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パトラッシュが駆ける!

四時間の弟子 

2014年01月04日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

A子さんが来て「碁を教えてほしいのですが」と言った。
私のサロンの看板には「初心者歓迎」とあるけれど、本音を言えば、
「女性歓迎」と書きたいくらいだ。
「美人歓迎」と書けば、もっといいのだが、
それだと、キャバクラ嬢の、募集広告みたいになってしまう。

果報は寝て待てだ。
書くまでもなく、向こうから、飛び込んで来たではないか。
「いいですとも」
私は、悠揚迫らぬ声を出し、答えた。

「いえ、私じゃないのです」
「え?・・・・」
「シンガポールから来た、少年です。私の家に、冬休みの間だけ、
ホームステイしています」
「はあ・・・・」
「十五歳です。せっかく日本に来たので、碁をやってみたいと」

今さら、断れない。
私は再び「いいですよ」と答えた。
そうしたら彼女、さらに、難儀なことを言う。
「彼は英語しか喋れません」
「・・・・・」

金物屋時代には、時たま、外人客もやって来た。
英語なんか喋れなくても、何とかなった。
物を売るには、Yes とnoと、後は数字さえ正確に言えれば、
それでall rightであった。

ここは日本だ。
「日本に来たからには、日本語を喋れ」
と言う頭があった。
私だって、海外旅行に行く前には、英語の日常会話など、
一応の勉強をした。
一夜漬けであり、旅が終われば、毎回、水に流すように、
さっさと忘れてしまうのだが。

「まあ、やってみましょうか」
「喜ぶと思います」
厄介なことになった。
囲碁は、物を売るのと、様子が大分違う。
旅行でもないのに、また、そここその準備を、せねばなるまい。

シンガポールは、未知の国だ。
これが中国人や、韓国人だったら、珍しくもない。
断ったであろう。
台湾人、フィリピン人・・・ここらも、少しは知っている。
迷うところだ。

ベトナム、ミャンマー、インド、パキスタン・・・これらは、
ほとんど馴染みがない。
となれば、興味も湧く。
多分引き受けることになろう。
欧米人なら・・・快諾するだろう。

この辺に、外国人を見る、私の偏りというものが、透けて見える。
人種差別では、ないつもりだが、そうと見られても、仕方あるまい。
私としては、遠いところほど、重視しているつもりだ。
「遠交近攻」なんて言葉もある。
遠国と誼(よしみ)を通じるのは、良いことなのである。

私の、入門者に対する、囲碁の教え方は、独特だ。
戦術や戦略を、分かりやすくするために、比喩を多用する。
「領土争い」「覇権」「既成事実」なんて言葉が、しばしば出て来る。
昨今ニュースに、しばしば登場する「尖閣」「竹島」なんぞも、
格好の喩えだ。

「先に占拠している方が、そりゃ何たって、有利なのです」
「それを覆すには、相手より、多い兵力が必要ですから」
「但し、寡兵による奇襲が、成功するケースも、ないではありません」
こんな風に、使わせてもらっている。

中国人や韓国人を相手に、島名を上げれば、紛糾の元となりかねない。
そこへ行くと、シンガポール人なら、何の気がねも要るまい。
それどころか、むしろ我が国の、味方をしてくれるかもしれない。

 * * *

ブライアン君の顔が、少し赤くなっている。
その目が、碁盤を見据え、瞬きをしない。
唇を噛んでいる。

悔しいのであろう。
K太は八歳。
彼は、十五歳。
年下の者に負けては、沽券に関わるであろう。
それも、完敗だ。
盤上の石を、ことごとく取られてしまった。

しかし、年季が違うのだから、無理もない。
K太は幼いけれど、もう一年半も、碁をやっている。

「手加減をしてやれよ」
事前に、言っておくべきであった。
碁に興味を持たせるには、石を取る楽しさを、
味あわせてやるのが一番だ。
そう思って、私はもっぱら、取られ役に徹していた。

しかし、K太は小学二年生。
そこまでの、気遣いは出来ない。
たまたま来合わせたを幸い、対局させたら、遠慮もあらばこそ、
根こそぎ取ってしまった。
それで、得意になっている。

ブライアン君は、言葉が通じないだけで、他は、日本人と変わらない。
眼鏡をかけ、利発そうな顔をしている。
実際に、飲み込みも早い。
一を聞いて、十を知る感がある。

K太には負けたが、見込みは十分にある。
負けて悔しがるのも、才能の一つだ。
涙を流し、そこから伸びて行った生徒を、私は、何人も見ている。

出来るものなら、この手で育ててみたい。
しかし、異国の生徒だ。
どうにもならない。

 * * *

案ずるより、産むがやすしであった。
単語だけで、何とかなった。
囲むsurround、取るtake、敵enemy、狙うaim、
領土territory、追いかけるchase、逃げるrun away、
遮るblock、繋がるkonnect、邪魔するdisturb・・・

