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パトラッシュが駆ける!

720mlの幸福 

2015年03月06日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「都美人」とは、酒の名であって、それも、淡路島の産であるという。
かの島に、酒蔵があったのか・・・
私は、飲兵衛のくせに、まったく知らなかった。
酒なら、兵庫県内には、灘という、この国屈指の産地がある。
何も、淡路島辺りで・・・
と思い込んでいた。
私の“島”に対する、偏見というよりない。

清酒は、我が国の「国酒」であり、米と水さえあれば、
何処ででも作られる。
そして淡路は、そこらの小島とは、訳が違う。
工場でも歓楽街でも、税務署でも、何でもあるだろう。
醸造所の一つや二つ、あって、何の不思議もない。

それにしても、このところの私と来たら、やけについている。
先日もマー君が、島根の酒を運んで来てくれた。
今度は淡路から届いた。
地震でも何でも、連鎖反応ということが起きる。
次が来るのではないかと、つい期待をしてしまう。

頂戴した飲食物は、すぐに味を見る。
そして、その感想を、感謝と共に、先様にお伝えする。
これが私のやり方だ。
だから、仮に、饅頭とどら焼きが、同じ日に届いたりすると、厄介だ。
目を白黒させて、両方を食い、あげくに胸やけを起こすことになる。

そこへ行くと、酒はいい。
同じ日に、何本届いても困らない。
私には、自信がある。
片っ端からそれらを開け、片っ端から味を見る。
利き酒とは、即ち試飲であるからして、一銘柄をたくさんは飲まない。
だから、飲み過ぎの心配はない。

但し、仮の話である。
かつて、そういう事態が、起きたというわけではない。
そうであったら、いいな・・・
という願望が、私をして、つい、妄想へ駆り立てている。

 * * *

薄く透き通った、グリーンの瓶が美しい。
「大吟醸 凛美」と書かれてある。

少量を口に含み、舌の上に遊ばせてみる。
かすかに甘口だ。
広い沃野に立ち、豊かに実る作物を、眺め回している、
農夫のような、そんな気分になる。
鼻腔に、その香りを吸い上げてみる。
人の心に巣食う、雑念の一切を、大空に吹いて捨てるような、
そんな気分になる。

そして、喉へ流す。
爽やかだ。
見事なまでに、口中に余燼を残さない。
その総合力に於いて、今や全国区となった、
かの獺祭に匹敵するのではあるまいか。
いやむしろ、それを凌駕しているかもしれない。

四合瓶である。
私は素早く、その四分の一と思しきところに、
目でラインを引いた。
本日飲む量だ。
楽しみは、出来れば長く続けたい。
しかし、では、舐めるようにして、ひと月持たせたところで、
それが何になる。
酒も人生と同じ、細々と、ただ延ばせばよいというものではない。

 * * *

送って下さったのは、未知の女性だ。
私の著書を、購入し、お読み下さったそうだ。
だから、読者と言うことになる。
それも、私の出版した、二冊をもろともにだ。
だから、愛読者と言ってもいい。

「味わいのある本を、読ませていただいたお礼に・・・」
とメールにあった。
恐れ多いことであり、私はこの事態を、どう受け止めてよいか、わからないでいる。

この私に対し、酒を送って下さった。
それはつまり、著者の性向と嗜好を、本から読みとって下さったということだ。
彼女は間違いなく、私の本を読んで下さっている。

人生は、摩訶不思議だ。
長く生きていると、いろいろなことに遭遇する。
幸運もあれば、不運もある。
たまたま、何かの弾みで、飛び切りの幸運が舞い込んだと、
そう思うよりない。

私は、その幸運の酒と共に、四夜を過ごすつもりでいた。
しかし人生では、時に、何が起きるかわからない。

 * * *

折しも今、ポルトガルの地で、女子サッカーの国際大会が開かれている。
「アルガルベカップ」
これをテレビで見る人は、かなりの、女子サッカーファンであろう。
オタクと言ってもいい。
それは即ち、ある物事に、過度に傾倒する者とされている。
この私がそれだ。
私は、オタク症候群者であり、過度に傾倒する物事を、
呆れるほどに抱えている。

四年前、我が、なでしこジャパンは、ワールドカップにおいて、優勝を遂げた。
この快挙に、日本中が沸き立った。
「勇気をもらった」
多くの人が、なでしこ達を絶賛した。

「もらったら、お返しをするのが筋でしょう」
私は、なでしこ達への、今後の末長い応援を促す文を綴り、
朝日新聞に投稿した。
幸いに、掲載された。

しかし、熱しやすく冷めやすいのは、日本人の国民性だ。
喉元過ぎれば、すぐに熱さを忘れてしまう。
東北大地震がそうだ。
原発の事故も然りであった。

女子サッカーについても、その後は再び、人々の関心が薄れつつある。
それは、スタジアムの観客数に現れている。
テレビ中継の視聴率でもわかる。
私だけは、そんな薄情者には、なり下がりたくない。
女子サッカーがある限り、彼女らを、応援し続けようと思っている。

