メニュー
sheeperの書庫
女を幸せにできない男(27)
2013年01月26日
テーマ:テーマ無し
女を幸せにできない男(27)
「でも益代、俺のことはどうでもいいが、春日部さんの頭越しに、そんな事をしたっていうのは、春日部さんの面子が丸潰れという事だ」
益代が、スローモーションを見るように、ゆっくりと項垂れた。
「中島、そんな事は気にしなくてもいい、私の事は気にするな。坂本さんにしても、私の耳に入れて、私を煩わしたくないと思い、敢えて、私にも話さなかったんだろう。彼はそんな男だ。誰にという事ではなく、彼自身が思うところがあっての、君に対する純粋な気持ちだと思う」
後日、春日部が坂本に会って話をすると、俺が面倒を見なきゃあいけないところを、あんたにみてもらった。俺だって、少しは面倒をみてやらなきゃあと思ってなぁ。あいつの腕は確かだ、必ずいつかはと思ってさ。それに、これは俺自身が、俺自身を納得させる為にしたことで、誰にというわけでもなく、俺自身の気持の問題だ。それに、あんたに言えば、そうさせてはくれなかっただろう。と、やはり、春日部が思っていた通りの言葉が返ってきた。
春日部の言葉を聞いても尚、
「でも、春日部さん」
と、気に病む茂に、春日部が言った。
「いや、本当に気にするな。坂本さんには、ちゃんと私から、お礼を言っておく。そんな事よりも、益代さんの気持を大事にしてやるんだな。勿論、坂本さんの気持もだ。後は、益代さんが言うように、君の決断だ。散々、いい勉強をしてきたじゃないか。もう大丈夫だよ、私は店の再開に大賛成だ。そうすることによって、みんなの気持に応えることだ。店の再開、それが、今、君がしなきゃならんことじゃないのかな」
茂が小さくだが、真剣な顔で頷いた。その目には、先程のまでの茂とは違い、活力と気力が満ちている。
アパートから店に寄って取って来たと、益代の手づくりの、お節料理を広げた。お口に合いますか、と聞く益代に、
「旨いに決まっている」
といった春日部の言葉が、今の春日部の気持を表していた。
益代には、もう一つ、茂に話しておかなければならないことがあった。隣県から十年前に帰郷した益代は、その当時、一歳になろうかという女の子を伴っての事であった。その子は益代の実家に預けられたままだ。妻子ある男との間になした子である。その子の難産で、子供を産めない身体にもなっていた益代だ。その事を茂には話していないままの、茂との八年間であった。
籍を入れるとなると、茂を実家に連れて行かざるを得なくなる。その事が明らかになるのを恐れたのだという。頑なに入籍を拒絶した理由である。
益代が、その事を茂に打ち明けた。
覚悟を決めたように、益代が茂の顔を正面から見ている。
春日部が、茂の反応を見るように、その表情を窺っていた。
小説 ブログランキングへ
>>元の記事・続きはこちら(外部のサイトに移動します)
この記事はナビトモではコメントを受け付けておりません