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パトラッシュが駆ける!

心ならずも(後) 

2014年12月05日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

獺祭の栓を開けた。
私の持参した大吟醸酒である。
ポンと音がする。
酒は音で決まる・・・なんて謂われはないけれど、
いい開栓音を立てる酒は、概ね美味い。

「さ、どうぞ、ささ、どうぞ」
皆さんに注いで差し上げる。
この酒が、今は巷で、入手難となっている。
だから、私は大威張りだ。
酒奉行にでも、なった気分でいる。
料理も何も出来ない、この私が奉行になれるのは、こんな時くらいだ。

「これもあるのよ」
エリー嬢が、黒い箱から、薄いグリーンの瓶を取り出した。
白いラベルに「白州」の二文字が見える。
「十二年ものよ」
この瞬間、獺祭に当たっていた、スポットライトが消え、
私も奉行の地位を失うことになった。
この世はすべて、盛者必衰であり、変転極まりないのだ。
ステージ中央に、スターが登場し、スポットライトを浴びるや、
それまでの出演者は、脇役となり、一斉に袖へと、
引き下がらねばならない。
そんなようなものだ。

酒は、価格で決まらない。
と言うのが、私の持論だ。
一方で、価格もまんざら、無視は出来ない。
市場経済をというものを考えた場合、悔しいけれど、
一つの目安にはなる。

価格が立ちはだかり、手の出ない酒というのがある。
白州十二年も、その一つだ。
バーなんかで飲んだら、えらいことになる。
私には、所詮、縁のない酒と思っていた。
それが今、眼前にある。
エリー嬢、今日はやけに、血色がいい。
懐具合も、よさそうだ。
もしかしたら、皆に隠れて、馬券でも当てたのではあるまいか。
彼女ちなみに、午年なのである。

「水割り?冗談じゃない」
ロックで頂くことにした。
こんな高い酒を、水で割るような野暮天は、死んじまえ、
と言いたいのだが、もちろん言わない。

NHKの朝ドラが、このところ「マッサン」をやっている。
国産初の、ウイスキー作りに執念を燃やす、若い夫婦の物語だ。
この中で、マッサンが言う。
「こげに美味い酒は、なかとじゃろうが」
スコットランドから持ち帰った、ウイスキーの小瓶を振りかざし、
しきりに言う。

これを見て、そうかなあ・・・と思っていた。
日本人の口には、清酒の方が、ずっと合うのではないか。
ウイスキーも、たまにはいいが、清酒の繊細さには敵わない。
焼酎の豊かさにも、敵わない。
そう思っていた。

もしかしたら、かつて私の飲んだウイスキーが、
まがい物だったのであろうか。
そう思わせるくらいに、白州が美味い。
美味すぎる。
まろやかな口当たりの中に、深い滋味があり、さらには、
その芳醇たる香りだ。
人の世の、憂いや苦しみを、すべて和らげ、喜びへと変える、
そんな力を持って居る。

極楽と言うものを、もし私が作れるなら、そこでは、
ウイスキーのフレーバーを漂わせたい。
広大無辺な、仏の慈悲にふさわしいこと、
伽羅、沈香、白檀の比ではない。

気が付けば、外が暗くなっている。
皆で、ベランダに出たのは、覚えている。
私の自宅より、空が広い。
はるかに広い。

星が見える。
十一月というのに、少しも寒くない。
だから、そこでもグラスを離さなかった。
私はすっかり、ウイスキーの虜になっている。

皆さんとの、話が尽きない。
いい歳をした男女が、何だか、高校生の、修学旅行の一夜みたいになっている。
Pocoがこれを、不思議そうに眺めている。
茶子さんの愛犬であって、これが飼い主に似ず、非常に無口なのだ。

 * * *

日付が変わらないうちに、何とか家に帰り着いた。
リュックも忘れなかった。
エスカレーターを、駆け降りることもしなかった。
だから、私の自制心は、保たれていたことになる。

しかし、ウイスキーには参った。
効いたなんて、ものではない。
翌日になっても、酔いが残っている。
若い頃、安ウイスキーをがぶ飲みし、酷い二日酔いに陥ったことがあった。
あれとは違う。
当日酔いだ。
フレーバーが、一夜明けても、私の吐く息に、残っている。

これが不思議なのだが、いくら飲んでも、グラスの底が見えなかった。
誰かが気を利かし、空きそうになると、注いでくれたに違いない。

ひょっとして白州一瓶を、私があらかた、飲んでしまったのではないか・・・
にわかに、慙愧の念に襲われている。
今度会ったら、確かめてみるか・・・
しかし、あの連中のことだ。
「そうですよ。あなたがほとんど飲みました」
こう言うに決まっている。
                (終り)



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少し遠い・・・

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
お近くでしたら、飲み会にお誘いするのですがね・・・
愛知では、そうも行きませんね。
お話聞きたいのに、残念です。

2014/12/10 21:10:52

いえ、そうではなく・・。

シシーマニアさん

私にとっては、夜のアルコールタイムは至福の時なのです。食事は勿論、食後もジョッキを片手に本を読むとか、ワイングラスを傾けながらジャズのCDを楽しむとか・・。主婦なので、我が家の夕食の片づけが遅くなってしまうのは致し方ありませんが、一応はこなしています。
普段は家族と一緒に飲んでいますが、今日は留守なので、一人です。