かつての主将、沢穂希選手が出場していない。
後を継いだ、宮間あや選手にも、最盛期の切れがない。
ディフェンスのミスから、やらなくてもいい二点を献上し、
デンマークに敗れてしまった。
格下相手に、悔しいったらない。

私は、その悔しい試合を、終了するまで、見続けていた。
午前一時になってしまった。
もちろん、飲みながらである。
テーブルには、もちろん、都美人が立っている。
私が熱中のあまり、本日の予定量を越えたとしても、
それはやむを得ないだろう。
時に羽目を外す・・・
これこそが、人生なのだから。

仮に、外したところで、たかが知れている。
その日、一合でやめようと思った酒が、三合に増えただけだ。
四日で空けるつもりの四合瓶が、二日で終ってしまっただけだ。

「恩は石に刻め」というではないか。
私は、一人の読者の名を、都美人のそれと共に、
私の心の中の石に、刻もうと思っている。



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良いところで学びました

パトラッシュさん

彩々さん、
舞子に縁がおありでしたか・・・
広重の浮世絵に描かれるなど、白砂青松の美しい浜と聞いております。
(住む人も、皆、美しく・・・)

高台からの、海と淡路島の光景は、素晴らしいでしょうね。
それを眺めながらの昼寝は、さぞ、極楽であったと想像されます。

淡路はまた、玉ねぎの名産地としても、聞き及んでおります。
あそこの新玉ねぎを、薄くスライスして、鰹節と醤油をかけて、生で食べるのは、酒の肴に、絶品でした。

都美人もいい酒です。
人生では、ごくたまに、こういう幸運もあるのだと思いました。

2015/03/08 17:42:29

亀コメになってしまいました

彩々さん

酒→「都美人」→淡路島となれば
舞子の高台にある学校から淡路島全景を
眺めながら昼寝していた彩々です。

あの素晴らしい環境で育つ玉ねぎも
お酒もギュ〜っと恵まれた味がしますね。

>飛び切りの幸運が舞い込んだと、

これ以上の幸せ感は滅多に味わえません!
文章に滲み出てくるパト師匠の人と成りを
読み取られたその読者様もさすがですね。

素敵なお話を聞かせていただきました。

2015/03/08 12:39:47

お酒は何でも好きですが・・・

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
いえ、日本酒だけ、奥が深いのではなく、私は、ワインもウイスキーも、負けずに、奥が深いと思っております。
ただ、たまたま私は、日本酒が好きでして・・・
いえ、供されれば、何でも飲みますがね、(意地汚いから)
和服は、おっしゃるように、同じ理由で、踏み入れないようにしています。
この歳で、もう新規のものには、手を出すまいと自戒して・・・

教養ですか・・・
何をおっしゃいますか、シシーマニアさんが。
私の方が、よほどないですよ。
井の中の蛙ですから。

日本語、私もこれは好きです。
漢文もヨーロッパ言語も嫌いではないですが、
表音文字と表意文字が適度に入り混じる、この国の言語は、私の創作文に合っているようで、
さながら清酒で晩酌をやるように、違和感がないのです。
かつては、関係代名詞のないのが、不満だった一時期もありましたが・・・

2015/03/08 11:39:24

読者からの贈り物とは、素晴らしいですね

シシーマニアさん

師匠、おはようございます。

日本酒は、奥の深いお酒なのですね。師匠の文章を読んでいると、これぞ日本の文化なのだなあ、と思わされます。
西洋志向の強い私は、日本酒の経験は殆どありません。和服も、一度足を踏み入れると大ごとになりそうですし・・。
日本の文化は、教養が伴ってこその愉しみ、と思うのはひがみでしょうか。

でも、日本語は好きです。

2015/03/08 10:34:52

お孫さん

パトラッシュさん

喜美さん、
ボールを蹴るのは、楽しいことです。
日本にも、昔は、蹴鞠なんてものが、あったくらいですから。
お孫さんが、サッカーに熱中するのは、よくわかります。
そして、お酒が好きとは・・・
本当に、お会いしたいです。

2015/03/07 12:58:43

喜美さん

孫が聞いたら喜ぶだろうなー
サッカー大好き小学校から
大学までどころかOB回作っていまだにやっています
お勤めして休みも1日はサッカー
良い子ですけれど結婚は難しいと思ったら
サッカー好きの又気立てのよい子と結婚しました
彼は父親に似てお酒好きですから
師匠とは話が合うと思います

2015/03/07 09:38:08

今宵もまた

パトラッシュさん

Reiさん、
呑兵衛の気持は、貴女だってわかるはず。
そんなに、責めんといてーな。
(きっとReiさんだって、あの場合、三合くらい飲むことでしょう)

