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小説・ルオムの森―9 

2017年11月14日 外部ブログ記事
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チゴイネルワイゼンは、スペイン生まれのヴァイオリニストであるサラサーテが作曲したヴァイオリン独奏曲。サラサーテは名人芸的な技巧で知られたスペインの大ヴァイオリニストで、ラロの「スペイン交響曲」など彼に献呈された作品も多いが、自己の妙技を最大限に生かす小品も自ら数多く作曲した。なかでもドイツ語で「ジプシーの歌」を意味するこの曲はもっとも人気があり、ハンガリー風の哀愁に満ちた旋律と奔放華麗な装飾音型が際立っている。それは、派手で劇的でありながら哀感を持ち合わせる技巧的なヴァイオリン曲として知られ、題名は「ジプシー(ロマ)の旋律」という意味をもち、いくつかのハンガリー民謡・大衆音楽の旋律を組み合わせて作曲されている。ロマの民族音楽とは、ジプシーたちの音楽のこと。彼らは放浪を常とし、西アジアや東部ヨーロッパを中心とした各地でぶどう収穫を始めとする季節労働者、あるいは音楽の演奏やダンスなどを披露する旅芸人として生活していた。彼らの音楽で大きな特徴として挙げられるのは、早さや強弱の変化、ヴァイオリンの弓を小さく動かして表す細やかなリズムと、自由で大胆な即興演奏。そして、ヴァイオリンという楽器の特徴を知り尽くした彼らだからこそ為し得た、離れた高さの音の間を、指を滑らせて繋ぐ左手の技法(グリッサンド奏法)の多様。また、哀愁を帯びた彼らの音楽は、西ヨーロッパの伝統音楽にはない、二つの増2度音程を持つ独特の音階(ハンガリー音階)が用いられている。
悪魔の力を借りないと演奏困難な「超絶技巧」ヴァイオリン楽曲のひとつと言われているチゴイネルワイゼンを、まさかこの少年が演奏するとは私には考えられなかったが、サラサーテは8歳のとき初めて公演をし、10歳のときにスペイン女王の前で演奏を披露したというから、そのまさかはあるのかもしれない。
 
そして少年の演奏は始まった。多くのキャンドルが揺れるルオムの森に、なめらかなヴァイオリンの音が響き渡ったそのとき、観衆は一瞬どよめいた。もともとこの曲の出だしの部分は強烈な印象を与えるのだった。その後人々は微動だにしない。ゆっくりと流れる旋律に酔いしれていった。私はほのかに遠い昔の思い出が蘇ってきた。手をつないで歩いた川土手の幾曲がり。別れたあとに豆粒ほどに見えた山手の家。スキー場で転んだ彼女を抱き起したとき、かすかに触れたふくらみの指先に残った感触。結婚という文字に恐怖を感じたときの思い出。別れを決断して書いた手紙。胸をかきむしりたくなるほどの悲しみ。決断するまでに揺れに揺れた心。長い間大切にしまっておいた手紙。二十歳の思い出は次々に湧いてくる。その後彼女が結婚したことを知ったあの時、聞こえてきたヴァイオリンの曲がチゴイネルワイゼンだった。
少年の演奏はルオムの森の木々の間を踊るように駆け抜けていく。揺れるキャンドルも曲に酔って踊っているようだ。演奏は突然最後の速くテンポの激しい場面になった。
その時、北沢せつこが弾かれたように突然立ち上がったが、私は次々に頭の中を駆け抜けていく思い出に浸っていたため、斜め後ろにいたせつこの様子に気が付かなかった。

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