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覗けば漆黒の底(47) 

2014年06月11日 外部ブログ記事
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覗けば漆黒の底(47)

「あの青木の娘がお前さんの姪だったとはなぁ」
「登希子からそうだと聞いたときには、少々のことじゃあ驚かないこの私も、流石に腰が抜けそうだった」
「大学生の時に帰省した登希子さんが、青木の毒牙にかかって産んだのが青木舞彩か。うちの組にいた頃から、そっちが専門で飯を食っていた男だったからなあ。そりゃあ、とてもじゃないがヤクザなんぞには見えなくて、学校の先生と言っても、それで通るような男だった。それが今度は加奈枝さんに目をつけて・・・」
「あの男にすれば、登希子の延長線上で金になる女だったということでしょうね。登希子が産んだ舞彩を無理やりに引き取った青木は、子どものない自分の女房に舞彩を育てさせ、養育費だと言っては登希子の親から金を引き出し、登希子が弁護士となってからは、今度は登希子から直接だ。私の所為で隙を作らせてしまった加奈枝が、青木の次のターゲットになってしまった。美容院とフェイシャルサロンの経営者で、女ざかりの香奈枝を格好の獲物と思えたのでしょうね」
「青木は加奈枝さんが登希子さんの妹だと知っていたのかい」
「知っての上で、それをネタにしての加奈枝への接近でした。そりゃあ紳士的に、同情を買うように、舞彩のこともネタにして接近してきたようですね。加奈枝をすっかり信用させた青木は、ホテルのバーに加奈枝を呼び出し、おそらく飲み物に睡眠導入剤を入れたんでしょう。動けなくなった加奈枝は、そのまま青木がそこに予約していた部屋に連れ込まれ、シャブを打ち込まれて青木のやりたい放題だったようで、しっかりと、青木に前も後ろもはめ込まれた写真を撮られ、後は、度々呼び出されてはシャブを打ち込まれて、今度は小関と二人におもちゃにされ、二人から同時に、前と後ろからはめ込まれた写真まで撮られていました。それらをネタに、貯金もすっかり舐られていたという、あいつらの手口だ」
「写真はお前さんが回収したのかい?」
「ええ、そうです」
「そりゃあ辛かっただろう」
「写真そのものには何も感じなかったと言えば語弊があるが、そんな肉体よりも、どれだけ加奈枝の心が痛んでいったのかと思うとねぇ、そりゃあ堪りませんわなあ。シャブ漬けにされた行為の最中であっても、私を裏切っているという気持ちがあったのかなと、そんな気持ちも湧かないではなかったが」
「お前さんも俺も、女なんかの肉体にゃあ固執もしねえし、縛られもしねえからなあ。肉体や外面よりも心だわさ。自分についていた若い野郎どもに対しての考えもそんなものだったわなあ。それがヤクザとして身内の結束を図ってきた俺の、未だに染みついて抜けねえ過去が残した因果だし、現役のお前さんとすりゃあ尚更だわなぁ。組織に、自分の立場に傷を残すような裏切りだけは御免ってこったな。特にお前さんの今の立場は、組織そのものだ」
「どんな事情があろうと、ほんの少しだろうが作った心の隙の結果は、夫婦の貯金も使い果たし、家庭という組織も崩壊させた。利用されることもない割り切った肉体だけの浮気なら、こっちは見てみないふりだけですんだんだが」
「おいおい、家庭が、夫婦が組織なのかい?お前さんのそんな考えが加奈枝さんのあんな結果を招いたとも言えるぜ」
「それは認めています。ちょうどその頃は、いろいろとあって、加奈枝を振り向くという時間もなかった。時間があれば、登希子と会って病気の治療の話しばかりだった。元々、一年に半月ばかりしか家庭にいない夫というものに無理があった。今になっては遅いが、こんなことになるなら、私のすべてを話し、それを受け入れてもらえなければ、一緒になるべきではなかった。一年間に数日の、自分の心の安住の場所だけを求めたエゴに、天罰が下ったということです。おまけに、たった一人の身内である登希子の命がいよいよだ」
「お前さんが益川正臣という仮面を被っていなくて、多治谷正臣だとあいつらが知っていりゃあ、そんなことにはハナからならなかったんだが、お前さんを多治谷という大悪だと知っていたんだから、いずれかの時点で兄妹の名乗りをあげ、青木のことを相談するという選択も登希子さんにはあったと思うんだがなあ。そうしときゃあ、加奈枝さんがあんなふうには・・・」
「磯田さん、大悪は余計だ」
 磯田が頭を少し前に傾け、右手を軽く上げて悪かったと意思表示をした。
「そうしようと思ったこともあるようです」
「やはり、そうなのかい」
「いつも言うようですが、人の心の壁は漆黒で覆われていて、その鮮やかな黒の漆に映し出される色が反射し、心の底に溜まって混ざり合うと、本人だって、その色が何色なのか分からなくなるんじゃあないでしょうかねえ」
 そう言った多治谷が、珍しく大きくため息を吐いた。

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