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パトラッシュが駆ける!

ちくはぐ夫婦 

2010年04月02日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し


「築地へは、お買い物でいらっしゃいましたか?」
交差点で信号を待っていたら、突然後から女性の声がして、
私と妻との間に、マイクが突き出された。




驚いて振り返ると、テレビカメラがこちらを向いている。
先ほど、場外市場で見かけた、クルーである。
その時は、店のオヤジと思しきが、カメラに向かって、
照れくさそうに笑いながら、
「反対」と書かれてある、赤い杓子みたいなものを掲げていた。
街の声を聞くのであろう。
この時期に、ここで賛否を問うとすれば、
それは豊洲への移転問題をおいて他にない。




さて、どうしよう。
気の利いたことを言いたいなと、一瞬気構えた、次の瞬間だった。
「だめです。急ぎますから」
妻が、女性リポーターを制し、さながら、私を隔離するかのように、
間に割って入ってしまった。




リポーターも心得たもの、そこで、さっと引き下がった。
何しろ、人ならそこらに、幾らでも居る。
方向を転じて、次の適任者を物色し始めた。




「だめよ、テレビには。関らない方がいいのよ」
妻は、私がどうして断わったのかと、聞く前に言った。
前に、テレビに映ったばっかりに、その後多くの人に
「見たわよ」と言われ、イヤになったのだそうだ。
何でイヤになったかといえば、それは、
思い通りに映っていなかったからだろう。
カメラは時に、非情なまでに、真実を映し出す。




「テレビに出たかったー」
「だめよ。ろくなことはないんだから」
「あっちもプロだ。この人と見込んだんだろう、この私を」
「手当たり次第、誰でもいいのよ」
「あんたは、隠れていればいい」
「そうは行かないでしょ、一緒に居て」
夫婦で意見が違ったら、なおのこと物笑いだと、妻は言う。




彼女、築地市場の移転には、反対なのである。
対する私は、先ほどまで、豊洲に居て、その斬新な町を、つぶさに見て来た。
土壌が汚染されているそうだが、それは、今の土木工学なら、
フタをかぶせてしまえるのではないか。




何時までも現在地にこだわり、老朽化した建物に居続けるのも、いかがなものか。
頭を切り替えたらどうか。
そんな風に考えていた。
それにしても、惜しかった。
夫婦が並んで、賛成と反対を掲げたら、リポーターもさぞ、喜んだだろう。




 * * *




豊洲では、「平木浮世絵美術館」に行った。
「東海道五十三對」なる展覧会をやっていて、各宿場を物語風に描いた、
国芳、広重、国貞の浮世絵を見た。
数えたら、五十三枚確かにあった。
それぞれに、見事なものであった。


「どうだ。いいだろ」


「はい」
「浮世絵こそ、日本の宝だ」
「そうですね」
「五十三次なら、おれに任せておけ」
「お任せします」
私は昨年、東海道を京都まで歩き、すっかり気が大きくなっている。




レストランがあって、「ランチタイムサービス・生ビール300円」と大書してあった。
「腹が減って来たな、何となく」
「築地まで行くんでは、なかったですか」
「それは後で考えよう」
で、とりあえずレストランに入った。
これがよくなかった。
ビールは美味かったのだが、ランチが少々、困ったことになった。
実質本位ではあるけれど、夢も希望もなかった。




豊洲から築地までは、歩いた。
30分ほどかかった。
途中で月島を通った。




「ほら、ここが『もんじゃ通り』だ。前に朝ドラの舞台になっただろ」
「そんなことありましたっけ・・・」
「ヒップホップとかいうダンスを踊っただろ、隅田川のほとりで」
「・・・・・」
「西田敏行が、洋品店のオヤジになり、その孫娘が、
踊りをやりたくて上京し」
「ああ、思い出した」
私達の会話は、容易にかみ合わない。
そして、それが常態になっている。




 * * *




築地では、場外市場を一回りしただけで、結局帰ることになった。
「玉子焼きは?」
「要りません」
「鮭は?」
「家にあります」
「タラコは?」
「塩分の取り過ぎは、よくありません」
で、買ったのは結局、おぼろ昆布一袋。
315円。
これなら、コレステロールもなくて、身体にいいだろう。




せっかく築地に来たんだから、お寿司を食べようと思ってたのに・・・
妻が、ぶつぶつ言っている。
それを豊洲で、半ちくなものを食べてしまい、
いや、食べされられてしまい・・・
と恨んでいるわけだ。




「だって、任せるって言ったじゃないか」
「あれは、東海道のことです」
女の恨みは、長く尾を引く。
当初の予定通り、築地で寿司さえ食べさせておけば、もしかしたら、
私はテレビに映ることが、出来たかもしれない。




 * * *




ついでだから、歌舞伎座の前を通り、銀座四丁目まで歩いた。
「どうする?」
「ここで、別れましょ」
「分かった。じゃあ」
「慰謝料」
まったくもって、女は扱いにくい。





























































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