メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

退蔵金 

2017年06月10日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

T小学校囲碁将棋部に「体験」という制度がある。
囲碁将棋に、興味はあるけれど、しかし、やったことがない。
という生徒のために、門戸を開いている。

教室に来て、クラブ活動の様子を、その目で見てもらう。
そして実際に、将棋盤や駒に、手を触れてもらう。
駒の動かし方の、分かる者には、対戦も行ってもらう。

その上で、よしやってみようという気になったら、
初めて入部の手続きに進む。
その時に、保護者の同意を、得なければならない。
部費が必要だから。
と言っても、月に、五百円なのだが。

その体験希望者が、増えている。
そして、入部へと進む者が続出している。
原因は、はっきりしている。
藤井聡太君の活躍だ。
プロ棋士になって以来の、十八連勝、十九連勝、二十連勝……
記録を伸ばす度に、新聞やテレビが報じる。
さながら、芸能界か何かの、スターのように、その扱いが大きい。
彼が中学生ということもある。
この先、何処まで、記録が伸びるかという興味もある。

にわかに将棋が、注目されている。
関係者としては、素直に喜ぶべきであろう。
しかし、困ったことになっている。
先生が足らない。
生徒が増えたのに、先生の数は変わらない。
生徒二十数人に対し、先生が三人。
これでは、手が回りかねる。
教室全体に、目が行き届かない。
おーい、何処かに居ないかな……
将棋の先生やーい……
探すとなると、これが案外、見つからない。
世に、将棋をやる人は少なくない。
しかし、教えるのは、それも子供に教えると言うのは、
簡単そうで、実は難しい。
先生に求められる資質、それは技術よりも、むしろ忍耐力だからだ。

 * * *

私の机の引き出しに、お金が貯まっている。
何となく貯まってしまった。
現金入りの封筒が、束ねてあり、ざっと見たところ、十数枚ある。
杜撰なことだ。
多分、四〜五万円くらいであろうが、総額を、確かめていない。

このお金、遊興費には、使いにくい。
何か有意義な、使い道はないか。
それを考えているのだが、名案が浮かばない。
それで、とりあえず、引き出しに突っ込んである。

伝統遊戯を、クラブ活動に取り入れた、学校に対し、
文部科学省から、補助金が出るらしい。
囲碁将棋も、その対象になる。
その補助金が、私達指導者への、謝礼金となるらしい。
もらったそれが、何年分か、貯まっている。

その他に、交通費が入る。
小学生の将棋大会、囲碁大会に、生徒が出場する際、
私は、万障繰り合わせ、付き添って行く。
後に、些少ですがと言って、封筒を渡される。
千円札が一枚、入っている。
それが交通費である。
これは、部の会計から、支払われる。
「要らない」というのだが、それでは困りますと、
係のお母さんが、その顔を曇らせる。
仕方ない。
取りあえず、受け取っておく。
その「取りあえず」が、貯まって行く。

私は長いこと、商売一途に生きて来た。
朝から晩まで、金儲けのことばかりを、考えていた。
その反動かもしれない。
もう、お金を稼ぐのが、嫌になっている。

幸いに、あくせく働かないでも、生きて行けるようになった。
残りの人生は、お金とは、関わりのないところで、
過ごしたいと思っている。
それなのに、皮肉なものだ。
要らないと言えば言うほど、お金が入って来る。

このお金を、私の快楽に、費消してしまうのは、いかがなものか。
飲む打つ買うは論外として、旅行の代金に充当するさえ、憚られる。
もらった金に頼らなくても、旅くらい出られる。
飯くらい食える。
芝居くらい、見られる。
という頭がある。
ちなみに「れる」ではなく「られる」である。
最近、テレビでも何でも「ら」を省くやつが多く、
聞く度にうんざりしている。

 * * *

先週の土曜日に、T小の運動会が行われた。
快晴であり、朝から暑かった。
日陰を選び、私は、生徒席の背後に、立ち続けていた。

五年生の、K男が振り返り、私を見た。
にっと笑い、前列の男子の肩を小突いた。
振り返ったそれは、M男であった。
彼もまた、私を見て、にっと笑った。
それだけのことである。
言葉は交わさないけれど、彼らとは、気脈が通じている。
それだけで、私は、とても気分がいい。

徒競走、玉入れ、綱引き、ダンス、騎馬戦……
プログラムごとに、囲碁将棋部の生徒が出ている。
誰かが出ている。
義務ではない、義理でもない。
私は、見たいから、運動会を見続けていた。

