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パトラッシュが駆ける!

男は泣くな 

2018年05月05日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

私は、情けないことに、時流から遠いところで、
生きている。
山口達也なんていう男の名を、ついぞ知らなかった。
いや、テレビも見るし、新聞も読んではいる。
その見方、読み方に、きっと、問題があるのであろう。

「何なんだ、この男は?」
「トキオのメンバーよ」
「何なんだ、そのトキオってえのは?」
「知らないの?本当に?」
「知らないから、聞いてる」
妻が呆れている。

テレビに映る、その男が、懺悔を言いつつ、
涙を垂らしている。
周囲をぐるり、人が囲んでいる。
取材陣であろう。
となれば、彼はどうやら、著名人であるらしい。
その彼が、女子高生に対し、わいせつ行為を働いたらしい。

その非を悔いているのであろう。
欲望に流され、つい、行為に及んでしまったのであろう。
ふと気が付けば、彼には、仕事がある。
仲間が居る。
名声もあるらしい。

もしかすると、それらを全て、失うかもしれない。
となれば、涙も出るかもしれない。
私は、その光景を、冷ややかに見ている。
四十六歳、いい歳ではないか。
バカだなぁ……
甘いなぁ……
泣くくらいなら、最初からやるなよ……
私は、テレビに向かって、つい、毒づいている。

 * * *

「男は泣くな」
きつく言ったことがあった。
相手は、小学生であり、私の囲碁の生徒であり、
だから言った。

囲碁の大会があり、彼は優勝をかけた戦いで、惜敗した。
負けが決まるや、俯いて、その目を、こすり始めたようだ。
「せんせ、K君が泣いています」
仲間の小学生が、控室に居た、私の元へ報せて来た。

やさしく慰める手もあっただろう。
「惜しかったね。次、頑張ろうね」とでも言って。
しかし、私は、敢えて一喝した。
彼の今後を、思ってやった。

K男は、怒られても、悪びれず、その後も変らず、
私の元へと、通って来ている。
碁も強くなった。
今春には、中学生になった。
もう、囲碁に負けて、泣くこともないだろう。

しかし、あれが、人生最後の涙であるわけがない。
まだまだ、この先、長く生きて行かねばならない。
泣きたい時も、あるだろう。
その時は、たんと泣くがいい。
但し、衆目を憚らねばいけない。
深夜にでも、一人静かに、泣くがいい。

 * * *

最近、私は、涙もろくなっている。
これが不思議なのだが、悲しくて涙を催すのではない。
逆である。
例えばこうだ。

燕のヒナが、巣から落ちました。
親鳥は、餌を探しているのでしょう、居ません。
急いで拾い、脚立を持ち出し、ヒナを巣へ戻しました。
親鳥は、何事もなかったように、戻って来ました。
そして、時折、首を傾げながら、何時もより長く、
私の方を見ています。
もしかしたら、遠くで、私のやったことを、
全部見ていたのでしょうか……
(長野県 小学六年生 男子)

なんていう短文を読むと、もういけない。
この男子の優しさを想い、うっすらと、
目尻が湿りを帯びている。
また、こんな文もある。

私が、期末試験を控え、勉強をしていた、
ある夜のことです。
「行ったらいけない」
鋭く、かん高い声が、響きました。

窓を少し開け、覗いたら、三軒先の宇佐美さんの、
おばさんでした。
その先を、キャリーバッグを引いて、遥(はるか)姉ちゃんが、
駅の方へ、急いでいました。
それが、私の見た、遥ちゃんの最後の姿でした。

あれから二年後、日曜日の、昼間のことです。
私は、高校生になっていました。
再び、遥姉ちゃんを見ました。
その胸に、赤ちゃんを抱えていました。
宇佐美さんのインターフォンを、押していました。
何度も、何度も……
しかし、出ません。
一時間も、門の辺りに居たでしょうか、やがて重い足取りで、
駅の方に戻って行きました。

その後でした。
宇佐美さんのおじさんと、おばさんを、その門の前に見たのは。
「行くんじゃない」
今度は、おじさんが、おばさんを、止めていました。
おばさんは、止めるのを聞かず、泣きそうな顔をして、
駅の方に走って行きました。
私は、その後の事は、知りません。
ブラスバンド部の、練習があり、登校してしまったからです。

そのまた、一年後です。
宇佐美さんのおばさんが、よちよち歩きの、
男の子の手を引き、歩いていました。
その後ろを、おじさんが、口をへの字に曲げ、
付いて行きました。
「行くんじゃない」とは、もう言いませんでした。
(東京都 高校生 女子)

これは、もしかしたら、笑うべき話かもしれない。
頑固親父め……
親は、子に敵わないことを、知らないのか……と。
私は笑いつつ、半面で、溢水の危機に瀕している。

さらに、こんな文がある。

朝、二本松のバス停で、バスを待って居る時でした。
ベンチに座っている、おばあさんの様子がおかしいのです。
顔が歪み、何かをこらえているように見えます。
「大丈夫ですか?」
私は声をかけました。
「ええ、大丈夫よ」とおばあさんは言うけれど、
とても大丈夫には見えません。
私は、どきどきしながら、携帯で、119にかけました。
救急車は、なかなか来ません。
バスの方が、先に来てしまいました。
これに乗らないと、学校は遅刻です。
でも、おばあさんを、放置するわけには、行きません。
私は、バス停に残ることに決めました。

