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北軽井沢 虹の街 爽やかな風
小説その12
2016年02月26日
テーマ:テーマ無し
28年も前の話なので、爽太の記憶力もやはり少々前後が怪しくなっている。というのは、この話が最初の年の2008年か翌年の2009年か定かでないのだ。
どちらにしても季節は秋。爽太は千恵子とドライブに出かけた。有料道路のチケットを手に入れて初めて行った万座ハイウエイに再び向かったのだ。
「この山がすべて紅葉するのが見てみたい」と言っていた千恵子の胸は躍っていた。
料金所を過ぎるころから徐々に紅葉した山々が見え始め、次のカーブを曲がったところから目の前に現れた一面の紅葉に二人は思わず叫んだ。「うわ〜・・スゴイ!」爽太は、これが紅葉か、と眼をみはった。そしてできることなら車を止めたかったが、後続車がいたのでしばらくそのまま進んで、車を止められるところまで走った。左側に広いスペースがあり見晴らしの良い場所があった。目の前に広がる山々の紅葉は、想像を絶するものだった。
山の色がこれほど変化するとは、今までにも何度も紅葉を見てきたに違いない爽太は、その時初めて紅葉の素晴らしさを体感したのだった。しかも振り返ると遠くに浅間山がそびえている。二人はしばらくこの自然の中に身を置いた。千恵子は両手をひろげ深呼吸をしながら「空気がおいしい」とつぶやく。
万座温泉を通り過ぎ、いよいよ国道292号へ出た。前回はここから右折して草津温泉へと向かったが、今度は左折して志賀高原方向へと向かった。標高が高い為、大きな高い木はほとんどなく、はげ山のような形がそのまま紅葉している風景は初めてみる。爽太は、その自然の美しさにあっけにとられてしまった。国道292号は日本で一番標高が高い位置を走っている。この道路は群馬県吾妻郡長野原町を起点とし、長野県を経て新潟県新井市に至る延長113キロの路線で、上信越高原国立公園を縦貫し、群馬県、長野県、新潟県の地域を相互に結び地域の生活、産業、観光を支えている重要な路線だ。そして群馬県と長野県との県境付近に「日本国道最高地点」の石碑がある。ちなみにその標高は2172mだ。そこからは眼下に草津温泉が見えるが、ぐるりと見回すと山々に囲まれて風も強い。標高が高い為、冬になると積雪が多く例年11月初頭から翌年4月下旬まで冬季閉鎖となり、峠周辺はスキー場に姿を変える。従って、冬は草津方面からはここへはくることができない。
さすがに千恵子もここへは来たことがないという。初めてみる景色に二人は興奮冷めやらぬまま志賀高原へと進んだ。志賀高原にはたくさんのスキー場があり千恵子が行ったことのある丸池スキー場はそのうちの一つだ。丸池まで車を進めたが千恵子は当時の様子に記憶がよみがえることはなかった。爽太にとっても初めての場所なので、この辺りで引き返すことにした。そして群馬県に入ってしばらくすると広々とした草原のような場所があり、思わず「止めて」と叫ぶ千恵子の声に爽太はブレーキを踏んだ。
ドアを開けて外へ出た千恵子は、しばらく下を見ながら歩いていた。爽太は車のそばでそれを見ながら気持ちのいい景色に見とれていたが、「ビニール袋!ビニール袋を持ってきて!早く!」という千恵子の声にはじかれたように車内のビニール袋を探した。
ビニール袋を持って千恵子に近づくと「見て!これブルーベリーよ、ブルーベリー!」。
自然の中に育ったブルーベリーの木がそこにはたくさんあるという千恵子は興奮していた。
爽太はもちろんブルーベリーの木など見たこともなく、どれどれと身をかがめて低い木を覗いてみた。それらしき実がポツリポツリと見える。千恵子はそれを一つ口に含み、間違いないと断定する。もう時期が過ぎていたのかそれほどたくさんはなかったが、こんなところでブルーベリーを見つけるなんて、と驚きと喜びにはしゃぐ千恵子。幸運にもその時、誰もいなかったのが幸いだった、ということが後になってわかった時、二人は思わず顔を見合わせてしまったのだった。ここにはいつも監視員がいて、もしも見つかっていたら大変なことになっていたのだ。以来、当分の間この話は「ビニール袋事件」と名付けてことあるごとに話題にして笑ったものだった。
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