六年生のSが、白組の応援団長を務めた。
同じくAが、紅組のそれであった。
それぞれに襷を締め、思い切り叫んでいる。
一年生の頃、よく泣きべそをかいていた、小柄なS男が、
今や、他の生徒達を、リードする立場に居る。
よくぞ成長したものだ。

六年生のY子がリレーに出た。
大柄だから、遠目にも目立つ。
バトンを受け、猛然と走りだしたY子が、コーナーにかかり、
ぐらついた。
足がもつれそうになっている。
転ぶなよ、Y子……
私は思わず、叫びそうになった。

何とか、体勢を立て直したY子が、直線にかかり、再び加速して行く。
彼女の将棋の力は、とうに、私を超えている。
走力もまた、私のよく敵うところではない。

私の目尻に、滲むものがある。
困ったものだ。
些細なことで、すぐに滲む。
私の涙腺不全症候群は、このところ、悪化の一途をたどっている。

私の人生は、終盤に至り、大きく軌道を変えている。
見えざる糸に、操られたように、予期しなかった境遇に、
この身を置いている。

 * * *

次の日曜には、囲碁の団体戦が行われる。
文部科学大臣杯と銘打った、小学生の大会である。
何をさておき、行かねばならない。
生徒らと同じ、赤いTシャツを着て行く。

次々週の日曜は、将棋の団体戦だ。
これも行かねばならない。
またしても、赤シャツを着る。

二週続けて、表に「交通費」と書かれた、封筒を受け取ることになるだろう。
使い道は、依然として、見つからない。
そのまま、引き出しに退蔵されるだろう。
お金が余り、困っている。
こんなことが、私の人生において、起きるとは、
とてもじゃないが、想像出来なかった。



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

いえいえ

パトラッシュさん

漫歩さん、
文章力なんてものは、ありません。
ただ、思ったままを連ねているだけです。

ネタに窮すること、しばしばです。
旅に出ると、そこかしこに、ネタが転がっています。
私が不在の時、それは、書くことに窮した時と、ご想像下さい。

2017/06/11 17:00:09

お説ごもっとも

パトラッシュさん

喜美さん、
「ふるさと納税」を利用して、横須賀市に寄付しちまいましょうかねえ……
返礼品に、まぐろでも、送ってくるかしら?……(笑)

2017/06/11 16:54:56

共感

漫歩さん

パトラッシュさんと同じような過ごし方をしている意味での共感ではありません。

パトラッシュさんとは、まるで異なる日々を送っている私が、そのの文章力で私を主人公にさせてしまうのです。

2017/06/11 15:15:03

喜美さん

お金が余って困っている?
道理で横須賀の市長さん困っているのよ 其処で泊まっていたのか
お金はお足でしょうパトさん一人で歩いていないで袋に入れたのも歩かせないと国の為にも悪いです

2017/06/11 13:53:20

そうです

パトラッシュさん

澪つくしさん、
人は流行に乗りやすいのです。
こうなると、藤井君が、連敗しやしないかと、それが心配です。
乗りやすい者は、離れやすい……ということもありますから。
しかし、大丈夫。
今日も連勝を伸ばしたようです。

他の二人の先生はとっくに「飲んだ」と言っていました。
もちろんお酒です。(ジュースのはずがない)

私の退蔵金、どうしましょうかねえ……
いっそ、みんなで、ぱーっとやりましょうか。
帝国ホテル辺りで……(笑)
その時は、お手伝いをお願いいたします。

2017/06/10 18:10:55

いい傾向です♪

澪つくしさん

人は流行り事に影響を受けやすいものですが、
藤井聡太君の出現と奮闘は、子供たちにとって
この上ない良い影響ですね♪

大いに影響を受けて欲しいと感じています!

ゲーム機に夢中になっている子供の多さに
日本の未来を憂いていました!(チョット大げさ?)

今の子供も大人でさえも、頭を使わない、使い方を
知らずに育った人達が、いかに多いか?

いいですね〜♪
将棋部の希望者が増える事は、大いに結構!!

パトさんは好い事をしていらっしゃいますd(^-^)ネ!


退蔵金の使い道・・・ 如何しましょうか(^^♪

他にお二人の先生がおいでになるから、
難しいですよね〜!(トックニ ツカッチャッテマス〜?)

将棋で貯まったお金は、将棋に還元する 〜〜〜

まぁ〜!急いで決める事でもないですカラ〜♪

そのうち・・・
退蔵金が埋蔵金になるかもですね(*^-^)ニコ

2017/06/10 14:31:05

PR







上部へ