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パトラッシュが駆ける!

出版しました 

2012年11月30日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「定価をどうしましょうかね?」
社長が言った。
私は、すっかり忘れていた。
と言うより、はなから、頭になかった。

私の二冊目の著書となる「風に吹かれて遍路道
(菁柿堂刊)である。
紀行文ではあるけれど、遍路と言う特殊な世のことだ。
関心を持つ人は、少ないだろう。
本が売れるとは、思っていなかった。

今回私は、著者として、百部を受け取ることになっている。
友人知人にお配りし、余った中から、図書館への寄贈を行い、
それでもって、私の出版は完結する。
自費出版とは、そういうものだと思っている。
そもそもが、道楽なのである。

但し、一応は商品なのだから、値段は付けねばなるまい。
世の中には、いろいろな人が居る。
どれ、買ってやろうかと、物好きが、現れないとも限らない。

「前回と同じで、どうでしょう」
「そうですね、ページ数は多いけれど、あまり高くしてもね」
社長だって、ことさら値段に、こだわりがあるわけではない。

「それより本です。出来るんでしょうね、月内に」
「ぎりぎり間に合いそうです。でも、何でまたそんなに急ぐんで?」
「やることを、早く済ませて、旅に出たいからです」
「今度はどちらに?」
「山陰、九州、木曽、会津・・・もう、行きたいところだらけです」
「本を送った後は、忙しくなりませんか?お礼やら感想が殺到して」
「そんなもん、一々応対することは、ありません」

出版も二回目となると、様子がわかっている。
そりゃ、受け取った人からは、電話やメールが入るだろう。
礼状も来るだろう。
しかしそれも、数日で治まるはずだ。
だいたいが、礼状に対し、さらに礼を言うことは、ないのである。
やることをさっさと済ませて、旅に出よう。
そればかりを考えている。

思えば、夏の盛りの頃、出版へと踏み切ってからというもの、
忙しい日々であった。
横書きだった原文を、縦書きに替え、文意を損なわないように、
字数を詰め、ページ数を抑え、どうにか形を整えた。
それから、推敲だ。
これがもう、何度やっても、不満が残る。

字句を変えると、良くなったかに見える。
しかし、時間をおいて読み返してみると、前の方がよかったりする。
「えーい」
何処かで見切りを付けなければ、
私は永遠に推敲地獄から、抜けられない。

どうにかまとめた原稿を、出版社に持ち込んで、
息をついたのもつかの間、今度は校正だ。
句読点や改行の間違いなどが、思いの外に多い。

初校をやり、二校を終え、出版社に届けた時は、心底ほっとした。
さあ、これで自由の身になった。
存分に遊ぼうと思った。
しかし世の中、どうもうまく行かない。

 * * *

写真と装丁を、若手のプロにお願いした。
これが前回とは、少し違うところだ。
ゲラの段階で見せてもらった表紙に、私は目を見張った。
草叢の中に、遍路が一人立っていて、何を隠そう、
この私の後ろ姿である。
これが不思議なのだが、プロの写真の力だろう、
そこに一つの物語が感じられる。
何時までも、眺めていたい気になる。

「いい御本ですね」
本を贈られた人なら、誰でも言うことだ。
私だって、それが儀礼であることを、百も承知している。

しかし、今回は必ずしも、お世辞ばかりで、
ないかも知れない。
本の内容はともかく、表紙がいい。
表紙は顔である。
顔は第一印象である。
手にした人が「おっ」と、思ってくれたら、
それは一つの成功であろう。

私は凡人である。
にわかに妙な気分になっている。
何がどうなるという、確たる見通しではない。
ただ、何かが起きるのではないかという、そのくらいのことだ。
にわかに、落ち着かなくなっている。
妙にそわそわしている。

 * * *

角型五号の封筒を用意した。
それに赤字で「謹呈」と書いた。
いや、プリンターに刷らせただけだ。

住所氏名を、逐一書いては居られないから、宛名シールを使った。
便利なものは、どしどし使った方がいい。
これもプリンター任せで、さっさと出来てしまう。

何年も会っていない人が居る。
突然本が届いたら、さぞ面食らうだろう。
本の扉に、挨拶文を入れることにした。
和紙風の、洒落た紙片を用意し、
これに、出版に至るいきさつを書いた。
遍路旅をお勧めするつもりは、ありませんと書いた。
でも、この本を読み、もしその気になられたとしたら、
それは著者として、望外の幸せであるとも書いた。
建前と本音が交錯し、我ながら、おかしな文になっている。

私は、平常心を失っている。
出版は二度目なのだから、悠然とその日を待てばいいものを、それが出来ない。
箸が落ちても、ついニタニタとしてしまう。

 * * *

それにしても遅い。
月末までに、本は仕上がると社長が言った。
確かに言った。

こう言うことは、本当は、ゆとりを持って行うべきだ。
一日や二日、前倒しに完成させても、罰は当たるまい。
それが出版社の、サービスというものではないか・・・
昨夜も、飯を食べながら、ぶつぶつとつぶやいていた。
もしかしたら私は、既にして、病気であるのかもしれない。

本日が、その月末である。
午前十時、私を嘲笑うように、本はまだ届かない。

*************************

長らくお休みを頂きました、当ブログを、本日より再開致します。
今後とも、楽しい文をお届けして参りたいと思っております。
どうぞよろしくお願い申し上げます。



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そんなもんです

パトラッシュさん

まあ、病気でも仕方ないですね。
のんべんだらりと生きているよりは・・・
こういうことにしましょう。

2012/12/02 14:21:08

本は読みません

我太郎さん

活字が大の苦手でマニュアルも読みません
で、読書の楽しみは知りません
ブログは読むんですがね

>何処かで見切りを付けなければ

人生そんなもんだ、と言えば生意気かな

>既にして、病気であるのかもしれない

もしかせんでもお宅は皆さん病気ですよ
私はデジ中毒です

2012/12/02 08:51:24

高いのが玉にきず

パトラッシュさん

haniwaさん、
お読み頂きまして、ありがとうございます。
書店は選びません。どこの書店でも、下記の図書コードを伝えれば、取り寄せてくれるはずです。

ISBN978-4-434-17463-6
「風に吹かれて遍路道」和田岳晴著
青柿堂(せいしどう)出版

ただし、定価が1680円と、安くないのが困りものです。
図書館に、リュクエストする手もあります。
購入してくれる場合もあります。

2012/12/01 19:45:21

なんとか・・・終わりました

パトラッシュさん

行者さん、
拙文をお読みくださいまして、ありがとうございます。
発行部数(著者の受け取り分)が少ないもので、
多くの人に差し上げられないでいます。
申し訳ありません。

2012/12/01 19:38:24

読みたくなりました。

haniwaさん

 ご出版おめでとうございます。

 自費出版の手順流れ、楽しみ苦しみ喜び、その時々の機微、面白く読ませてもらいました。
 まだご本を読む前の段階で、この気分ですから、ぜひ読んでみたいとおもいます。
 取り扱いの書店を2・3教えてください。

2012/12/01 19:21:40

頑張りましたネ。

行者さん

同年齢として御出版を心よりお祝い申し上げます。

東京より四国は遠い国だけにさぞやご利益があろうかと思います。

そのご利益に預かろうと卑しいコメントです。
「謹呈版」を是非ともご検討下されば幸いです。(笑)

2012/12/01 17:10:20

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