これまでの二年間、私は、皆勤賞で、通して来ました。
三年になり、初めて遅刻をしました。
それも、二時限もです。
「どうした?」と担任の石黒先生に、聞かれました。
私は、他に人が居ないので、仕方なく、救急車に同乗し、
市民病院まで行ったことを、正直に言いました。
「そうか……」
先生は、何も言わず、腕組みをしていました。

次の週の、ホームルームで、先生は、この話をしました。
「みんなは、どう思う」
クラスの中に、ざわめきが起こり、やがて、教室中に、
拍手が湧きました。
私は、恥ずかしくて、もう、その場から、
逃げ出したくなりました。
(岐阜県 高校生 女子)

こう言う話がいけない。
目尻から……なんてものではない。
ダムが全面決壊し、周辺は水浸し……という事態になる。

美談がいけない。
テレビでも同じ。
ちょいと良い話、これがいけない。
油断していると、突然に来る。
あっと思った時には、手遅れになっている。

 * * *

卒業生一同による「門出の言葉」が続いている。
先生や、父母に対する感謝を、
一人一人が語りつないで行く。
歌舞伎でやるところの「割りセリフ」である。
トイレ掃除のおばさんや、通学路警備の、
おじさんおばさんにまで、そのセリフが及んでいる。

私は、人生の大半を、商人として生き続け、
金儲けに明け暮れた。
それが、縁あって、地元小学校に招かれ、
格別に、子供好きでもなかった私が、生徒らに、
囲碁将棋を教えることになった。
先生と呼ばれ、遂には、来賓として、
卒業式に列席するまでになった。

不意に、涙が滲んで来た。
生徒らとの、別れを惜しんで……ではない。
私の人生の、ここに至るまでを、思ってである。
この運命の変転を、とてもじゃないが、想像出来なかった。

卒業生が、来賓席の私達を見ている。
その中に、泣き虫だった、K男の顔が見える。
私は、あいつの手前、泣くわけには行かない。
この際とばかりに、奥歯を噛みしめ、
必死に、涙腺の決壊を防いでいた。



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わーい……

パトラッシュさん

月あかりさん、
泣いて下さいましたか……
読者を泣かせるのが、私の本日のブログの目的でした。
一人成功!
次は、どんな手を使いましょうか……(笑)

実を言えば、私も、書きながら(特に病院に付き添った女子高生のところで)涙が滲み、困っておりました。

2018/05/05 16:27:23

浦島太郎

パトラッシュさん

漫歩さん、
仰る通り、表沙汰になるのは、氷山の一角なのでしょうね。
芸能人の、特権意識もよくないけれど、それに、うかうかと乗る、ファンの方にも、困ったものです。

芸能人のことには(特に最近の若手については)まったくわからない私です。
事件があって、初めて知った次第、その音楽も、まだ聞いておりません。

2018/05/05 16:20:43

涙腺不全で

パトラッシュさん

山すみれさん、
気の早い、催涙患者ですね。
同じ症状の方が居て、安心しました。(笑)

恥さらしなんて、とんでもない。
山すみれさんの、縫い物は、既にして、芸術的境地にまで、達しております。
これからも、ご披露下さい。
俳句もいいですね。
楽しみに拝見しております。

2018/05/05 16:14:05

カタルシス

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
滑稽噺より、人情噺の方が、長く記憶に残りますね。
もちろん、演者にもよりますけれど。
アリストテレスが言うところの「心情の浄化」が、そこにあるのかもしれません。

2018/05/05 16:07:22

涙する

月あかりさん

燕の小学生

宇佐美さん親子を陰から見た女子高生

皆勤賞より素敵な拍手をもらった女子高生

そして喝と言う大きな愛情をもらったK男君


私は女ですが人前では泣きません、泣けないのです。
でもこれを読んでいるのは自分の部屋なので
ぼろぼろ泣いています。

こんな話に飢えていました。

パトラッシュさんありがとう。

2018/05/05 10:50:19

人気者の裏

漫歩さん

前段の話です。
「またやったか」「またやられたか」。
この種の芸能界の事は、私もパトさんの奥様が呆れる類の男ですが、極論すれば、或る種の世界ではこんなことは日常茶飯事ではないのか、と思っています。


後段の話は心に響きました。

その中で、前段の被害少女と後段の二本松の少女との対比、互いの生い立ちや家庭環境のことなど、様々考えさせられました。

2018/05/05 10:49:17

全く

山すみれさん

同じです。

読みながら、
ジン と来ました。

人一倍 涙脆いという事も有りますが
テレビドラマでも
女優さんが涙出てないのに
こちらは先にポロリなのです。



最近
お笑いも
大声でテレビに向かって
笑うこの頃です。

さんま さんのファンなのです〜♪



此処ナビにてで画像も俳句も縫い物も
恥さらしと
アップさせて頂き

私は 驚いて腰を抜かしそうです。
また御師に俳句を評価して頂き

人生で数える嬉しさ夏に入る

2018/05/05 10:31:55

人情噺

吾喰楽さん

おはようございます。

>これが不思議なのだが、悲しくて涙を催すのではない。

私も同じです。

人情噺という分野の落語で、文字通り、その人情に涙が滲んできます。
偶に、滲むを通り越し、流れることもあります。
不思議なことに、その後の気分が爽やかなこと。

2018/05/05 09:15:28

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