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書き物屋(死ねない男と死にたい男) 6 

2017年07月22日 外部ブログ記事
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書き物屋(死ねない男と死にたい男)6

 磯田はIT・モバイルなどには興味がない。
 脳のリハビリには新聞全国三紙を定期購読、すなわち配達されるそれらの隅々までを読むことによってその用に足していた。
 それもおおよそ必要のなくなった今では、日々かさばっていく新聞の処理が面倒だからと勝弘の家に配達をさせている。
 勿論、購読料は磯田が支払っているのだが、無駄なら新聞を止めてはどうかと、いくら勝弘が進言しても、
「洗剤や何やかやとおまけ付きで、しかも三カ月は無料だった。あの勧誘員の自腹かもしれねえじゃあねぇか。まっ、元を取らしてやらなきゃなってことよ」
 そう言って勝弘の言うことなど聞こうとはしない。
 それらの新聞を指定のごみ収集日に出そうとして整理していた勝弘の目に留まったのは、国会閉会中の参考人招致の記事だった。
 読売の日ごろからの政権寄りの記事が鼻につかないではないが、朝日・毎日の両紙が問題の核心の一つといえる元愛媛県知事の発言をなかったかのような扱いにし、前川出会い系バー視察前事務次官を英雄のごとく扱っている記事には反吐が出そうな思いの勝弘であった。
 出会い系バーに通う女性に貧困者はまずいないと、ネットで検索した出会い系バー専門の女性ルポライターの言い分を目にした勝弘は、この前川という男を毛嫌いしている。
「国民は国家公務員を選ぶことはできん。そうなら、国家公務員の資質を問われるような問題は、国民が選んで構成されている政府が積極的に国民にリークすべきだろう。それが事務次官であったような男が事務次官当時に行ったことであれば尚更だ」
 紙面に目を落としたままでの勝弘の独り言だ。
 政権のどちら寄りだろうがフェイクだ、偏った記事はすべてフェイクだと勝弘は思った。
 大手マスコミの偏った記事の行き着いた先が、アメリカではトランプだったのではないかと勝弘は思った。
 この国ではアメリカと同じことは起こらない、とは言い切れないと勝弘は思っている。
 勝弘が運転する車の中で「お国が亡びるぜ」といった後、大笑いをした磯田が昨日、その理由を勝弘に言った。
「首相が官僚やそれを取り巻く既得権益者たちから仁義なき戦いを仕掛けられているのは、首相に覚悟と決断がなかったからだ。首相の座を賭しても日本国国家のため、日本国国民のため岩盤規制を打ち抜くという覚悟があれば、そのために俺がトップダウンで行ったこのことに何の文句がある。すべて俺の責任だ、さあどうすると開き直れただろうよ。そうであったなら元愛媛県知事の言い分も、もっともっと大きく聞こえただろうし、そりゃあ国民受けもよかったに決まっている。マスコミ受けだった良かったかもしれねえなあ。なまじ国家のトップの椅子にしがみついて、周りの声を気にしすぎ、いつの間にか覚悟が消え、開き直る決断もできなくなってしまったってことよ。過去、俺のいた世界も、政治の世界もたかだか人間の世界のことだ、たいして変はりはねえなあと可笑しくなっちまったのさ」
 ここに磯田が来て二日目に風呂場で磯田の背中を流した時、磯田の背中の天女の白い羽衣に三か所の刺し傷痕を見た時から、勝弘は磯田の正体を知っている。
 アウトローではあっても、磯田は覚悟を持って決断をするという人生を歩もうと努力してきたのだろうと勝弘は思った。
 そして、そうでなかった時には窮地に落ちそうになったに違いない。
「決断のできない者には、覚悟がない。覚悟のないものには最良の決断ができない」
 勝弘の脳裏に、磯田の言った言葉が響いていた。

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