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覗けば漆黒の底(41) 

2014年05月20日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



覗けば漆黒の底(41)

 恭子の死以来、芳村とぎくしゃくし始めた前田警部補に代わって、原西刑事が社に訪れた。
「というわけで、こちらには今のところ必要のないネタですから、もし、芳村さんが今回の一連の出来事を記事になさろうというのなら、それなりに参考になるんじゃないかと思いまして」
 伝えたいことだけを、必要最小限の時間で言い終えた原西刑事は、出されたコーヒーカップには手も触れず、そそくさと帰ってしまった。
 なにが記事にするならだ、と芳村は肚の中で吐き捨てるように毒づいた。
 恭子の死により、これ以上の進展を望めなくなった警察側としては、当然、あの無理心中事件に絡めて、そのことから多治谷を炙り出す捜査を終結せざるを得なくなったはずだ。
 他県警が主体の捜査に、見込みもなくいつまでも関わっているほど暇ではないはずである。
 一応継続、としておくとしても、梶木警部補の部署の話であって、所轄の捜査一課である前田警部補には関わりが無くなることである。
 それを、芳村に刺激を与えるように、原西刑事をよこした前田警部補の狙いは見え透いていた。
 今度は、芳村の書いた記事が、多治谷を炙り出す道具になればと思っているに違いない。
 原西刑事を使って、そうなることを焚き付けているのだろう。
 それにしても、前田警部補が多治谷に対して、これほどまでの敵愾心を抱いていたとは、今回のことがなければ、芳村が終生知る得ることはなかったかもしれない。
 いや、前田警部補の個人的感情を超えた警察側の、今後の策の一つが、芳村に記事を書かせ、多治谷を炙り出すということなのだろうか。
 そうだとすれば、なんとも手詰まり感がぬぐえない捜査陣である、と芳村は思った。
 どうにも尻尾を出さない多治谷への警察権力行使は、今の警察側にとって、どこの県警が、管轄が、という垣根を超えた警察権力の抱える最大課題の一つなのかもしれない。
 警察組織の上の上から、どんな手を使ってでも多治谷を攻略しろとはっぱをかけられているからこその、芳村までを捜査協力に引っ張り込んだ所以なのだろう。
 原西刑事が持ち込んだネタは、既に芳村のデータに組み込まれているもので、それであったからこそ、益川加奈枝を自死とした判断にもなったわけだろうし、何もわざわざご注進とばかりに勿体をつけるようなものでもないはずだ。
 とどのつまりは、芳村を焚き付けるとともに、その動きの様子見がてら、原西刑事をよこしたに違いない。
 それにしても、若い原西刑事の滞留時間はやけに短かったと、芳村の顔に苦笑いが浮かんだ。
 加奈枝に対して単身赴任としていた多治谷が、この街に帰省していないのにもかかわらず、この街で加奈枝の姉である登希子と逢瀬を重ねていたという証言は、加奈枝の経営していた店の元従業員からすでに聞き込んでいる。
 それが、加奈枝が亡くなる二年ほど前からだったということも。
 それに、未だに益川登希子が益川姓の独身であることもだ。
 本当にそういった類のものであったのかどうか、逢瀬などと証言する側にとっては、それこそ、おもしろおかしいかもしれないが、そんな噂を聞いた加奈枝の気持ちがどうであったかは、想像に難くない。
 警察側の立証の通りとだとすれば、それから奈落の底に落ちていったと思える加奈枝の行動が、その噂を聞いたときから持ち続けた気持ちそのものであったのであろう。
 益川恭子の別れた夫についても、芳村・前田・多治谷と大学の同窓であったことは、別の同窓生に確認済みだ。
 商業高校から経済学部に進んできた益川が、多治谷に商業簿記を教えるのに、隣の席で借方だの貸方だのと、簿記の初歩的な話しをしていたのを、今ではハッキリと思い出しているし、多治谷、前田のことについての記憶も正しかったと、今では自信が持てているのだ。

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