メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

飲んで歩けば 

2010年04月16日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し


4月13日。
私は一日中、東京の街を、ほっつき歩いていた。
一人ではない。
友人の山靴と、アリナミンが一緒だ。
だからいけない。
三人がん首を並べると、大体において、ろくなことにならない。


すぐに酒を飲む。
飲むと気勢が上がる。
「徒党を組み」そして「付和雷同する」。
これらは、私達のためにある言葉かもしれない。


一方で、似合わない言葉もたくさんある。
「清遊」「清酌」「清談」など、要するに、清らかなことが、
出来ないのである。
「清掃」なんか、まるでダメだ。


昼飯を食べようと、茅場町の「みかわ」に行った。
裏通りの古長屋の内部を、とりあえず客を迎えられるようにと、
造作したような店だ。
小ぎれいとは言えず、しかしながら、風格があるとも言えない。
店の名も、古看板に、ぽつんと小さくあるだけだ。


「天ぷらというのは、魚の脱水作業だと思うのです。
油は揚げる力を持っていますから、その中で魚の水分をどれだけ抜いた時、
魚が生で食べるとき以上のうまさになるか、
天ぷらという仕事をつきつめるとこうなるのです」
この店を創業した早乙女哲哉さんの言葉だそうだ。
(今は、そのお弟子さんが、後を継いでいる)


エビ、メゴチ、アナゴ、イカなど、どれもその言葉通りに、
素材から完成品へと、見事な変身を遂げていた。
「日本一の、天ぷら屋なんだ。ここは」
山靴は、これまで散々に、自分のことのように自慢していたけれど、
それもあながち、誇張ではなかった。


超辛口の酒が、よく合った。
真っ昼間から、テーブルに徳利を並べ、
大声でウマイウマイと感激していれば、それはいやでも目立つ。
隣席のOL達に、蔑みを含んだ目で、にらまれたのも、
仕方のないことだと思っている。


いい気持になって、それから水上バスに揺られ、隅田川を浅草へと上った。
よくこんなに、乗る客が居るなと、感心するくらいに、船は満員であった。
外人さんが多い。
それに修学旅行の中学生もだ。


名にし負う墨水(ぼくすい)の、その長堤の桜は、盛りを過ぎたものの、
まだまだ捨てたものでないところ、さながら熟女の風情があり、
臈(ろう)長けた年増女の好きな私達は、ますます意気軒昂となった。


東京新名所の、スカイツリーへ、歩こうとしたのだが、
さすがにこれは無理だ。
既にして、三人の足並みが揃わなくなっている。
アリナミンと山靴では、その歩幅が、三割も違うのである。
「ツリーなら、そこらで、幾らでも見えるじゃない」
たまたま道を聞いた、タバコ屋のおばさんにまで笑われた。


「どうしよう」
「少し早いけれど、行っちまおうよ、根岸に」
「何てえ店だっけ?」
「鍵屋」


「根岸の里のわび住まい」で知られる、あの根岸に向かった。
大正初期に建てられた、古い民家だと聞いていたが、それも本当であった。
「居酒屋かい?ここが・・・」
どう見ても、しもた屋であり、しかもその門が、固く閉じられている。


5時に開店だそうだ。
私達は、張り込み中の刑事みたいに、そこらをウロウロしながら待った。
そう言えば、みかわでも、路地に立ち、席が空くのを待った。
「待つくらいなら、死んだ方がましだ」
何時も、口癖のように言っていたのは、誰だ。


柱も壁も天井も、黒光りして、本当に、
大正時代にタイムスリップしたようだ。
みそおでん、ウナギのくりから焼きなど、料理もまあまあ。
白髪で、痩身で、気難しそうに見えた店主も、話してみれば、
気さくであった。


芝居に出させたら、飄々とした脇役になれそうだ。
そう、裁判長役なんか、ぴったりだと思う。
法廷から帰宅し、妻に帽子を渡しながら、
「今日は、はぁ、わたしぁ、疲れたぁ」と、笠智衆のように、
ため息をつきながら呟くといい。


さあ帰ろうと、鶯谷の駅に向かったら、いい匂いがして、
店に人だかりがしている。
もつ焼きが、店頭にズラリと並べられ、
その数ざっと2〜300本もあろうか。
一本70円。
立ち飲みの店だ。


「いいなぁ」
「寄ろうぜ」
で、もつ焼きの煙を浴びながら、三人、道に突っ立って、
コップ酒をやった。
酒飲みなら誰でも、こんな下品なことを、
やって見たいものではないだろうか。
思いませんって?
えらい。
それは、あなたが紳士だからだ。


「蕎麦でも食って、けえらねえか?」  (私、紳士ではありません)
「いい店がある。ちっとばっかし、遠いけんどね」 (山靴、〃)
「かまわねえ、行っちまおう」 (アリナミン、〃)
「かなり電車に乗るよ」   (山靴)
「けっこー毛だらけ」    (私)
「猫灰だらけ」       (アリナミン)
私達が、お笑いのトリオを組めば、
少しは売れるのではないかと思っている。


連れて行かれたのは、「長明寺蕎麦」
西武池袋線なんてのに、私は生まれてからこっち、
三度くらいしか乗っていない。
そこの、石神井公園駅下車。
もう、右も左も分からない。
何たることだ。
今時の東京で、駅から5分も歩くと、そこには畑が広がっていた。


何の変哲もない店だから、今度こそ、騙されたかと思った。
しかし出て来た、その二八蕎麦の美味いこと。
ここでも当然のように、テーブルに徳利を並べた。
私達の場合、飲食店に入って、食い物だけで終るってことは、
あり得なくなっている。


帰ったら10時近い。
「メール入れたのに、見なかったの?」
妻に怒られた。
私は、妻のために、携帯を首から下げているようなものだ。


「はいこれ」
「何なの?」
「みかわで貰った、揚げ玉」
「やあねぇ、どうやって食べるの、こんなにたくさん」
「明日は、うどんか蕎麦にしておくれ。浮かべるんだ、汁の上に。
それに味噌汁にもいい。お好み焼きに入れりゃ、もっとうまいぞ」
「やあねぇ、食べきれないわ」
てっきり喜ぶと思った妻が、ご機嫌斜めであった。
それもそうだ。
天ぷらならともかく、揚げ玉とは、別名天かすとも言い、
つまりはカスであり、漢字で書けば残滓であり、
もっと突き放せば、産業廃棄物だ。


遠からず、みかわにお連れします、
本物を食べさせますとの約束手形を切って、その場を逃れた。
30日手形といったところだ。
多分、落とせると思う。
長明寺蕎麦の方は、余裕を見て、60日手形にした。
これも、何とかなるだろう。


みかわの天ぷらのことは、詳しく語らないでおいた。
妻は、アナゴが嫌いだ。
それに、ウナギもだ。
ドジョウもだ。
死んでも食べないと言っている。


みかわの天ぷらなら、アナゴと気付かず、食べてしまうのではあるまいか。
黙っていて、食後おもむろに、言い出せばいい。
これ、嫌がらせではない。
食わず嫌いを払拭する、いい機会だと思っている。

]]>

>>元の記事・続きはこちら(外部のサイトに移動します)





この記事はナビトモではコメントを受け付けておりません

PR







上部へ