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女を幸せにできない男(28) 

2013年01月27日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



女を幸せにできない男(28)

 渋い顔をした茂が、
「俺の日頃の行いも、そりゃあ立派とは言えないさ。だけど、益代のやって来たことは、その次元じゃないと思う。店の再開の為に家賃を払い、その為の預金、娘の養育費とくりゃあ、そりゃあ金もいった事だろうし、益代が何処に行ったか、俺には見当がつかなかった時間のことも、娘に会いに行ったり、店の掃除に行ったりだったと分かる。でも、俺は許されないことだと思う」
 横に座る茂の顔を、上半身をねじるようにして、じっと見ていた益代が、
「許してもらえないの」
 そう言いながら、今にも泣きそうだ。
「いやいや、益代さんにしてみれば、君に嫌われたくないが為の、そのぅ、なんだ、逆に言えば、それだけ君の事を思っていた、嫌われたくなかった、という事じゃないだろうか」
 春日部らしくもなく、あわてて、仲介に入るような言葉を口にした。
「はい、春日部さんが言う通りだと俺も思うし、そうしてでも俺と一緒に居たかったという益代の気持は、うれしいといえばうれしいです。俺の為に、あの店を諦めず、一生懸命やってくれたことも。それに比べて俺は、小遣いもくれない、なんて思い、ノミ屋に手を出しちまったりして。でも、益代はやっちゃあいけない事をやっています」
 茂の生い立ちを思い出し、ああ、そういうことだろうな、と春日部は思ったが、敢えて、茂の口から、その事を言わせようとした。
「中島、どういう事なんだ。益代さんにも、私にも分かるように話してくれ」
「俺が許すとか、許さないとかいう問題じゃない、益代。俺に対してじゃないだろう。娘に対して、取り返しのつかない、申し訳ない事をしているだろう、って事だよ。益代と俺が一緒に居る以上は、俺も同罪だ。そりゃあ実家では、おじいちゃん、おばあちゃんに可愛がってもらって、俺のガキの頃のように、一人で留守番をしながら、母親を待っているのとは違うだろう。でも、いつ来るとも分からない母親を待っている、そんな益代の娘の気持だって、俺のガキの頃と同じだろうよ。いくら血が繋がっていても、実の親に勝るものは無いはずだ。益代の娘をそんな目に遭わせているのは、俺の所為なのか、俺がしっかりしていなかったからなのか。会わせてはもらえないが、俺だって子供がいる。その事も言ってあるじゃないか。俺と益代の条件は同じだろう。どうして話してくれなかった。全てを打ち明け、籍を入れて、俺の娘にしちゃあいけなかったのか。そんなに俺が頼りないのか。やればいいんだろう。やれば。店だって、立派に再開してみせる。最初から、下働きの一人も雇って、ちゃんとやってみせるさ。正月が明けたら、益代の親に挨拶だ。その足で入籍もなぁ。と、同時に娘も引き取り、再開した店の最初からを、娘にも見せてやるのさ。俺、これから、自分の家族の歴史を作ってみせる」
 茂が少しは感情的になり、口調も激しくなると思っていた春日部が、茂の話に聞き入っていた。ゆっくりと言葉を区切りながら、その穏やかな口調は、春日部以上に、益代に信頼感を与えたようだ。その茂の目をじっとみながら、益代が茂の話しを聞いている。
「家族が増えるなんて、俺に子供が出来るなんて、すっげぇ〜!そうですよね、春日部さん」
 そう言った最後だけは興奮気味に、万歳をするように両手を挙げた茂だ。
 大阪での、子供との別れは、茂にとって、この上なく辛く、悲しい出来事であったのだ、と、この時、春日部は思った。

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