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小欲知足
渋温泉にて
2018年04月22日
テーマ:旅行
早朝の湯舟には私以外誰もいません。
最上階にあるその宿自慢の展望風呂は、北と西の二面に大きく窓がとられ、湯舟に浸かるとちょうど家並みが沈んで山容が浮かび上がる仕掛けになっていました。
お湯の向こうに見える越後三山は、まだ雪を残すまだら状態で、手前の山よりも色を薄くして裾を広げています。
山登りが好きな私は、この季節は思い出す山が沢山あります。
紅葉よりも新緑の若草色が好きな私は、薄緑色の山道を行くと新しい命の息吹を感じて、体が頭の先から足の先まで活性化してくるのです。
白山を眺めて育った私は、遠くに雪を残す山めがけて朝練に励んでいました。高校の頃です。
自転車競技は常人には理解のできないマゾヒスティックなスポーツで、上り坂が好きにならなければ強くなれません。
上りに強くなるには体を軽くしなければなりません。雪が消えて走れる季節になると、冬の脂肪を落としにかかります。
新緑にむせぶ頃になれば、体はひと通り出来上がり、かく汗が瞬く間に塩に変わっていく初夏への移り変わりを感じながら練習に励むのです。
山に対する思いは、自転車競技をやめた後も続き、それが登山となってゆきます。新緑の細道を登っていくときの爽快感は、夏山や紅葉の山とは全く違う、エネルギーに満ち溢れ、力が内側から湧いてくるような気持ちの高まりをもたらしてくれます。
いま湯船につかりながら、ゆっくりと、ゆっくりと明けてゆく空、鳥が飛んでいく様、お湯の流れる音、手足の先々へ行き渡る血液の広がりを感じながら、日本に住んでいる幸せを実感しています。
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