メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

その目はきっと 

2013年12月28日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「柿がいっぱい採れたから、食べてー」
ヒラリン氏が、赤い実の入った袋を、高く掲げて見せた。
前回は、冬瓜(とうがん)であった。
その前は、サツマイモであった。

私のところは、氏の「余剰農産物頒布リスト」に入っているようだ。
その農産物は、氏が生産したものではなく、
何処かから、回って来たものが多い。
彼は、町会長をやっている。
世話好きで、住民からの信頼も厚いようだ。
柿だって他家のもの。
収穫作業を、自ら買って出て、いるのではあるまいか。

「どうせなら、喜んで食べて下さるところに、上げたいから」
だそうである。
「まあ、どうぞ。お茶でもどうぞ」
物をもらって「はい、ありがとう」だけでもあるまい。
お茶くらい勧めるのは、当然のことと、
私は、すぐに招き入れるのだが、もしかすると、
これが喜んでいることの、証左となるのかもしれない。

お茶を出すくらい、何ほどのことでもない。
しかし困ることがある。
ヒラリン氏の一服は、長いのである。
昔話が始まるからだ。

長年、政府系の金融機関に勤め、各地の支店長を、歴任している。
顧みれば、栄光の日々であったのであろう。
それを語るのは、即ち、その人生を語ることでもある。

今日もそうだ。
柿の甘い、渋いを、云々しているうちは、よかった。
渋柿を剥いて吊るし、干し柿にする話までは、問題なかった。
それを、機械化出来ないか、という話になった。
そこからはもう、一方的になった。
ヒラリン氏の過去を、ひたすら、聞かされることとなった。

「食品業界は、機械の導入に熱心でしてね」
煎餅を例に挙げた。
手作りでは、手間ひまがかかる。
焼く者だって、暑い。
何とか、オートメ化が出来ないかと、考えたのが、新潟の製菓会社だ。
その社長が、やる気満々であった。
当時、新潟支店に居たヒラリン氏は、その熱意にほだされ、
融資の実行へと踏み切った。

その結果、その製菓会社は、煎餅を機械で作った、
日本で最初の工場となり、押しも押されぬ、
菓子メーカーへと、発展を遂げた。

「そう言えば、亀田という駅がありますね」
私だって、在来線で新潟に行ったことがあるから、
そこが辺鄙な田舎であると知っている。
「昔は、亀田郡と言ってね。何もない農村だった。
社名を付ける時に、亀は縁起がいいからって、
それで地名を社名にしたんだ」
私が、合の手を入れるのが、よくないかもしれない。
その説明に、さらに拍車がかかってしまう。

いっそ、黙ってうなずいている方がいい。
しかし、そこがまた、ヒラリン氏の巧みなところだ。
彼もまた、一頻り喋ったところで、突如、口を閉ざしてしまう。
そして、私の顔を見る。
かすかに浮かべていた笑みが消え、にわかに鋭い目になっている。
ははあ・・・在職当時の目だな・・・
私は想像している。

融資の可否を決めるまでには、数字の裏付けもさることながら、
経営者をじっくりと、観察したに違いない。
その言葉の中の、かすかな齟齬を、聞き逃すまいとし、
その表情の、かすかな曇りをも、見逃すまいとしただろう。
それにはむしろ、相手に喋らせた方がいい。
それが、手なのではあるまいか。
それが、今に尾を引いての、その鋭い目なのでは、あるまいか。

私は、ただの知人であり、融資も何も関係ない。
そんな視線は無視し、こちらも黙っていれば、それで済むことだ。
ところが、つい口を開いてしまう。

私が長年、商売をやって来たことと、関係がある。
気分よく、買ってもらうためには、気持のよい雰囲気を、
保たねばならない。
お客さんとの間に、長い沈黙を作ってはいけない。
そういう頭がある。
そういう習性なのである。

一方で、あちらは、沈黙を武器に使う。
これでは、勝負にならない。
どちらも、現役を離れたというのに、いまだに両者、
その習性を引きずっている。

今日は、その人生の一部を聞き終えるのに、30分かかった。
煎餅の他に、マヨネーズ、焼き肉のタレ、ドトールコーヒーなどが、
氏の口から語られた。
いずれも、氏が、融資を行った企業である。
ほとんどが、前にも聞いた話だから、今さら感動することもない。

困ったことになっている。
但し、もらった柿は、意外に美味かった。
見てくれのよくない割に、甘いのである。
そう言えば、冬瓜もサツマイモもであった。
意外にいけるのである。
それで、尚のこと、困っている。



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

自戒

パトラッシュさん

トパーズさん、何時も拙文をお読み頂きまして、ありがとうございます。
お互いに、閑人同士、仕方ないと思って、付き合っていますが、
自分だけは、相手に対する配慮を、忘れないようにしたいものです。

2014/01/01 19:18:57

ヒラリン氏

トパーズさん

お二人のその時の様子が、ブログを拝見して
手に取るように分り、もう可笑しくって・・・・
酒飲みは、同じ話をくどくどと何回も言いますが
このヒラリン氏は、おちゃけを呑んでいるだけだから
やはり、過去の栄光をまだ引き摺っていたいんですね。
忙しい時は、こんな人の来訪は迷惑だけど
サンデー毎日になった今は、許せるかな・・・

2014/01/01 10:56:21

なるほど

パトラッシュさん

喜美さん、何時もお読み頂きまして、ありがとうございます。
きっと他ではあまり、しゃべれないのでしょうね。
人助けだと思って、おしゃべりを、
受け入れて差し上げるより、ないようです。

2013/12/29 18:21:45

聞き上手

喜美さん

パトラッシュさんは商売していたので
お客様をそらさないので お友達が来て話したいのよ それでお手伝いしても持って下さるのよ(喜んで食べて下さる 自分の話聞いてくださる その方が正しいでしょう)そして彼方が
選ばれるんでしょう その方一人住まいですか 一人の方は私も驚くほど
お喋りする人知り合いでいます 仕事している人は別ですね 淋しくて誰かと話したい人ありますよ

2013/12/29 14:13:47

語彙の減少

パトラッシュさん

たそがれ亭さま、初めまして。
毎度、つまらない文を、書き連ねております。
お読み頂きまして、ありがとうございます。

そうです。
「与信」でした。
この言葉を、失念し、文中に使い損ねました。
最近、言葉がすんな出なくなり、困っております。

2013/12/28 18:05:42

そうですね

パトラッシュさん

soyokazeさん、こんにちは。
ボランティアと思えばいいのですね。
世のため、人のため、30分くらい、私の時間を、提供して上げる。
そう思えば、腹も立ちませんね。
いや、やっぱり、うんざりするかも・・・
何しろ、何度も聞く話ですからねぇ。

2013/12/28 18:00:19

現役ですね・・

さん

長年培われたご商売の実績が筆の端々に現われ
愉しく拝読しました。渋柿の樽抜きに始まって
融資への与信に至るなど、会話の中のお二方は
現役ですね・・・読みやすく手馴れた文章に
惹かれました。これからもよろしく。

2013/12/28 15:21:14

傾聴ボランティア

さん

パトラッシュさん こんにちは。

読んでいて、「ふ〜む、なるほど」と感じました。
まぁ見てくれは兎も角、美味しい物も頂いた事だし、傾聴ボランティアと言う立派な功徳もできたのだから良しとしましょうよ(笑)

現役を退いたら在りし日の自分の実績を語りたい!栄光の日々を再び!ってわかる気もします。
聞く方は迷惑千万なのですが、まぁ功徳を積んだと思って下さいませ。

2013/12/28 14:13:21

PR





上部へ