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パトラッシュが駆ける!

副流煙の ようなものだよ 紅白は 

2013年01月04日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「せんせーい、今日は、紅白見るんでしょー」
「見ないよー」
「紅白見ない人って、居るんですか?」
「居るよ、ここに」
「じゃあ、何を見るんですか?」
「ニュースだな。それにサッカーかな」
「ふーん」

K太は、私の囲碁の生徒です。
小学一年生です。
年明けに行われる、子供囲碁大会を目指し、やる気満々です。
冬休みに入るや、毎日、私のサロンにやって来ています。

大晦日だろうが、お構いなし、掃除中の私に、
まとわりついて離れません。
いや、当人は、手伝っているつもりのようです。
ほら箒を貸して、チリトリは何処なのと、
もう、うるさいのです。
仕方ないから、掃除を早めに切り上げ、碁の特訓にかかりました。

商売をリタイアしてから、私の歳末は、暇です。
夜はもう、何もやることがありません。
早めに風呂に入り、一杯やっておりました。
リビングのテレビには、紅白歌合戦が映っています。

私は見るつもりがないのですが、妻が見ているので、
仕方ありません。
受動喫煙みたいなものです。
よくあるでしょ、亭主のタバコの煙を、
女房が顔をしかめ、手で払う光景というものが。
あんなようなものです。
私は、テレビに顔をそむけ、酒を飲んでおりました。

知らない歌手が増えました。
これ、取りも直さず、私が時流から遠ざかっている証拠です。
理由は分かっています。
私が普段、テレビを見ないからです。
いや、見ることは見るのですが、
ニュースとスポーツ番組ばかりですから、どうしたって、
世情には疎くなります。
芸能界のことなんか、なおさらです。
それこそ、なーんにもわかりません。

「ほら、あーたの嫌いな人が出ますよ」
妻が笑いました。
「ふん・・・」
私の好きでない歌手なんて、ざらに居ます。
むしろ、好きな歌手の方が、少ないのです。
それで、困っているのです。

「ほら、あの人」
「・・・・・」
「あら、何時もと違うわね」

けばけばしい化粧と衣裳で、夙(つと)に有名な、
女装者が居ます。
もういい歳をしているはずです。
私は、何が嫌いと言って、女装する男ほど、
嫌いなものはないのです。

昨今、女装タレントが跋扈し、遂に公共放送たる、
NHKにまで、進出するようになりました。
私は、嘆かわしくてたまりません。
中でも彼は、その草分け的存在であります。
歴史の古い分、私の“嫌い度”もまた、甚だしいわけです。

「チャンネル変えましょうか?それとも、消しましょうか?」
「いや、ちょっと待て」
何時もの、ど派手な髪が、見えないので、別人かと思いました。
歌い出した、その声も、少しは高いものの、男の声です。

「かあちゃんのためなら えーんやこら 
父ちゃんのためなら えーんやこら」
どうも様子が変です。
土方の唄です。
てっきり、惚れた腫れたの歌だろうと思っていた私は、意表を突かれました。

「今も聞こえる ヨイトマケの唄 今も聞こえる あの子守唄」
困ったことになりました。
「ヨイトマケの子供 きたない子供と いじめ抜かれて はやされて」
聞き捨てになりません。

「泣いて帰った 道すがら かあちゃんの働くとこを見た 
かあちゃんの働くとこを見た」
母と子の、苦難の歴史ではありませんか。

「姉さんかぶりで 泥にまみれて 日に灼けながら 
汗を流して 男に混じって 綱を引き・・・」
母への思慕と、感謝を歌っているのです。

「苦労苦労で、死んでった、母ちゃんみてくれ、この姿・・・」
私はとうとう、涙が出始めました。
自慢にもなりませんが、私は涙腺がほとんど、
故障しているのであります。

いやはや、大変な歌でした。
母と子の、辛苦の歴史の中に、
人間の普遍的真実を光らせているのです。
その光を、暗闇の中から、いきなり突きつけられた感があります。
驚くわけです。

いや、歌の名を、聞いたことはあるのです。
彼の自作だとも聞きました。
しかし、実物を耳にしたことが、なかったのです。

ふん・・・
どうせあいつのやることだ。
ろくな歌じゃないだろうと、てんから、決め付けていたのです。
私はどうも、先入観でもって、人を排除していたようです。
嘲りと共に、彼を唾棄していました。

「作品と人間は別」
かねてからの、私の持論でした。
「作品は、作品によってのみ、評されるべきだ」
例え、犯罪者の手になるものでも、それは彼の行跡や人格とは、
分けて評価すべきだ。
そう思っていました。

自らこれに、反していたことになります。
不明を恥じなければなりません。
困ったことになりました。
面罵した相手が、意外な人物、もっと言えば、
傑物とわかった時のようなものです。

ドラマ水戸黄門の最後に、名場面があります。
「このお方を何方と心得る・・・」
助さんが、葵のご紋の印籠を掲げ、その正体を明かすところです。
あんなようなものです。

「ははぁ・・・」
悪代官共が、狼狽え、這いつくばります。
あんなようなものです。

でも、実質は少し違いますね。
あれは、権威への畏怖が、悪代官共を、ひれ伏させたのですから。
私のは、違います。
私が恐れ入ったのは、その才能にです。
そして、もちろん、平伏したりは致しません。

「なんだ、歌えるんじゃないか、普通に」
「歌手ですもの」
「なら、あんな恰好すること、ないじゃないか、なにも」
「考えがあるんでしょ、きっと」
彼の芸を見直しはしたものの、その恰好を是認するかどうかは、
また別の話です。

「フィナーレがありますよ。見ないんですか?」
「誰が見ますか」
せっかく女装の彼を見なくて済んだのです。
このまま寝てしまうに、如くはありません。
もしもですよ。
フィナーレまでの時間に、彼が装を整え、
あのけばけばしい髪で現れたら、どうしますか。

私は、席を立ち、そこで私の紅白は終わりました。
そうです。
副流煙が嫌なら、別室に居を移せばいいのですから。



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なよなよと

パトラッシュさん

旧姓は「丸山」でした。
同級生に、丸山姓の男が居て、これも、なよなよとしていたもので、
皆から、からかわれたものでした。

2013/01/06 16:16:49

女装

我太郎さん

今じゃ男が化粧する時代で、男か女か分からない人が珍しくないですが、このままで日本は良いのかなあ?

名前は改名前から知っていたのですが、ヨイトマケの歌は、「母ちゃんの為なら エンヤコラ」のフレーズだけしか知りませんでした

2013/01/06 15:32:20

困ったことになりました

パトラッシュさん

私、本当に、聞いたことがなかったのです。
まいりましたね。

2013/01/05 14:22:57

ヨイトマケの唄

吾喰楽さん

今年も、益々、筆が冴えていらっしゃいますね。
読み始めて直ぐに、誰のことか分りました。
ヨイトマケの唄は、私も好きです。
いつ聴いても、子供の頃を思い出し、ジーンと来ます。
当時は、日本自体が貧しかった。
皆、精一杯生きていた時代ですね。

2013/01/04 15:51:53

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