+++この物語は、毎日の生活に飽き飽きして色々悪
巧みを考える際に、読者にも大いに参考になる筈で
ある。悪巧み、万歳! 無論、六十七のデートもその
範疇に入る。
ニ.オリンピック
ネットの時代、会社では毎日大量の迷惑メールの受
信に悩まされている。
メールアドレスが公開されているから、イヤという
程やってくる。正確に数えたことはないが、平均日に
三百通はあろうか。 即座に削除するが、手間だけでも
苛立たしい。
ネットを飛び交うメールの九九%は迷惑メールだと
言われるが、その通りで六割ほどはセックス関係、残
り四割程が有名ブランドの偽物の売り込みや健康食品
とか違法ソフトの売り込みのようだ。
これほど多くの迷惑メールが繰り返されるのは「数
打ちゃ当たるーー」、つまり千通に一通でも引っかか
る読み手があって、効果があるからに違いない。
セックス関係が多いのは、それが人の性(さが)だ
からだろうが、因果なものだ。
例えば、削除した今日一日分のメールから拾い出
して、ワクワクしそうな「件名」だけを広げてみる
と:
・「下半身の診察をして頂けませんか? 良子」
・「男性も女性も参加出来るカップリングパーティ。
相手の交換も可能!」
・「人妻ですが、今夜主人が出張で居ません:恵美
子」
・「私、複数プレイが好き!」
・「女医です。今夜、個別診察の受付をします」
・「親密関係希望で〜す:はるな」
私なんか、件名を眺めただけで、ことごとく(女で
はなく)助兵衛な男連中がこしらえたメールだと判
る。これが見抜けるには修練が必要だが、モチ、私は
齢を重ねて修練は充分。
ウブな昔は件名を眺めただけで、全身がほてり鼻血
ブーとなった。が、最近では体の水気が抜けて枯れた
せいか、鼻血も干からびて食傷気味。これを人間が垢
抜けしたという。
そんなエッチメールで日頃鍛錬されているせいか、
最近ではオリンピックの百米走競技でピストル一発、
ブラとパンツ一丁で形相も凄まじく疾走するムキムキ
女の選手群を眺めても、こっちは全く無感動。むしろ
人間離れのした怪奇な現象と見て、下半身に「テント
を張る」事さえない。
このまま慣れ切って、骨の髄までやられた世界中の
男達が女に興味を失い、ついには人類が滅びるの
じゃないかと心配する。あれもこれも迷惑メールのせ
いである。
迷惑メールの数々を眺めていて、ある哲学者の言葉
を思い出した:「人生の重みに堪えるには、一般に一
つの可能性しかない。即ち、人にはある程度の軽薄さ
が必要である」 含蓄のある言葉だと思う。そこでー
ーー会社経営の重みに堪える為に、秋の日曜日私は軽
薄になってみる事にした。
(つづく)
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