囲碁関係の言葉なんぞ、その数、知れたものだ。
私は、これらの単語帳を作り、手元に置いていた。
最近、物覚えが悪くなっている。

「ok」「good」「very good」を連発し、褒めてやった。
時には「no good」「bad」を言った。
さらに「it’s worst」と叱ることもあった。

何とかなるものだ。
二日に渡り、延べ四時間の授業を終え、ブライアン君は、
帰って行った。
明日帰国するそうだ。

「see you again」
このくらいは、私だって、英語で言える。
「さよなら」
このくらいは、彼も日本語が喋れる。
握手して、四時間の付き合いを終えた。

 * * *

翌日、A子さんが、礼に来たので、
「あなたもやればいいのに」と言った。
「出来るかしら・・・」
「出来ますとも」
モーションをかけている。
「将を得んと欲すれば、まず馬を射よ」と言われる。
とりあえず、射たつもりだ。
ブライアント君が、馬であったかどうかは、今後の推移によることになる。



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何時の日か・・・

パトラッシュさん

ブライアン君と、再会してみたいものです。
碁をやっていてくれると、いいのですがね。

2014/01/15 08:42:48

国際親善

トパーズさん

ブライアン君、貴重な体験をして、さぞ
喜んでいたことと思います。
今回、ブログを拝読し、色々な国際親善の
方法があるなと思いました。
ご褒美に、A子さんがサロンに入会されるよう
祈っています。

2014/01/15 03:46:16

じっと・・・

パトラッシュさん

風香さん、お読み頂きまして、ありがとうございます。
外国の生徒にも、少しだけ、自信が持てました。
A子さんの方は、今のところ、動きがありません。
じっと、待つことにします。

2014/01/05 07:15:59

楽しい囲碁教室

さん

いつもギャラリーへ拍手ありがとうございます。
今年も宜しくお願いします。

笑いながら、楽しく読ませていただきました。
囲碁の国際交流でしたね。

A子さんが生徒さんになるといいですね^^

2014/01/04 21:19:30

交流

パトラッシュさん

喜美さん、何時もありがとうございます。
本年も、よろしくご贔屓のほど、おん願い申し上げます。
料理教室で、外国の方と・・・
さぞ、喜美さんのうんちくが、役立ったことと思います。
外国の人と交流するのは、楽しいですね。
機会がありましたら、またどうぞ、おやり下さい。

2014/01/04 11:27:10

今年もよろしく・・・

パトラッシュさん

わのりさん、明けましておめでとうございます。
こっそり、にやにや・・・
それで結構です。
読んで頂くだけで、うれしいです。

2014/01/04 11:21:53

気長に・・・

パトラッシュさん

秋桜さん、今年もよろしくお願いいたします。

一時は、どうなることかと思いましたが、外国人だって、同じく人間、なんとかなるものですね。

さて、次のターゲットは・・・
女性を”その気にさせる”のは、英語より難しいです。
焦らず、大らかに、迫ろうと思っております。

2014/01/04 11:19:36

オメデトウございます

喜美さん

大変でしたね それとも頭使かってよかったかしら彼女来てくれたら
今年は大当たりね

我が家も数年前まで(私が病気になるまで)ネパール 中国 香港 印度
の若い女性が 私と一緒にお料理を
していました(教えるほどでない) 商社の人と結婚していて日本語は通じましたし
中国人はあちらの大学で日本語を教えていたくらいで 私より綺麗な正しい日本語で皆にも説明していました
若い女性は楽しいですよね
今でも遊びに来ます

2014/01/04 09:47:18

パトラッシュさんおめでとうございます

さん

パトラッシュさんのブログは
楽しみの一つです。
それなのにこっそりニヤニヤしたりしてスルー
しています。
本年も楽しませていただきます。

2014/01/04 09:36:20

今年もよろしくです^^

秋桜さん


パトラッシュさん

>「彼は英語しか喋れません」
「・・・・・」

もう、このあたりで大爆笑です^^
パソの前で大笑いしているわたしめを
想像してください。
ま、わが家は一人だからいいようなものを。

異国の徒を介してA子さんが
無事落ちてくれればいいですね^^
成功を祈ります。

2014/01/04 07:53:13

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