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チェコでピアノを弾くというのは・・。 

2015年07月25日 ナビトモブログ記事
テーマ:シニアライフ

翌日は、電車に乗って、5時間程だったか南下、ブルノに着いた。

ウィーン行きの電車だったので、そのまま居座りたい気分だったけれど・・。

さて、駅を出たら当然乗れると思っていたタクシーが、まるで見つからない。

止まっているタクシーらしき車も、わからない言葉ながら拒否されているのは理解できた。

あれは今にして思えばどうやら、正面出口ではなかったらしいのだが・・。

仕方なく、事前にガイドブック「地球の歩き方」で、比較的ホテルの近くまで行く路面電車を見つけていたので、やむなく最後の手段を使うことにした。


大きな荷物を引きずりながら、停留所に向かうと、「日本からきた人ですか?」という声が聞こえた。

振り返ると、小柄な初老の男性が、ちょっと恥ずかしげに笑っている。


「電車に乗るのですか?どちらに行きますか?」と、重ねて日本語で訊ねてきた。

ホテルの名前を告げると、「この電車が近くまで行きます。一緒に乗りましょう」と言って、私の荷物を持ち上げてくれたのだ。

訳も分からず、一緒に乗車すると、丁度ラッシュアワーの時間だったので、中は結構混んでいて、事情の分かる人が居たのはとても助かった。


「日本へ行ったことがあるのですか?」と、不思議に思って尋ねると、「いいえ、一度もありません。日本語は勉強して覚えました。日本の人のお手伝いができると嬉しいのです」と言う。

そのうち、電車が大きくカーブすると、「次の停留所で降りましょう」と言う。

私の記憶でも、電車がカーブした後は、路線がホテルから離れていく筈だったので、言われたとおりに降車すると、彼も又私の荷物を持って一緒に降りた。

そして、

「あの先に見える、大きな建物があなたたちのホテルです」というなり、ろくにお礼を言う暇も与えずに、彼は去って行ったのだった。


純粋に、好意だけだったのだ。


何となく茫然として立っていた私たちに、今度は「ハロー!」と声がかかった。

振り向くと、今回の国際会議の主催者、ピステックさんだった。


この国際会議は、創始者の中でもメイン・メンバーのスワヴェックが、主人の親友なので、各国の主だった人とも一緒に親しくさせてもらっているのだ。

今回は、チェコのピステックさんが、ホストなのである。


「今晩は。よかったら、一緒にホテルまで行きましょう」


そして、フロントでチェックインしている時に、ピステックさんが私に言った。

「お願いがあるのですが。明日のレセプションで、ピアノを弾いてくれませんか」

主人から、そんな流れになっているというのは事前に聞いていたので、一応準備はしていたけれど、もし偶然出会わなかったら、当日依頼するつもりだったのだろうか・・。


それでも、翌朝事務局に行ってみると、私係、といった風情の男性が、ピアノの試弾の為に、あらかじめ会場にに連れて行ってくれた。


そのピアノは「ボヘミア」という名前のブランドで、大学のホールにふさわしい、それなりの佇まいであった。

コンサート用に調律がしてある、という訳ではなかったけれど、やわらかい音色の、ヨーロッパのピアノであった。

その時弾いた、ショパンのバラード第一番に、よく合っていたと思う。

レセプションでは、一緒に食事をしているスワヴェックの顔が広いので、次々と周りに人が集まってくる。


ジョーク好きな人たちの集まりで、二年おきに開かれるこの会議ではいつも、延々とワインを飲みながら笑い声が絶えない。


「もう、こっちに移る事にする!」と言って、学生に椅子を運ばせる、エストニアのニキタさんとか。


そのうち、ピステックさんもやってきて、「十分飲んでますか?こっちのワインも試してください」と差し出したのは、「ピステック」というブランド。

聞くと、ご実家が有名なワイナリーなのだという。


英語を母国語としない人が多いとはいえ、ジョークの席こそ、最も私には馴染んでいくのが難しい。

でも、耳を傾けていると、10年位前には「昔、ユダヤ人のお爺さんがいてねえ・・」で始まったジョークが、最近では「昔、ロシア人がいてねえ・・」に変わったのは、時代の流れと言えるのだろう。


