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覗けば漆黒の底(22) 

2014年04月22日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



覗けば漆黒の底(22)

 声を潜めての会話が終わった原西刑事が携帯電話の会話を終えると、芳村の席に戻る前田警部補の後ろに従った。
「いろいろと忙しそうだから、この辺で俺は引き上げるよ」
 そう言って腰を上げかけた芳村に、前田警部補は両手を二度ばかり下に降ろすように振り、それを止めた。
「今から話すことを聞けば、俺の頼みを断れなくなるが、どうする?」
 そう言われた芳村には、何のことかおおよその見当がついた。
「何なのかは、およその見当はつくが、その頼みは警察官としての、捜査機関からの正式なものか、それとも友人としてか?」
「両方だ」
 芳村が苦笑いをする。
「記事にもできないし、友人としての大きな義理人情も絡むということだよな」
「さすがに親友だ、察しが速い」
 もう一度苦笑いをしながら芳村が言った。
「こういう時だけは親友なのかい。日頃は親友に対して滅法口が堅いよなあ」
「借りは返せるときに返すさ」
 借りを作らせてくれ、という前田警部補の言い回しに、芳村が今度は真剣な顔でうなずいた。
 喫茶店のマスターに目配せをした前田警部補が、奥の区切られた席に移動しながら、そこを指さし、時計を見て店を気遣った。
「予約があっても、この界隈のマダム連中の、昼めし時のお喋りだろう。この時間なら構わないよな。コーヒーのおかわりを頼むよ」
 前田警部補が注文したコーヒーが出てくれば、あとは邪魔も入らずに話せる、そう思っての沈黙かと芳村は思っていた。
 コーヒーカップの底が見え始めたころ、梶木警部補が一人を伴って席に着いた。
 席に着いたまま梶木警部補が、周りに目立たぬように芳村と名刺交換をすると、何から話そうか、と言葉を選ぶように俯いたまま芳村に聞いた。
「多治谷のことについては?」
「それなりに調べさせてもらいました」
 それなら、と、顔を上げた梶木警部補だ。
「そうですか、それなら話が早い。うちの県警の暴対本部にA県警から、多治谷に絡んで、例の無理心中事件の洗い直しの依頼がありました。もっとも、多治谷があの事件の両名の死について直接に関わっているということではなく、小関が起こした無理心中事件であることは、もう結論が出ていますが」
 そう言葉を繋げた梶木警部補が、隣に座った男の顔を見た。
「A県警の向井です」
 梶木警部補の時と同じように、座ったまま芳村と名刺交換をした向井警部が、梶木警部補の話しの続きを始めた。

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