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パトラッシュが駆ける!

旅の余燼 

2015年04月25日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

飲食店の連なる町中に、場違いの建物が見えた。
入母屋造りの、大きな木造建築には、
裳階(もこし)まで付いていて、一見三階建てに見えなくない。
建てられたのが、昭和十三年とか。
当時はさぞ、白壁の美しい、壮麗な建物であったろう。
今は逆に、その蒼古が際立ち、玄関の唐破風の屋根と共に、
浮世から抜け出た感がある。

内部も古めかしい。
床も柱も天井も、木という木が全て黒光りしている。
さながら、明治の世に、タイムスリップしたようだ。

脱衣して、階段を下りると、浴室がある。
十坪あるかどうかであり、決して“大浴場”ではない。
半地下ではあるけれど、吹き抜けになっているから、天井が高い。
そしてガラス戸から、自然の光が入り、おおどかに明るい。

浴槽の周囲に、男達が思い思いにあぐらをかき、身体を洗っている。
石鹸を流すのに、浴槽の湯を、桶で汲み、身体にかける。
中には、髭を剃る男もいる。
これも、浴槽から湯を汲み、顔を洗い流す。
そう言えば、浴場内には、身体を洗うための、蛇口というものが見えない。

他所者には、奇異に見えるけれど、地元の皆さんにとっては、
これが日常の、浴場習俗なのであろう。
いわゆる“源泉かけ流し”であり、湯は絶えず浴槽に流れ込み、
そして流れ去って行く。
清潔が保たれるわけだ。
朝の6時半である。
朝食前の一風呂をと、よそ者である私も、この湯の恩恵に、
浸らせてもらっている。

入湯料が百円。
何と言う安さだろう。
それもそのはず、市営である
こんな公衆温泉浴場が、市内に数知れずある。

私は滞在中、ホテルの浴室を使わず、町中の浴場を、
朝な夕なに、巡り歩いていた。
しかし所詮は、三泊四日の旅人だ。
とても全部を、回り切れるものではない。

朝風呂を浴び、ゆっくりと飯を食い、私は後ろ髪を引かれつつ、
別府の町を後にした。

 * * *

毎度のことながら、私の旅には、計画性というものがない。
国東半島を巡り、石仏や磨崖仏、古いお寺などを見てまわりたいと、かねがね思っていた。
その思いが、さながらガスのように、私と言う器の中に、溜まっていた。
ガス圧が臨界点に達すると、もういけない。
さながら、風船がはじけるように、私は、旅に出ずにいられなくなる。

国東は、予想の通りに、豊闊の地であった。
交通の不便が、陸の孤島を生み、その僻陬の地にこそ、独自の宗教文化が伝わる。
「発展」しないことが、むしろ幸いであった、その一つの例を見たような気がした。

念願叶ったその後は、別府のホテルをベースとし、周辺を遊び歩いていた。
仏様をダシに、温泉三昧と、飲み食いに明け暮れていたようなものだ。

別府から特急に乗り、小倉で新幹線に乗り継ぎ、
我が家に帰り着くまでに、かれこれ7時間かかった。
随分と長い。
しかし、これが不思議なのだが、その長時間が、ほんの須臾のようにも思われる。

旅で出会った、仏様の数々。
その温容が思い出される。
煙霞の中の山々。
そこに上がる、温泉の白い噴気。
行く先々の、新緑がまばゆい。
それらを思い出しているうちに、新幹線のぞみは、あっさりと東京駅に着いていた。

旅の後の虚脱。
私は今、この中に居る。
余韻に浸るなどと、洒落たことは言うまい。
私の雑駁な旅には、余燼こそがふさわしい。
旅の昂りが、私の容器の中で、熾火のように、まだ消え残っている。

 * * *

妻以外の、誰にも告げぬまま、突然に、旅に出ておりました。
四日ほど、音信不通であり、ご心配下さった方も、おられたかと思います。
私は昨夕、無事に帰宅致しております。
ここに旅の一部をご報告し、お礼とさせて頂きます。



