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北軽井沢 虹の街 爽やかな風

崖物語―2 

2016年12月21日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し
















その笑顔に引き込まれるように岩本五郎も明るく挨拶を交わし、尋ねられるままに今からジェロニモの滝へ行ってみるつもりだと話した。するとそのスタッフもちょうど休み時間なので滝の写真を撮りに行く所だという。二人は自然に並んで歩き始めていた。聞きもしないのに老スタッフは勝手に話し始め、このスウィートグラスで最年長の73歳だという。この地に移住してきて9年目と話す老スタッフはやけに明るい。ついつい話に誘われ、岩本五郎もここに来たいきさつをいつの間にか話し始めていた。そして岩本五郎がすっかりすべてを話してしまったことに気付いたとき、二人はジェロニモの滝の前に来ていた。丸太のベンチに腰掛けた二人は思わず顔を見合わせてほほ笑んでいた。
 
老スタッフには、ちょうど同じ年頃の息子がいた。高校3年生の孫もいる。岩本五郎の息子も生きていればもう大学生だ。老スタッフはそれからゆっくりと話し始めた。自分の夢も含めて、噂のある新しい企画について、このキャンプ場の理念についてポツリポツリと話していくうちに老スタッフはまるでそれが自分の仕事であるかのように話を進めていた。現在出来上がっているツリーハウスから次のツリーハウスまで、木の上をアップダウンしながら進んでいく回廊は、将来このジェロニモの滝まで延長され、さらにそこから奥にウオーキングロードが森の中深く続いていき、浅間山の麓まで行けるようになるという計画は、ジェロニモの滝の奥に続く森を見つめながら岩本五郎の想像力をかき立てていく。老スタッフはさらに話し続ける。岩本五郎が息子の声を聞いたあの場所には、以前から「崖キャビン」が何度も計画され、没になっていたという。岩本五郎の耳には「ココニオウチヲタテタライイノニネ」という啓助の声が再び聞こえてきた。
 
老スタッフの話はいつの間にか彼自身の話になり、老いは衰えることではなくて強くなり美しくなることだと力を込めて話し、人生の目的は、燃え尽きることにある、燃え尽きれば成功した生命であり、くすぶれば失敗の生命という。
いつしか二人は固く握手して別れた。お互いの連絡先をスマホに登録し、岩本五郎はもし崖キャビンができたら連絡してくれるよう頼んだ。
老スタッフは「きっと、そのうちできるから」とほほ笑んだ。
来年生まれてくる子供が男の子でも女の子でも、崖キャビンにつれてきたいという岩本五郎の心はすっかり吹っ切れていた。音を立てて勢いよく流れるジェロニモの滝に爽やかな風が通り過ぎていった。



 
 
 
 

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