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むぅびぃ・とりっぷ
韓国の華城(ファソン)連続殺人事件と「殺人の追憶」
2020年11月10日
テーマ:テーマ無し
「殺人の追憶」 2003年 韓国 原題:??? ??/MEMORIES OF MURDER「パラサイト 半地下の家族」で、圧倒的な韓国映画のパワーを見せてくれたポン・ジュノ監督の傑作作品の一つである「殺人の追憶」。ファーストシーンは、子どもの無邪気な顔のアップ。田んぼの中でバッタをつかまえようとしている。その牧歌的な風景の中で連続殺人犯人に殺された女性の死体が出てくる。蟻が、その体の回りをはっている。しかし、どことなくユーモラスな刑事とのやりとりで物語はスタートする。だから、扱っている事件は悲惨ながら、『この映画は最後までユーモア映画の味を残したままで進むのかな?』と最初は思いながら見ていた。知恵遅れの男が、犯人として捕まえられるが、事件は止まらず、次々と殺されていく女性が増えていく。刑事のいらだちは頂点に向かっていく。過労で死んでしまった刑事まで出るほどだ。そこでは、最初に感じたユーモラスなムードは影をひそめていく。犯人と思われる若い男と、対面した刑事が体ごとぶつかって格闘になる。そのとき、観客の心もその刑事に感情移入しているため、刑事の過剰な暴力にも心が同化する。いくら追いかけても、追いかけても犯人逮捕に届かない哀しみと苦しさが心憎いほどにうまく描かれていた。● 華城(ファソン)事件の犯人 イ・チュンジェ「殺人の追憶」は、実際に1980年代半ばに起った韓国の華城(ファソン)連続殺人事件を扱っている。ぼくがこの映画を観た時は未解決事件の一つだった。犯人が既に逮捕されていたことをつい先日、ネットニュースで読んで初めて知った。事件の犯人イ・チュンジェ受刑者(57)は、11月2日、法廷で「華城(ファソン)地域で起きた10件の連続殺人事件の真犯人なのか」という質問に対し、「はい、(私が真犯人に)間違いありません」このように短く答えたという。最初の事件が起きてから34年たって犯行を公開自白した。「なぜそんな事件を起こしたのか」という質問には、「今考えても、当時なぜそのような生活をしていたのか、正確に答えられない。計画して準備をして犯行に及んだわけではないため、理由は分からず、当時の状況に合わせて(殺人を)したのではないかと思う」と淡々と語った。証人席に座ったイ受刑者は、当初警察の取り調べで自白した通り、「真犯人の物議がかもされた第8次事件をはじめ、水原や華城、忠清北道清州(チョンジュ)などで計14人の女性を殺害した」と述べた。イ受刑者は1993年4月に忠清北道清州(チョンジュ)に転居後、1994年1月13日に自分の家に遊びに来た妻の妹に性的暴行を行ない殺害した罪により無期懲役を言い渡され、現在、釜山(プサン)刑務所に収監されていた。警察は、2019年9月、最新のDNA鑑定を駆使した捜査によって、刑務所に収監されていたイ・チュンジェを華城事件の犯人として特定。当時の裁判記録によると、犠牲となった義妹は首を絞められ殺害された後、手足をストッキングで縛られた状態でL容疑者の自宅から880メートル離れたところに捨てられた。華城連続殺人事件の犯行手法と類似している。●「華城(ファソン)事件は終わっていない」その事件を1986年から1991年まで担当した刑事のハ・スンギョンが、事件に関して本を出版している。この映画に関する感想を、「華城(ファソン)事件は終わっていない」という著作でこのように述べている。この映画にたいしては批判の声も多かったらしい。何よりも残酷きわまりない華城事件を多少、喜劇的に描写した部分が批判の標的になったと聞いた。実際の事件とはあまりにも違いすぎるとの主張もあったらしい。しかし、この映画に関しては私は何も言う言葉がない。映画の内容と実際の事件が同じでなければならないという主張は、常識的に納得がいかないうえに、映画の良し悪しについて語る資格は、私にはないのだ。 (中略)映画を観るあいだ私を苦しめたのは内容上の問題ではなかった。思い出したくもなかった恐ろしい事件が、スクリーンに映し出されるたびに、私は苦しみを感じた。8人目の犠牲者だった女子中学生のキム・ミヨンちゃん(当時14歳)の殺害現場と遺体を見せる場面で、私は思わず涙を流した。 (中略)華城事件の殺人魔は、抵抗する力もない中学1年生の幼い女の子の手足を縛り、カミソリで胸を切り刻み、70近い老婆をレイプし、陰部に見るも恐ろしい異物を詰め込む乱交を犯したのだ。それも9回もだ。これは人間にできることではない。誰でも犠牲者の遺体を目の当たりにしたら、利害関係とは関係なく、怒りに身を震わせたはずだ。一緒に映画を観ていた同僚も、キム・ミヨンちゃんの遺体が出てくる場面では目をそらした。静かに流れる涙ですら、言葉では言い表せない鬱憤(うっぷん)を抑えることができなかった。華城事件の犯人によって20年近くの長きにわたって与えられた回復できない傷と痛みだったため、その鬱憤はなかなか収まらなかった。結局映画を観たあと私と同僚は、無言のまま何杯かの酒を飲んだのち家路についた。● 翻訳した宮元尚寛氏の推理刑事の書いた、「華城事件は終わっていない」を翻訳した宮元尚寛(みやもと なおひろ)氏があとがきで犯人像を推理している。その推理が通常の発想の盲点をついている。「犯人は女ではないか?」と。以下、宮元氏のあとがきの抜粋。たわいもない話だが、私は本書を翻訳しながら自分なりにいろいろと推測してみて、一時、真犯人は女性ではないだろうか、と思ったこともあった。その理由は単純だ。何万人もの男性を調べたにもかかわらず、犯人がいなかったのなら、単純に女性だろう、という考えから想像がふくらんだのだ。真犯人が女性だと仮定した場合、体格が小さいことや、足のサイズが小さいことに説明がつく。まあ、今となってはこの推理がおおきくはずれたことが明白になったわけだが、当時はそれくらい犯人が捕まらずに謎の存在だったということだろう。それにしても、「計画して準備をして犯行に及んだわけではない」というイ・チュンジェ受刑者の言葉の真偽はともかくとして、長きにわたって彼の犯行を追いかけてきた関係者は今、どのような想いで彼の声を聴いているのであろうか・・・・・・。参照:『殺人の追憶』受刑者が自白…「私が連続殺人事件の真犯人です」
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