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パトラッシュが駆ける!

損切り 

2013年10月05日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

若い頃、株をやっていた。
私は、のめり込む性質(たち)であり、寝ても覚めても、
相場のことばかり考えていた。
株には、投資と投機の、二つの目的がある。
長期保有をして、増資や配当を得るのが投資、
短期の値上がり益を狙うのが、投機だ。

私の場合、当然のように、値上がり益が目当てであった。
もともとギャンブルが好きであって、株以前にも、
大方の遊びを経験している。

しかし株の世界は、厳しい。
その変転は、測りがたく、しばしば、思惑が外れた。
中には、買ったところが天井で、その後は値下がり一途なんてこともあった。

買値を下回った株を、損を覚悟で売り払う。
これを「損切り」と言う。
損を引きずって、ろくなことはない。
「見切り千両」は、投機をやる者の、心構えの一つとされていた。
千両に匹敵する、価値があるとされ、その理屈を、
私も頭では、分かっていた。

しかし、情において忍びないのだ。
損が、現実になることにである。
我慢して持っていれば、いつかまた、上がるのではないか。
そうすれば、損は消え去るではないか。
つい、はかない希望を、抱いてしまった。

しかし、それは、問題の先送りだ。
確かに、株券は、腐りはしない。
それをいいことに、じっと抱える。
結局、長期保有になる。
ここにおいて、「投資」へと形を変える。
やむを得ずである
だから、私の場合「やむを得ず投資」ということになる。

 * * *

たまに、儲かることもあった。
たちまち気が大きくなるのは、そこに“不労所得”という頭があるからだ。
汗水たらし、働いて得た金ではない。
つまりは、あぶく銭である。

ならば、普段、やれないことに、使おう。
「よーし、これで海外旅行に行こう」
家族の前で、叫ぶことになる。

グァムへ行ったのは、娘達が小学生の頃であった。
今でこそ、グァムなんて外国とも見做されないが、当時はまだ、価値があった。
級友の多くが、海外旅行など、未体験であったから、
彼女らも、鼻が高かったようだ。

「私も、大人になったら、株をやるんだー」
「あたしもー」
姉妹そろって、株のことを口にしたのは、私からの影響に他ならない。
つまり、株をやれば、楽しい遊びが出来る。
こう言うことを、私が、植えつけてしまった。

しかし、まんざら悪いこととは、思わなかった。
株をやれば、いやでも、政治や経済に関心を持つ。
世界情勢から、身辺の、小さな商品情報にもである。
これからの時代、女だって、視野を広く、保たねばならない。
「ああ、やりなー」
私は、鷹揚な返事をしていた。

 * * *

二人とも片付き、やがて、子供も生まれた。
今は、どちらも、主婦業の傍ら、パートで働いている。

「お父さん、株を買いたいんだけど」
言い出したのも、二人ほとんど、同時期であった。
住宅ローンを抱えながらも、いくらか余裕が、出来たのかもしれない。

手始めは、固い株がいい。
東京電力を薦めた。
配当を目当ての、つまり、投資である。
それもそうだ。
娘達に、投機を勧めるわけには行かない。
さながら、遊び人の父が、子供には、堅気に生きるよう、諭すようなものだ。

次に、野村証券を薦めた。
あれこれ買い散らすより、筋の通った株に絞った方がいい。
株式市場全体の消長を、そのまま体現する株だから、これがダメなら、
他のどの株も、ダメとしたものだ。
策を弄するより、でんと構えた、横綱相撲を取れ。
そう言う思いがあった。
まことに、当人の辿って来た道とは、大違いであった。

 * * *

二年前のことだ。
「じじ、どうしたらいいの?」
娘の一人が、眉を曇らせ、やって来た。
私はその後、孫が増え「お父さん」から「じじ」へと、呼び名が変わっている。

「狼狽えるな。株には、こう言うことも起きる。なあに、つぶれたら、その時だ」
娘に言い聞かせながら、実は、自分にも言い聞かせていた。
こんなはずではなかった。
大震災が起き、原子力発電所が損傷し、東京電力の株が、下げの一途を辿っている。

それを勧める時に、私は、「万が一にも、潰れない会社」と説明した。
その万一が、来てしまったのである。
娘の手前、きまりの悪いこと、おびただしい。

「一旦、売り払いました」
後に、事後報告を受けた。
おそらく、相当の損失を被ったことだろう。
しかし、私に対し、恨みがましいことを、言わない。
損失を補填してくれとも、言わない。
内心忸怩たる思いはあるが、そこは、さすがに、
私の娘だと思っている。

株に失敗は、付き物だ。
それが早めに来たということだ。
まだまだ、彼女の人生は長い。
いずれ、取り返す日が、来ると思っている。

仮に取り返せなくても・・・
私には、抱えている株がある。
歴史的高値を掴み、とうとう生涯、売るに売れなかった株だ。

あの世には運べないから、彼女らに渡すことになる。
それで十分に、埋め合わせは付くはずだ。

遺産相続である。
相続した者は、気楽だ。
被相続人の、苦労を知らない。
その取得価額も知らない。
だから、忌々しさもない。
簡単に、売り払うことが出来る。

私の残す株は、娘の手によって、さっさと損切りされ、
この世から、消えることになるだろう。



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後がない

パトラッシュさん

正に、その通りです。
あの世に持って行けませんからね。
どこかで処分し、自分のために使うのが、よいのでしょう。
アベノミクスの、メッキの剥げない内が、いいのかなと、しきりに考えてはいるのですが・・・

2013/10/08 21:08:30

我太郎さん

難しい時代になりましたね
潰れないと思っていた銀行があっちもこっちも
何とか生き残っても往時の四分の一
いまだに未練たらしく持っています

気長にやっていれば良いこともありますが、もう後がないし
オリンピック開催までがラストチャンスかな?

2013/10/08 20:25:56

株のおかげで

パトラッシュさん

海外旅行、いずこも同じですね。
株屋は、売り買いさせなければ、手数料が入りません。
それで、せっせと、売り買いを勧めるのです。

三共と京急、いい株ですね。
それこそ、つぶれる恐れがない。
京急は、株主優待もあるのでしょう。
このまま持続がよろしいようです。

2013/10/05 10:53:32

喜美さん

私は全く無関心です それが母が株を買うなら
子供たちの会社の株を買いなさいと(社長になった時良いのか?)何にも知らないけれどそれで
昔に)三共製薬と京浜急行買った 売り買いなし
ある時株屋が来てこれは1回売りなさい随分儲かっているからと言われて1個だけ売り彼方と同じ
海外旅行に 我が家のためにツアーのように作ってくれ言葉もわからないのに添乗員さん任せで豪遊した それから海外旅行に毎年行き始めた
株はそれは又買い足しもせず 残りは其のまま
買った時より随分儲かっているみたい
生活苦になったら売るつもりです

2013/10/05 10:03:26

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