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読書日記
『峠越え』 <旧>読書日記1582
2024年04月22日
テーマ:<旧>読書日記
伊東潤『峠越え』講談社(図書館)
幼き頃、師より「凡庸」の烙印を押された男、後の徳川家康はいかにして戦国の世を勝ち抜き、のちに天下を覆すことになったのか。それは家康に才能があったからでは無く、己の凡庸さを自覚していたからこそと著者は強調している。
また、題名の「峠越え」とは本書の最後の伊賀越えだけではなく、家康の前半生の苦しい「切所」(=難所)の連続を指している。
「持たざる者」「獅子身中の虫」「まな板の鯉」「窮鼠の賭け」の4中編で構成されていて、「持たざる者」では桶狭間の戦いと浅井朝倉の姉川の戦いとが家康の目線で描かれる。「獅子身中の虫」は三方ヶ原の戦いと、長篠の戦い。「まな板の鯉」では信長の命による家康の長男信康の処分。そして「窮鼠の賭け」は本能寺の変とその時大坂近辺に居た家康の必至の脱出・・いわゆる伊賀越えの話である。
この本では、信長の恐るべき知謀と家康の凡庸ぶりが対比され強調され、「窮鼠の賭け」の部分で本能寺の変の真相をめぐって異説が展開されるが小説としてはまあまあその仮構が成立するかもしれないけれど、それ以上の真実性は無い。また「持たざる者」では今川義元の居場所を家康が信長に教え、奇襲が成功するという話の展開だが、これも無理があろう。
実は著者の作品を読むのは初めてだと思っていたが2019年に短篇集『国を蹴った男』を読んでいた。著者はそれなりに調べ、趣向を凝らした話を作り上げる力はあるのだろうけれど、正直あまり感心しない。もう1冊読んでみて印象が変わらなければもう読まないであろう。
(2021年10月8日読了)
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