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『産経』コラム「新聞に喝!」が歴史歪曲の見解。 これに高嶋伸欣は「喝!」と言いたいです。 

2017年09月18日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



皆さま
高嶋伸欣です。

1 今朝17日の『産経』が、オピニオンページのコラム「新聞に喝!」で、また歴史歪曲(修正)の見解を展開しています。

これに私は「喝!」と言いたいです。

2 同コラムは、「米国による空襲被害を軽視するな」と題し、米軍による日本への無差別爆撃の事態と内情を解明したNHKの2本のドキュメント番組に注目しつつ、「空襲被害者救済の法案ができなかった原因として、新聞の責任は大きいだろう」と強調しているものです。

3 この結論に取り立てて疑問はありません。それにBS1で8月13日に放送の「なぜ日本は焼き尽くされたのか」の注目点は下記の事だというのにも異論はありません。

4 曰く「B29による日本への空襲は1944年秋から開始されたが、なかなか成果があがらず、指揮官は解任された。代わった指揮官がかのカーチス・ルメイ(06~90年)であり、夜間低空での焼夷弾による無差別爆撃に切り替えた。その最初が45年3月10日の東京大空襲だった。
ルメイが無差別爆撃をやってまでも空襲の飛躍的効果を求めたのは、当時は陸軍に属していた航空部隊を独立した空軍にしたいーという悲願が存在したからだという。現に戦後の47年には米空軍が創立されている。」

5 同番組についても新聞の事前紹介記事でも、上記の内容に愕然とし、怒りがこみ上げてきたとありました(『朝日』8月13日)し、私(高嶋)も同感です。

6 けれども、『産経』の上記コラム筆者が、米軍側が日本への無差別爆撃の理由として「日中戦争で日本軍が重慶爆撃を行ったからだ」としているのは不当だと主張しているのには、同意できません。

7 確かに米国側のこの理由付けには、コラム筆者の言う「重慶爆撃を取り上げるのは以前からよくある日本の空襲を相対化して、米国がその悲惨さをごまかす手法に倣ったものである」と言われても仕方がない一面があります。

8 けれども、だからと言って重慶に対する日本軍の無差別爆撃による「悲惨さ」までが相対化されたり、なかったりできるものではないはずです。
でも、そのことにコラムの筆者は知らぬふりです。さすがは「産経文化人」です。

9 それにこの筆者が知らぬふりをしている事柄がもう一件あります。
それは、日本軍の重慶爆撃も日本軍内の海軍が、盧溝橋事件以後の戦線拡大で軍事予算の急速な増額に成功している陸軍と張り合うという身勝手な理由で不可避的に強行されたものだということが、最近の研究で明らかにされているということです。

10 その第1は、「北支事変」を「日支事変」にエスカレートさせる契機の「第2次上海事変」は、日本海軍の謀略のシナリオによるものだったということが明らかにされている点です。

11 盧溝橋事件で「北支事変」に突入し、陸軍が軍備拡大に成功しつつあった当時、上海から南の地域は海軍が担当でした。戦線拡大のどさくさでの軍事予算増額の実現を目指した海軍中枢は、上海駐屯の海軍中尉・大山勇夫に「遺族の世話は軍が責任を持つ」などと因果を含め、意図的に上海の中国軍(中華民国軍)駐屯地に自動車で突入させ銃撃で殺害されたこと(「大山事件」1937年8月9日)をもって「第2次上海事変」を引き起こし、「北支事変」から「日支事変」への拡大に成功した、ということなのです。

12 このことを資料分析から明らかにしたのが、笠原十九司著『海軍の日中戦争』(平凡社、2015年)です。

13 笠原氏が同書で明らかにしている第2の事実は、「大山事件」という謀略の成功で一気に軍事費の増額に成功した海軍が重点的に配分したのが、渡洋爆撃が可能な長距離爆撃機部隊の増強でした。
後に「アジア太平洋戦争」の開戦(1941年12月8日)直後の12月10日のマレー半島(クアンタン)沖海戦で、当時の世界最強の英国戦艦プリンス・オブ・ウェールスとレパルスを撃沈し、世界の戦争の様相を一変させたのが、この時増強された海軍長距離爆撃隊です。

14 話題を元に戻すと、上海から南京に迫った日本軍に押されて、中華民国が重慶に首都を移すと、海軍はますます「好機到来」とばかりに九州、台湾や上海付近から重慶への長距離爆撃を執拗に繰り返し、その効果と必要性を強調することで、予算増額にさらに成功していったのだと、笠原氏は上記の著書で明らかにしています。

15 つまり、日本海軍機による重慶爆撃も、陸軍と張り合いながら予算獲得の名目にしたもので、純粋戦略的、戦術的必要性に迫られたものではなかった、ということです。
ルメイの空軍独立のための実績作りのためというのと、五十歩百歩の違いでしかありません。

16 しかも日本の場合は、そのようにして長距離爆撃機を無理にそろえた手前、真珠湾攻撃という奇襲作戦を提案せざるを得なくなり、対英米開戦の先導役を海軍が演じることになったのですから、謀略「大山事件」以後の海軍の責任は重大です。
その意味で笠原氏の上記著書の副題は「アジア太平洋戦争への自滅のシナリオ」です。

17 そして海軍の中で長距離爆撃機部隊の増強を主張し続け、実現させた中心人物が山本五十六だった、と笠原氏は指摘しています。

18 なぜ海軍のこうした責任がこれまで究明されず、山本五十六のすり替えられたイメージが戦後社会に定着したのか?
そこには生き残った海軍関係者による組織的な歴史歪曲(修正)工作があったのだとも、笠原氏は指摘しています。

19 このようにこれまでの盧溝橋事件以後の「日支事変史」と「アジア太平洋戦争史」の継続性について見直しの必要性を指摘した笠原氏が両戦争を一連のものとして見直した最新の著作が、『日中戦争全史 上・下』(高文研、2017年)です。

20 冒頭に「喝!」とした『産経』コラムの筆者は元東大史料編纂所教授の酒井信彦氏です。
史料編纂所教授が現代の資料である笠原氏のこれらの著作に気付いていないとは思えません。NHKの番組によって改めて注目されることになった日本軍の重慶爆撃の責任をうやむやにするという、歴史歪曲(修正)主義による手の混んだ駄文と言ったらいいすぎでしょうか?

21 折しも明日9月18日は日本軍の謀略による柳条湖事件で「満州事変」に日本中が引き込まれ、中国侵略が本格化した日です(日本では「敬老の日」とか)。

22 笠原氏のこうした研究成果がマスコミでもっと広く紹介され、歴史教科書の記述にも反映されるべきだと私は思っています。
*明日18日の新聞・TVは柳条湖事件をどのように報道するでしょうか。

以上 また長くなりましたが文責は高嶋です。
転載・拡散は自由です。
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参考ブログ記事
【謀略のシナリオ・大山中尉事件】その事実を歴史学的に初めて追及した「海軍の日中戦争」笠原十九司著

7月7日中国大使館で「日中戦争全史」について記念講演をする笠原十九司名誉教授

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