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書き物屋(死ねない男と死にたい男)1 

2017年06月05日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



書き物屋(死ねない男と死にたい男) 1

 足元にやってきた福太郎と名付けた野良猫が、ごろりと横になると同時に仰向けになって甘える。
 その態勢にならなければ、福太郎の腹部に隠れた鮮やかな黄色い毛色を見ることはできない。
 福太郎の日常は、その日常の姿勢に見られる白と黒の二色模様そのもので、野良猫としての平凡な生活を送っている。
 言い換えれば、野良猫であるがゆえの自由奔放な生活を堪能しているのだ。
 だが、福太郎がオスの三毛猫と知れ渡れば、福太郎を知る者たちがほってはおかないかもしれない。
 仰向けになって両手を万歳する福太郎の脇の下あたりを人差し指で掻いてやりながら、磯田は思った。
 多治谷が持つ、隠したつもりの黄色の鮮やかな毛色は、誰に対しても隠し通すことはできないのだろうと。
 ほんの束の間の気楽な野良生活も、決して許してはもらえず、それを望んだところで多治谷は、結局は自分の生きる今の道を選んだその時に遡って、そりゃあ無理だと言われているようなものだ。
 脇の下を掻かれて神経を刺激され、激しく舌を出し入れしていた福太郎が、その気持ちよさの限界を感じて、軽く磯田のその指を噛む。
「磯田さん、珍しくお一人でお出かけだったんですね」
 そう声をかけたのは隣人の東雲勝弘である。
 ほぼ毎日のように出かけはする磯田だが、いつもこの勝弘が同伴者だ。
「そう言われてみればいつもお前さんと一緒だな、迷惑のかけっぱなしだ」
「いえいえ、近頃の磯田さんはちょっと見では立派な健常者ですよ」
「ちょっと見ではかい」
 そう言って磯田が苦笑いをした。
「ああ、すみません・・・」
 そう言って消え入りそうになる勝弘に、玄関戸の開錠をしながら中に入れと声をかけた磯田だ。

 勝手知りたる磯田の家で、てきぱきとコーヒーを淹れ、磯田のそれはカフェオレにして勝弘が運んできた。
 六畳の洋間と四畳半の和室に、三畳ばかりの板の間の食堂、それにキッチンに風呂・トイレの2DKといった間取りで、庭だけは乗用車なら4・5台は入ろうかというほどに広い市街地から離れた郊外の借家なのだ。
 燐家である勝弘の家も全く同じ間取りで、磯田と勝弘は大家が同じ店子同士ということになる。
 当然、車なしで生活できる圏内にはなく、車を運転することが不自由であった磯田が車を購入して、縁のあった勝弘に貸し与え、必然的に勝弘と出かけざるを得ない状況にある。
「結局は、既得権益者に加えて野党とマスコミ、それに言うだけが仕事の評論家たちも大きな抵抗勢力ってことですよ」
 急に何の話しだというような顔をした磯田だが、「ああ」と軽く返事をして、50年ぶりの獣医学部新設の話だと理解をした。
「お友達、結構じゃあないですか。岩盤規制の岩盤打ち抜くには最後までお手々繋いでくれるお友達でいいじゃないですか。2カ月余りの間に乱暴になどと元事務次官は言いますけれど、そうしなきゃあ抵抗勢力をさばいて岩盤打ち抜けなかったでしょう。台湾の政党名と同じ政党の野党が今話題となっている同じ大学に獣医学部を新設しようとしていた時に、筆頭になって今、非難・批判している新聞社が、その時には躍起になり、特集まで組んで応援していたんですよ。台湾の政党名と同じ政党が今と同じ大学に獣医学部を新設するのはよくて、現与党ではまずいということは、自分とこの新聞が応援してそうなったことにならなければ気に入らないということなんでしょうね。まあ、慰安婦問題をねつ造した新聞社だから程度は知れていますけれどもね。もっとも、慰安婦という言葉も勝手に作られたんですが。元事務次官は与党の文教族の大物政治家の縁者といいますから、既得権益を守れなかった自責の念が、あるいは買春で事情聴取でも受けそうにでもなって、それを躱すための今の行動ですかね。あの文書、そりゃああるでしょう。既得権益者が、今度は政府の顔色伺って回した文書ってこともあり得ますからね。それにしても、週刊誌も抵抗勢力となり、元事務次官のおかげで今の自分がありますなどと、元事務次官とつきあっていた女性の記事を載せるなんてあきれてものが言えませんね。視察のために買春を疑われるような行為をしますか。国民の誰もが、そのような視察をしてほしいとは思っていませんよ。視察をするなら足りない保育所や幼稚園、小中高校のいじめ問題や諸々と視察してほしいところは山ほどある。ましてや、一人の女性と食事やなんやかやとお付き合いして、それが一体何の視察と言えますか、よほどその女生とのお付き合いが楽しかったのでしょうね。同種の不特定多数の場所と同種の不特定多数の人々と接してこそ視察と言えるのではないでしょうか。たとえその女性と男と女の関係はなかったとしても、元事務次官の妻は、家族は納得するのでしょうか?ある期間継続しての男女のお付き合いは、他方に配偶者なりがいれば、これは一種のゲスの不倫と言わざるを得ない。そのように人間性に問題のある人間の言うことに、今と立場が反対であれば野党は、その人間性を追及しないのだろうか。まっ、特に台湾と同じ政党名の野党はしないかもなあ。党首の自分の二重国籍問題については、うやむやにして、人のことは上げ足まで取りますからね。人には厳しく自分には大目に、が今の野党魂ですから。もっとも、与党内にも既得権益者から献金を受けているであろう抵抗勢力を抱えた首相は、言いたいことの半分も言えない情けなさですよね。ところで、獣医学部新設で質問の口火をきった野党の議員は献金問題が出たとたんに、その舞台から姿をくらましましたね。もっとも、このことを追求すれば、与党だってそんな人たくさんいるかぁ。おまけに、わざわざTVが元官僚を出演させて、その元官僚が官僚の立場で自分の都合の良いことばかりを並べ立てるときている。官僚の質ってあの事務次官の視察程度だっていうのにですよ」
「もういい、話題を変えろ」
 磯田が不愉快そうに言った。
 磯田の思考が言葉になりづらいころには、こうやって勝弘が話題を提供してくれて、その感想を求め、リハビリの一助としてくれたことに感謝している磯田だが、ほぼ快復した今では、この手の話は苦手なのだ。


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