メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

遠くの友から 

2016年08月06日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「やあやあ、おばんです」
受話器から、懐かしい声が響いた。
秋田の朝之助であった。
遠くに住む、友人からの、久しぶりの電話……
となると、少し身構えることになる。
彼の身辺に、何か起きたのではないか。
あるいは近日中に、上京するとでも言い出すのか。
いずれにしても、微力を、尽くさねばなるまい。
歓待に、これ努めねばなるまい。
そういう仲なのだ、朝之助とは。

このところの私は、少々忙しい。
エッセイ集の出版を、目論んでいて、それが、最終段階に入っている。
出版社に送る、原稿のチェックに追われている。
送り仮名、句読点、行替えなどに、細心の注意を払わねばならない。
ミスのない原稿を渡せば、それだけ、後の校正作業が楽になる。
それでヒマさえあれば、原稿を眺めている。
本当は、眺めていてはだめ、気合を入れて、
一字一句を見なければいけないのだが、
この暑さもあり、少々だらけている。

「毎日暑いねえ」
「秋田もかい?」
「今日は三十四度あった」
「おや、東京より暑いじゃん」
時候の挨拶ばかりで、話がさっぱり、先に進まない。
「都知事選挙で、大盛り上がりのようだね」
「まあね」
「誰が勝つかね」
「さあ……」

どうも、他府県の人の方が、都知事選への関心が高いようだ。
首都のガバナーを決める。
それは一大事であるのだろう、そのニュースは、
全国で取り上げられると見える。
地方の人から見れば「東京燃ゆ」の感が、あるのかもしれない。
こちらでは、とてもそんな熱気は感じられないのだが。

同じようなことは、舛添前知事が辞める前にもあった。
SNSを覗くと、怒りの声に、満ち満ちていた。
「何故、東京都民はもっと、怒らないのか」
これを言うのが、決まって他府県の人であった。

そう言われたって困る。
都庁に押し掛け、知事に罵声を、浴びせよとでも、言うことか。
とてもそんなことは出来ない。
それで、東京都民はおとなしい、手ぬるいとでも、
思われたかもしれない。

朝之助の電話は、結局、久闊を叙したに過ぎなかった。
格別の用件はない。
久しぶりに電話をかけてみた。
互いの動静を確認し合った。
それだけのことであった。
都知事選挙が、朝之助をして、この私を思い出させたとしたら、
それはそれで、結構なことではある。

 * * * 

燃えるどころではない。
私は、今度の選挙には、実を言えば醒めていた。
新聞の事前予想とやらで、勝敗の帰趨も大方知れていた。
だからテレビの、開票速報なんてものを、
見ようともしなかった。
その夜は、一杯飲んで、さっさと寝てしまった。

但し、投票には行った。
二十歳で、選挙権を得てからこっち、
ただの一度も棄権をしていない。
平々凡々であった、私の人生の中で、
自慢できるとすれば、これくらいのものだ。
さながら、万年平社員が、意地を張って、
無遅刻無欠勤にこだわり、
それを、自己満足としているようなものだ。

私の投じるのが、死票となることは、わかっていた。
私は、時の政権に対し、常に不満を抱いている。
批判する側に立つ。
それはつまり、野党の側を応援することであり、
相対的に、少数派に属すということになる。
投じたそれは、死票となることが多い。
常にそうだった。
私ほど、死票の山を築いた投票者も、滅多に居なかろう。

 * * *

またもや遠隔地から、電話がかかった。
「高知の、やいろ鳥です」
もしかすると、彼の声を聞くのは、五年ぶりかもしれない。

あの時の私は、四国の遍路旅の途上にあった。
旅程を調整し、旅の中継地の、高知駅前で会うことが出来た。
はりまや橋の近くに、真っ昼間から飲める、居酒屋があった。

「私の歩く姿を女房が言うきですよ。エジプトのミイラが、墓から出て、
ひょろひょろ踊っちゅうようだって」
土佐に来て、土佐の訛りを聞きながら、
土佐の肴をつまみに、土佐の酒を飲んだ。
長い遍路旅の中でも、あれほど楽しかったことはない。
その旅程が、苦労の連続であったから、
余計にそう思わされたこともある。

そのやいろ鳥が言う。
「女房が入院しておりまして」
老境に入り、彼自身にもまた、不調が出始めている。
「頑張って下さい」
ただ慰めるしかない。
何をどう頑張るか、私にだってわからない。
それでも、そう言うよりない。

高知に行きたいなあ……
にわかに旅心が募っている。
土佐の魚は美味い。
酒も良い。
それよりなにより、友と会える。

互いの息災を、喜び合うことが出来る。
この歳になると、多くは望まない。
それだけで、もう十分だ。

続けさまにかかった、二本の電話。
格別の用もない、二本の電話。
これがにわかに、私の旅情を掻き立てている。



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

歳には勝てず

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
そうですね。
彼、元気を装ってはいましたが、健康面への不安視は、
払拭できなかったようです。
いかにも遅すぎました。

蓮舫さんが出てくれればよかった……と、何度も思ったことです。
風流寄席でお会いした、そっくりさんにも、出馬を促したのですがね……
「出るといいですね」
彼女も言っていたのですが……

2016/08/06 20:54:16

県外

吾喰楽さん

こんばんは。

私は選挙権がありませんが、県知事選挙以上に、興味を持っていました。
女性同士の戦いだと、面白かったですね。
野党で名前が上がっていた方は、党首の道を選びましたね。
片や、党内に見切りをつけた。

私の兄も、「野党候補が十歳若ければ」と、云っていました。

2016/08/06 20:15:55

私も野党の候補です

パトラッシュさん

沙希さん、
今回は、小池さんの優勢が揺るがないと思われました。
私は、自民党が嫌いなもので、ついこの間まで、
在党していた人物に、入れることは出来ませんでした。

2016/08/06 17:48:59

棄権より良いさと

パトラッシュさん

村雨さん、
そうですが、同じ死票組ですか。
何も変わらないからと、棄権する人がいますが、
私はそれなら、白票を投じる方が、まだ良いと思うのです。
死票でも、投票する方が、よほど潔いと思います。

2016/08/06 17:45:26

今回は

さん

衆院選までは、私も野党に入れ、今回は目的を果たしました。
(下馬評で低い方に入れたのですが、結果は反対だったので、ちょっと焦りましたが)

今回の都知事選は、白票です。
野党候補に知事を務める力があるとは思えませんでした。
十年前であったら当選したでしょう?
残念無念です!

2016/08/06 15:18:13

私も

さん

死票組です。

2016/08/06 11:04:31

PR







上部へ