サンマの銚子煮、イワシの丸干し、サンマの卯の花漬け、鰹の角煮、濡れ煎餅などなど銚子のオンパレードに終始頷きっ放しでした。
どうぞこれでおしまいにしないで、これからもお出かけ下さい。
森田健作さんも喜びますよ。

2017/06/08 12:34:02

ますます……

パトラッシュさん

プラチナさん、
世の中には、人を喜ばすことに、生き甲斐を感じる人も居るようです。
私は、粋ではありませんが、どうも、そういう人種のようです。
皆さんの、肯定的コメントを頂戴し、ますます、その傾向に、拍車がかかりそうであります。(笑)

2017/06/04 05:35:36

粋なパトラッシュ

プラチナさん

幼い頃、近くに大陸帰りだと云う小父さんが居て、子供達を集めては、お土産だと言って沢山のお菓子や果物を分けて貰った事を思い出します。今思えば、酔狂な人でなく粋な人でした。

2017/06/03 22:13:01

たまには……

パトラッシュさん

喜美さん
一万円ただ儲け……
そんなお得な方法があるのですね。
そりゃ、何口でも、やった方がいいですね。
普段つましくやっていて、この時とばかり、散財する。
それは、精神衛生上も、良いことだと思われます。

2017/06/03 15:57:26

当たりでした

パトラッシュさん

ミルフィールさん
銚子土産は、カツオの角煮を初めとして、すべて美味しかったです。
実を言えば、もっともっと買いたいものがありました。これでも、自制した方なのです。

旅に出ると、財布のひもが、つい緩んでしまいまし。

2017/06/03 15:54:21

懐かしの大磯

パトラッシュさん

澪つくしさん、
土産を買う。
それも旅の楽しみですから。
買う土産がない。
ということは、その地がいかに魅力がないか……ということでもあります。

大磯でも和菓子を買いました。
(名前忘れましたが、美味かった)
漁港に行ったら、魚を買わないわけには、行きません。
猫に、魚を跨いで通れというようなもの。
断固として、買うでしょう。
そして、魚料理を食べるでしょう。

2017/06/03 14:40:38

ボヘミアンのようなもので

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
私には、放浪癖があり、ヒマがあると家にじっとして居られず、
ついふらふらと出かけてしまうのです。
未知の町を歩くのが好きです。
なじみのある町も好きです。
飽きることは、滅多にありません。
そのたびに、何かの発見がありますから。

お金のあまり、かからないところ。
そして安宿、安食堂を選ぶことになっております。

2017/06/03 14:35:11

肴として

パトラッシュさん

COSMOSさん、
イワシほど、貶められている魚は、他にないでしょう。
その安さ故にです。
しかし、値段という概念を取っ払ってしまえば、これほど美味い魚もないのです。
特に干物です。
私は、国産牛肉より、ずっと美味いと思っています。
これを肴に、ビールをやり、日本酒を飲みます。
つくづく、日本人に生まれ、よかったと思います。

2017/06/03 14:26:42

大人買い

喜美さん

私も先日やりました 何時もチマチマした生活で 今は良い世の中ですよね
デパートに積み立てると1年で13か月分(13万)になるのが満期になったので娘と行き 化粧品からスリッパ(昔から同じの穿いています)まで何時も中々出来ないウナギの何故か一番上等なの食べて
満足して帰ってきました 年金生活の私の唯一の楽しみです 教えてあげるわ秘密よ 年に3本してあるの 此れが楽しみ

2017/06/03 12:52:51

銚子は

ミルフィーユさん

海辺の町には、思わず財布の紐を緩めてしまう様な魅力ある美味しいものが沢山有りますね。
私もプチ旅に出ると、あれこれ買い込んで、レシートやパンフを取っておいて、美味しければ、お取り寄せまでしてしまいます。
銚子の角煮の瓶詰は、お土産にも喜ばれますよ〜(^^♪

2017/06/03 12:09:09

ついつい・・・

澪つくしさん

それにしても、ずいぶん買い込みましたね〜!

サンマの銚子煮・イワシの丸干し・サンマの
卯の花漬け・ぬれ煎餅・カツオの角煮・煮豆3種。

どれもお酒のお供にいいですね〜(^^♪

パトさんの事を笑えませんが・・・
私もよくデパ地下や物産展で、自制心を喪失します!

2017/06/03 10:33:24

酔狂なこと

シシーマニアさん

良いですねぇ。

「何だかわからないままに、つい来てしまう」

なんて、自由なのでしょう。


漁港を訪れる目的は、現地でお昼を食べる、
これぞ、旅の神髄、と言う風に思えます。

師匠、悠々自適ですね。

2017/06/03 09:38:35

イワシの丸干し

COSMOSさん

私もイワシの丸干しは大好きです。酒の肴にこんなピッタリのものはありません。我が息子や娘は絶対に食べません。まずそうとか見た目が悪いとか勝手なことを言ってます。
その内食糧危機がやってきてイワシの丸干ししかなかったらそのうまさに気付くでしょう。

2017/06/03 09:21:44

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