まあ、ピアノのお蔭で皆さんに顔を覚えて戴いて、私もろくにしゃべれないながら、楽しい時間を過ごしたのだった。

その時は・・。


さて、四年後。

成り行きで、行く前からレセプションのピアノは想定していた私だったが、着いてみると今回は、ホストがピステックさんではなくて、少し若目の見知らぬ教授に変わっていた。


朝、事務局に行っても、ピアノの話は出なかったし、ランチタイムにも色々懐かしい人には出会ったけれど、ピステックさんの顔は見当たらなかった。

どうやら、リタイヤしたらしい様子であった。

世代交代、という訳だったのだろう。

まあ、今回は演奏は無いなと思い、午後は街中を歩き回ったり、デパートを覗いたり、ゆっくり一人で観光を楽しんだ挙句。

レセプションの時間が近づいて、ホテルに戻り、パーティ用のドレスに着替えていたら、主人が会議から戻ってきて、「ピアノ、弾くらしいよ」と言う。

「今、会議が終わる時に、スワヴェックが、Is she ready to play the piano? って言っていたから、I hope so と答えておいたよ」と言う。


「えーっ?それじゃ、演奏用のドレスに着替えなきゃ!」


スワヴェックが、何を思っていたのかはわからない。

でもきっと、ピステックさんがホスト側に居ないので、最後に私に気を使ってくれたのだろうと思う。

だからこそ、それまでに何度も一緒に食事しているのに、何も言わなかったに違いない。

でも、演奏するということは、事前に心の準備が必要なのだとまでは、科学者のスワヴェックには、あずかり知らぬことだったらし・・。


会場に着くと、主催者側の教授が、「パーティの最後を飾って、弾いて下さいますか」というので、それからは殆ど、ワインも飲まず美味しい食事も食べずに、演奏まで我慢をしたのだった。


その時は、ラヴェルの「水の精」を弾く予定だったので、酔っ払い運転の様な真似はできない。


まあ、お蔭で皆さんに覚えて戴いて、二年後にリトアニアで開催された時に再会した、ジョーク好きのドイツ人は、主人に言ったのだった。


「奥さんの顔はよく知ってるけど、あなたは誰でしたっけ・・」



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初めまして。

シシーマニアさん

みのりさん、こんにちは。
コメントありがとうございました。

ウィーンは私の青春の地なので、ウィーンと聞くとテンションが上がってしまいます。

今後ともどうぞよろしく。

2015/07/26 09:31:08

ピアノの演奏

みのりさん

シーママさん

ウィーンでピアノの勉強を
されていたとか?

今も国際会議の場で
ピアノの演奏をされるようですね
素晴らしい人生を歩んできましたね
 憧れます。

*私も毎日ブログを更新しています。

2015/07/26 08:28:29

ジョーク

シシーマニアさん

吾喰楽さん、コメントありがとうございます。

ジョークがわかる様になると、パーティも楽しいのですが・・。

西洋の人は、子供の時から習慣になってるのでしょうね。

2015/07/25 09:58:37

習慣の違う場所は、楽しいです。

シシーマニアさん

Reiさん、コメントありがとうございます。
弾いた曲目は、思いついて後から書きくわえましたが、その前にコメントを戴いていました・・。
内容をきちんと読んでくださってありがとうございます。
ショパンやラヴェル等、自分の好きな曲を弾きました。

2015/07/25 09:56:21

ジョーク

吾喰楽さん

おはようございます。

ドイツ人のジョークには、笑いました。

有能なパートナーを持つご主人は、色々、助けられますね。

2015/07/25 09:34:19

外国で

Reiさん

様々な体験をされているのですね。そのような場所では、どんな曲を演奏されるのでしょうか?
興味が湧きました。

2015/07/25 07:38:08

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