2014/12/10 20:13:32

私の文は、飲みながらでちょうどいいです

パトラッシュさん

シシーマニアさん、

私も普段は、一人酒です。(妻は飲まないので)
友人が来ると、外に飲みに行きます。
ごくたまに、大勢で飲みます。
つい、大酒してしまいます。
健康のためには、一人酒が良いのですが、人生は、健康だけが目的ではないので、やむをえません。

一杯ひっかけた後で、エッセイを書くこともあります。
ごくたまにですが、傑作が生まれることもあります。
でも大体は、凡作に終わります。
ぼけ始めた頭を、アルコールでさらに緩ませるのですから、当然です。

ピアノをなさっているのですね。
私は、音楽はからきしなのですが、聞くのだけは好きです。

2014/12/10 19:42:28

ビールを呑みながら読みました

シシーマニアさん

お酒はやはり、仲間あってですよね。私は今一人で、ちょっと疲れたついでに(ピアノの練習中なのです)缶ビールを開けてみました。ビールを呑みながらどの程度弾けるかを試す、という理由をつけて・・。でもジョッキを傾けたら、同じキイボードでも、ついパソコンの前に座ってしまいました。こちらは、運動神経を必要としないので、どんどん行けそうです・・。只自覚がないだけに、ちょっと恐ろしいですが。いずれにしろ、寂しいお酒ですね。

2014/12/10 17:57:37

おや・・・

パトラッシュさん

彩々さん、
急に、詩人になりましたね。
さながら、ロミオとジュリエットを思わすような・・・

本文に、Pocoは入れました。
しかし、まごっち一号を入れ忘れました。
次に機会には、必ず・・・
(と言って、さりげなく次を催促してる・・・)

2014/12/06 08:38:02

常に

パトラッシュさん

マリーさん、
まあ、いいですよ。
女性だから。
(甘い)

でも、次の機会には、ストレートの飲み方を、教えて進ぜましょう。
そう、人生はすべて、修行なのです。
小噺も、酒も・・・

2014/12/06 08:30:23

最初から終りまで酒談義

彩々さん

私の永遠の恋人と…
   
   見間違うばかりの
 
清廉かつ、どっしりとしたお姿の白州さま

口に含むと、それはもう、なんということ
でしょう!

 O〜My god!

2014/12/06 07:09:57

私も飲みました。

さん

水で割った野暮天です。
ロックでなんてとても飲めません。無粋ですよね?

私が早退した後も皆様修学旅行のようにはしゃいで話は尽きなかったようですね。

獺祭も白州も初めて飲ませていただきました。
私も当日酔いをしましたが二日酔いにはなりませんでした。

あれからもう間もなくでひと月になりますね。

2014/12/05 22:46:23

白州を

パトラッシュさん

喜美さんにも、味を見て頂きたかったです。
ええ、ほんの舐めるだけで、その良さが、お分かり頂けると思います。
世の中には、いろいろな酒がありますが、
喜美さんは、逐一知らなくても大丈夫。
立派に世渡りが、出来ているのですから。

2014/12/05 15:42:36

白州恋しや

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
怖かったですか?
そんな時は、あさっての方を向き、とぼけていればいいのです。
「飲んだ者勝ち」
何のかの言っても、これです。

あれ以来、ウィスキーが飲みたくて、仕方ありません。
しかし、安酒だと、あの感激はないと思い、買いそびれています。
また、エリー嬢が、馬券を当ててくれることを、祈るばかりです。

2014/12/05 15:39:02

忘我の境でした

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
そうだったのですかぁ。
茶子さんが、注いでくれたのですかぁ。
私はまた、グラスが常に満たされていたので、不思議だなあと思ってはいたのです。
しかし、あの美味です。
遠慮も何も、思いが至りませんでした。

今度お会いした時は、精々お注ぎさせて頂くことにします。ええ、なみなみと・・・

2014/12/05 15:30:55

話好き

喜美さん

井戸端会議好きでも
獺祭も生まれて初めて知ったし
白州なんて聞いたこともなかったから
  残念。

2014/12/05 14:43:32

白州12年

吾喰楽さん

こんにちは。

>「そうですよ。あなたがほとんど飲みました」

そんなことはありません。
私も少し飲ませて頂きました。
仰せの通り、素晴らしい香りでしたね。

でも、「茶子さんに持って来たんだからね」と、大きな目で睨まれてしまい、怖くてお代わり出来ませんでした。(笑)

当日酔いなさったんですか。
良い酒は二日酔いしないというのは、本当ですね。

2014/12/05 14:34:09

図らずして

さん

宿主である茶子さんの敬愛する白洲次郎氏を思わせる「白州」を用意しました。

でも、種を明かせば、さるクレジットカードを申し込めば、限りなくロハに近い値段でgetできると踏んだからです。

それが、敬愛する師匠を、これほど忘我の世界に誘うとは、思いもしない事でした。
これで、押しかけ弟子の呵責もかなり緩和されました。

しかし、涙を飲んで(?)、常にグラスを満たした茶子さんの優しさを胸に刻んで下さいね。(笑)

あの物静かなpocoちゃんは、やはり飼い主に似ています。

しかし、みんな何故コメントしないのでしょう?
最初の一歩は踏み出しましたよ〜

2014/12/05 13:28:45

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