sheeperの書庫

覗けば漆黒の底(6) 

2014年03月30日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



覗けば漆黒の底(6)

「前さん、青木舞彩、小関裕翔と益川の接点が、ようやく掴めましたね」
 原西刑事が、椅子に座ったまま目をつむり、天井を仰いでいる前田警部補に話しかけた。
 う〜んと、ため息のような声を出し、顎を引いたままデスクを見つめた前田警部補だ。
「あ、すいません。寝ていらしたんですか」
「馬鹿野郎、こんな真っ昼間からオネンネもないだろう」
「あ、すいません」
「あ、すいません、はもういいよ。原西の口癖だもんなあ。もっとも、聞き込みじゃあ、その口癖が生きることもあるからな。刑事が何かを聞くたびに、あ、すみません、なあんて、意外性があってさ」
「冷やかすのは、こらえてくださいよ」
「それにしても、益川の口は堅すぎる」
「はい、青木舞彩とどうして知り合って、どういう関係かと聞いても、ただ、たまたま知り合っただけだと言いますし、小関裕翔との関係を聞きましても、青木舞彩の高校時代の友人とは聞いている。それ以上のことが知りたければ、あとはそっちで調べてくれですからね。いくら見た目が若いとはいっても、どう見ても四十がらみですよ、益川は。それが、十九歳の、しかも、あれだけの容姿の青木舞彩と、男と女の関係だったわけですからね。犯行のあった益川の自宅は、郊外の、しかもその外れで、あの近くの交番は、駐在所と言っても不思議に思う者はいないでしょう。一軒家とはいっても築四十年。家賃は三万円のあばら家ときています。古びた応接セットとベッド以外には、家具らしい家具もなければ、これといって目立った電化製品だってありませんでした。つまりは、益川の暮らしぶりをみれば、流行りの援助交際なんてことも考えられませんからね」
「上が結論を早く出しすぎだ。鑑識の結果もあったし、益川と青木舞彩との仲に嫉妬していた小関が、サバイバルナイフを持って、舞彩を殺して俺も死ぬと言い残し、不良仲間たちのいる家から飛び出した直後の事件だったからな。そんな証言も取れたから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。それに、益川が現行犯逮捕されたことで、迷惑をかけられた上に迷惑をかけられた益川の立場を強調する新聞紙面が多かった。上としてみれば、早くケリをつけて、面倒は御免だってところなんだろう」
「あの不良グループは、万引きが専門でしょうか?」
「それだけじゃあないさ。それも含めて、余計なことは言わないほうがいいと思ったんだろう」
「万引きを見逃してやると言わなきゃあ、あいつら、益川との接点は喋らなかったんでしょうか」
「チンピラはチンピラなりに面を張っているんだ。ホームレスのような生活をしている中年男に、こともなげにやられたとなると、それも、事件がらみで報道されるかもしれないとなると、言えなかったのさ。自分たちに直接の関わりがなければ、あとはどうでもいいのさ、あいつら。逆に自分たちがとなると、ペラペラと喋る」
「事件直後に、しっかりと益川の身元確認をするべきでした」
「そうだな、初歩的なことをミスったかもしれない。だが、あの時点では、先にやることが山ほどあったからな。あの状況の解明が先だった」
「益川という男を知れば知るほど、あの惨状だったとはいえ、呆然と立ち尽くすだけだったというのは、とても信じられないですね」
「それは、警察官が駆けつけた時だけだ」
「だって、それで駆けつけた巡査が現行犯逮捕したんですよ」
「よく考えてみろよ。しっかりと交番には連絡をしている。しかもその連絡は、大変な事件が起こったので来てください。それだけだった。まずは、手を血まみれにした益川を確保することが精いっぱいだった巡査だ。鑑識を伴った署への応援要請はそれからだ。鑑識が事を行うまでには、それなりの時間が経過していたってことだ」
「前さんは、小関と舞彩をやったのは益川だと?」
「それはわからん。鑑識の結果も出ているし、仲間の証言もある。だが、どう考えても、俺たちに対し、挑戦的に思えてならない。こんな状況だ、さあ、どうするってなあ。何か納得ができない」

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