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書き物屋(死ねない男と死にたい男) 3 

2017年06月22日 外部ブログ記事
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書き物屋(死ねない男と死にたい男) 3

「もう国会は閉じたのか」
 いかにもごみ箱から拾い出しましたと言わんばかりの、皺まみれの新聞に目を落としたまま社長が言った。
「それはいつの新聞なの?もう数日前のことよ」
 そうこたえたのは小梅ばあさんだ。
 小梅ばあさんと呼ばれるのは本人が不在の時だけであって、本人がいる時には皆が小梅ちゃんと呼ぶ。
「在るっていうのは誰が考えてもわかることを、文書が在るの、ないのって、結局は見つかって、すっかり怖気づいている首相をみるとがっかりだ」
 勝弘がそう言って大げさに両手を広げた。
「トップダウンで行う特区だ、首相の意思への忖度はあってあたり前だ。そうでなきゃあ規制緩和なんぞ出来はしない。それが友人絡みであっただけの話で、そのどこが悪いかと押し通せなかった腰の弱い政府。国民・マスコミの目を忖度した馬鹿な政府だ。日本人固有の忖度という美徳を政治家とマスコミがよってたかってズタズタにしちまった。日本の良さを日本人の手で抹殺しようとしている。本当に馬鹿な話しだ。過去の流れから何の問題もないと思っていた政府も甘いし、既得権益者から政治献金をたんまり受け取っていた野党の政治家の質問から始まった、この問題に対する過去との整合性も一貫性もない野党。自分たちの立場のためなら、国益の一つも考えず、何でもありの野党。政権を批判することだけが国民のためになるとはき違えているマスコミ。いずれも間違いだというのは、ごく近い過去の歴史がそうだといっている。あの新聞社の慰安婦問題のでっち上げがいい例だ」
 社長のいつもの演説口調に、
「そうだ、そうだ」
 と、勝弘が取って付けたような合の手を入れる。
「そもそも、私たちが一番興味を持ち、明らかにしてほしいと願っているのは、元事務次官の出会い系バー通いの真相だ。女房にも承知してもらって出会い系バー通いだと?それで一人の若い女を追跡調査かい?まさか、・・・」
「わたしが女房だったら承知しないよ、そんなもん。お国の事務方のトップがそんな所に出入りすること自体が、理由は何であれ禁忌でしょう。それに調べるんだったら、お国の事務方のトップですまし顔していた世間知らずのあんな男より、うんと詳しい人いるでしょう。長いことそこを取材して飯のタネにしているルポライターとか、その気になれば居ながらにして有益な実態調査結果が得られるわよ・・・ほら」
 小梅ばあさんがスマートフォンをスクロールして、その画面を社長に向けた。
 一気に不機嫌になった社長を観た勝弘が、
「社長はそういった機器がお嫌いなのさ、社長は自分だけで考えられて、その自分のお考えをお述べになっておられる」
 そう言っておいて両掌を上にして持ち上げ、さあ続きをどうぞと促した。
 小梅ばあさんを睨みつけていた社長が、わざとらしく咳払いをする。
 使い込んだ手提げカバンの中を探って小さなタッパーを取り出した小梅ばあさんが、その中から小梅を一つ取り出して口に入れ、もう一つ親指と人差し指に挟んで取り出した小梅をそのまま社長に差し出した。
 犬が濡れた体をふるうかのように顔だけでなく体全体を横に震わせて、小梅ばあさんの小梅を拒否した社長だ。
 小梅を口に含ませて社長の演説をやめさせようとした小梅ばあさんの作戦は見事に失敗した。

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