さて、今宵もまた、女子サッカーの試合があるのです。
相手は、ポルトガルです。
9時からです。
もちろん見ます。
今、満を持しているところです。

しかし「凛美」はもうありません。(泣)
仕方ない。
今日は、八海山をやりながらにします。
何合飲むか、それは試合展開次第です。

2015/03/06 19:47:59

日本酒はいい・・・

パトラッシュさん

良香さん、
酒の良否を見極める時に、大事なのが香りです。
鼻に抜けるそれが、爽やかであると、先ず間違いありません。
良い香り、すなわち「良香」が決め手になるのです。(笑)

そうでしたか、お父様もお祖父さんも、いける口だったのですね。
新酒の上澄み、それはもう、こたえられないでしょう。
酒飲みには、おあつらえ向きの環境だったのですね。
イカの塩辛を離乳食に育った良香さんが、あまりお飲みにならない?・・・
少々、不思議な感があります。

2015/03/06 19:38:12

師匠!

Reiさん

だめじゃありませんか…
せっかく読者の方から頂いたお酒を二日で飲んでしまうなんて!
それもサッカーを見ながら…
残念ながら負けてしまった試合でしたね。
勝って、祝い酒ならまだしも…

あ、いえいいんです。
あまり言うと、またとんでもない宿題が出そうなので(^_^;)

好きなサッカーを見ながら、八海山を好きなだけお飲みください^_^

2015/03/06 19:34:51

羽目を

パトラッシュさん

プラチナさん、
妻に言わせると「あなたは外しっ放し・・・」だそうです。

2015/03/06 19:28:20

懐かしさに浸かりながら

良香さん

パトラッシュさんの御本に、感銘を受けられた未知の女性のお心、素直に受け取られて宜しいかと!
思いがけないプレゼントに、喜び戸惑う少年の様な初々しさが読み取れ <m(_ _*)m> 遂笑みが!

 亡き父と祖父の、晩酌をしている姿が思い出されました。
実家の近所に酒造所あり、親戚同然のお付き合いをしておりましたので、新酒が出来ますと瓶に詰める前の上澄み液が届くのです。

>少量を口に含み、舌の上に遊ばせてみる。
・・・そして、喉へ流す。

 新酒が届いた時、正に祖父と父がしていた飲み(味わい)方そのものです。
祖父も祖母も父も母も、それはそれは本当に美味しそうに飲んでいたものでした。
 幼い時から、晩酌をしている祖父の膝の上だった私の離乳食はお酒のおつまみ(塩辛等)だったそうです(*^-^*)v
中学生に成ってから、御猪口に一杯だけお相伴に預かり、日本酒の奥深さに触れたのもその頃からです。
沢山は飲めませんので、好みのお酒を少々です。
懐かしさに浸かりながら、拝読させて頂きました。
ありがとうございました。

2015/03/06 18:33:39

たかが人生♪

プラチナさん

時に羽目を外す、それが人生、いいですね。

2015/03/06 16:47:03

四合瓶

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
酒をもらうのは、うれしいですね。
普段手に入らない美酒となれば、なおさらにです。

だから、私も、飲める人への手土産は、お酒と決めています。

「720ml」
これ確かに、お酒くらいにしか、ない瓶ですね。
手土産には、ちょうどいいです。
自家用に買う時は、一升瓶にしますけれど・・・

片口に移せば、その都度酒量はわかりますね。
でも、その移すのを自制することは、私にはできなかったでしょう・・・

2015/03/06 13:47:21

普段は八海山です

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
私の普段の晩酌は、ビールが一缶に、清酒が一合までなのです。
一人で飲む時は、だいたい、こんなものです。
ところが一昨夜は、悪いことが重なりました。
美酒そして、サッカーです。
つい「太く短く」をやってしまいました。

都美人の「凛美」、いい酒でした。
皆さんにも、飲んで頂きたかったなあ・・・

今宵もまた、なでしこの試合があります。
もちろん見ます。
今夜は、普段の酒、八海山で行きます。

2015/03/06 13:40:42

書き手冥利

吾喰楽さん

こんにちは。

タイトルで、清酒の話題と想像がつきました。
ところが、その内容は思いもよらぬ内容でした。
まさに、書き手冥利に尽きますね。

私は、珍しい清酒が手に入ると、片口の酒器に移して飲んでいます。
丁度、一合入るんです。
お代わりは、別の清酒にします。

2015/03/06 13:14:02

なんという幸せ!

さん

パトラッシュ師匠、こんにちは。

自分の書いた本を、お金を出して買って下さった。

内容に感銘を受けて、読者として、その気持ちをプレゼントに込めて送って下さった。

私なら、その時点で昇天しそうになります。

そのプレゼントが、大好きな、しかも未知なる清酒と来たら、感極まってよくぞ倒れなかったと感心します。

その、宝物のようなお酒を、サッカーに夢中になって、三倍速で飲んでしまったとは!

でも、心に刻まれた思いは永遠ですね。^^

2015/03/06 11:07:08

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