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仏像は・・・

パトラッシュさん

喜美さん
ご心配下さいまして、ありがとうございます。
パソコンを持って行きませんでしたので、四日間、まったくネットから離れておりました。
とうとうあいつ、くたばったか・・・と思われやしないかと、心配しておりまして、とりあえず本日、無事なことだけ、お知らせした次第です。

石仏を含めた、仏像は、歳を取るほど、親近感が増すようです。

2015/04/25 19:34:51

九州はよかですなあ・・・

パトラッシュさん

reiさん、
熊本に行っておられたのですね。
実は、大分から、阿蘇を経て、熊本に下る案も、考えてはいたのです。
しかし、日程を伸ばさなければ無理だと判断し、諦めました。
熊本は、また別の機会に、訪れたいと思っております。

同級会、楽しまれたことと思います。

2015/04/25 19:30:23

次は・・・

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
ガス抜きは、日帰りでも出来るのですが、今回は宿願でもあったので、少々気張りました。
しかし、費用もかかったことで、当分遠出は自粛しなければなりません。

でも、北陸へ行かれるなら、万障繰り合わせてでも、付き合います。
行けるうちが花ですから・・・

2015/04/25 19:22:41

磨崖仏

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
男の方が、旅におけるハードルが低いことは、事実ですね。
いざとなれば、駅のベンチにだって寝ることが出来ますから。
でも、女性だって、かなりの旅が出来るはずです。
あの雲洞庵を訪れたかったSOYOさんなら、石仏の里も、きっと気に入ることでしょう。

一人旅もいいですが、気の置けない仲間との旅もいいですね。
またやりましょう。

2015/04/25 19:18:36

旅中毒

パトラッシュさん

風香さん、
時たま無性に、旅に出たくなります。
今回は少々、遠いところでしたが、近くを訪れることもあります。
行けばそれで、気が済むのです。
アル中ならぬ、旅中毒なのかもしれません。

2015/04/25 19:12:24

博多にも・・・

パトラッシュさん

ばばたまさん、
鉄輪温泉の湯は、いかにも熱そうですね。
至るところ「地獄」だらけですから。

帰路、いっそ博多に出ようかとも考えました。
しかしそうすると、もう一泊しなければ、治まりがつかなくなるでしょう。
それで、後日を期すことにしました。

2015/04/25 19:08:54

やっぱり

喜美さん

ギャラリーに拍手して見ると
良く私の前にされていましたのに
最近見えないので 他の方のギャラリー迄調べたことありました
如何されたかなと感じてはいました

石仏昔私も見ました 主人は見ていましたけれど 私は興味もなく 幾つもあり過ぎ何て 今考えると国宝ですね
申し訳なかったと思います

2015/04/25 16:15:34

良い旅

Reiさん

旅に出ておられたのですね。
私も熊本へ二泊三日で帰省しておりました。
私の場合、母の元気な顔を見て、バカな同級生たちとの同窓会があっただけですが…

師匠は思い通りの良い旅をされて、本当によかったですね。

2015/04/25 16:04:11

三泊四日

吾喰楽さん

こんにちは。

三泊四日のぶらり旅、ガス抜きができたようで何よりです。

臼杵磨崖仏、知りませんでした。
今しがた、パソコンで調べました。
日本には、まだまだ知らない、良い所がありますね。

2015/04/25 14:21:48

さん

パトラッシュ師匠 こんにちは。

旅とは、まさに、そんな飄々と、気の赴くまま、楽しむものでしょうね。
その点、男性の方が何の制約もなく、羨ましい気がします。

臼杵の磨崖仏は、見たかったのです。
けれど、夫婦の旅故、夫の希望と食い違い、譲りました。

温泉での光景、中々乙ですね。

2015/04/25 12:19:03

浮世離れ

さん

まさに、その通りですね。
なんとも羨ましい限りです。
いいですねぇ。

そっか・・心の臨界点ですか。
無計画な「個」の旅ほど贅沢な旅は無いでしょう。
規模縮小で私も ふらふら旅に行こうかな(^^♪

2015/04/25 11:57:42

臼杵の石仏

さん

別府のお泊りでしたか?
鉄輪温泉は湯量も多くちょっと熱めの湯でした。
臼杵の石仏には若い乙女だったころの私でも感動した記憶がございました。

2015/04/25 10:47:49

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