小噺「面目屋あ兵衛」

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パトラッシュが駆ける！

2014年04月11日ナビトモブログ記事
テーマ：テーマ無し

「おや、ご隠居さん、足がふらついてますね」
「おう、熊か。面目ない。少々酔った」
「珍しいねえ、何時もあっしに、飲み過ぎるなって、
説教する人が」
「遠来の友人に会った。肴も美味かった。
それで、図らずも、酒が進んでしまった」

「ご隠居さん、帽子はどうしたの？」
「あ・・・」
「さては忘れたな。何時もあっしに、酔っても、
おのれを失ってはいかんと、うるさく言うくせに」
「面目ない。この件は、女房に内緒にしてくれ」

「武士の情けでやんすよ、えへへ」
「面目ない。還暦の記念に、子供達からもらった帽子だ。
高かったらしい」
「取りに戻りゃいいでしょ、店に」
「それが、少々遠い。明日にでも行くさ」

「高い飲み代についたね、えへへ」
「あ、いかん。割り勘を払って来なかった」
「おいおい。家賃は遅れても、飲み代はきちんと払えと、
説教する人が」
「面目ない。わしとしたことが、つい忘れた」

「ご隠居さん、眼鏡は？」
「あ・・・」
「ほら引っかかった。大丈夫、ちゃんと鼻の上に、
乗っかってますよ」
「こら、おどかすな。またしくじったかと思った」

「ご隠居さん、Ｙシャツの襟に、赤いもんが付いてますぜ」
「あ・・・」
「ほらまた、引っかかった。さては、これだね。えへへ」
「まったく、お前ってやつは、そう言う方面ばかり、長けおって」

「お安くないねー、友達だとかなんとか言っといて」
「友達に違いはない。でも、女房には言うなよ」
「へへへ、武士の情け。その代わりに口止め料」
「悪いやつだな。えーい、今度一杯飲ますわい」

「美人でしたか？」
「そりゃもう、おまえ、宝塚に出したいくらいだ」
「男装の麗人ってえ、やつで？」
「そうじゃない、ドレスの似合う方だ。プリマドンナだ」

「にくいねえ、このー」
「勘違いするなよ。二人きりじゃない。他にも仲間が居た」
「なぁんだ」
「私らは、色恋なんぞ、とっくに超越した仲だ」
「でも、嬉しいんでしょ。鼻の下が伸びてるもん」

「そりゃ、お前、むさ苦しい男よりはいいさ」
「悪うござんしたね。むさ苦しくって」
「それじゃ、お休み」
「ご隠居さん、手に持ってる、その棒は何ですか？
ステッキにしちゃあ、ちいと細いけんど」
「あ・・・」

「先が曲がってらあ。もしかして、店のシャッターを下げる時の、棒じゃないのかね」
「こりゃいかん。面目ない。返して来る」
「遠いんでしょ、店はもう、閉まっちまいますよ」
「なあに、これがなけりゃ、閉まらない話だ」