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パトラッシュが駆ける!

手紙 

2016年08月13日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

貰えば嬉しいけれど、出すのは億劫。
というものは、世にいろいろあるけれど、手紙もその一つ。
電話やメールに比べ、手間ひまがかかり、少し気の重いところがある。
電話をシャツ、メールをカジュアルウェアとすると、
手紙はスーツに喩えられよう。
着用に際し、襟を正し、折り目を確かめるなど、
いささかの気構えが、求められる。

小文を書くことを、半ば業のようにしている私とても、
それは同じ。
人様には、もっと手紙を書きなさい、
なあに、思ったままを、素直に綴ればいいのですよと、
こう勧めておきながら、いざ自分の段となると、
そうも行かないことがある。

私は先月、坐間先輩に招かれ、八ヶ岳山麓の山荘に行き、
三日間を過ごした。
その折である、本を頂戴したのは。
上梓が成ったばかりの、先輩の著書であった。
旅行記であって、四国遍路旅の、一部始終が描かれてある。

頂戴したからには、それへの読後感を書かねばならない。
単に「ありがとうございました」では済まない。
感想を述べる。
それは批評でもある。
気合を入れて、書かねばならない。
ところが、この暑さだ。
一向に、気合が入らない。
それで少し悩んでいる。

先輩は過去に、ヨーロッパへの旅行記など、
四冊の本を出版している、
そのベテラン著者に対し、生半可なことは書けない。
迂闊なことを言えば、すぐに突っ込んで来る人だ。
「それは、どういう意味ですか?」
理詰めで来る。
そういう人なのだ。

私は、五年前の四国の遍路旅の途上で、その先輩と出会った。
遍路旅では、実に様々な人々に会ったが、
先輩ほど、緻密に思考を巡らす者は、居なかった。
しかしながら、緻密とて、度が過ぎれば、それは、
ややこしいことになる。
何の因果であろうか、私は、そのややこしい人と、
縁が切れそうで、切れないまま、五年付き合っている。
声がかかる度に、私はいそいそと、その八ヶ岳の山荘まで、
出かけて行く。

 * * *

本の一冊ぐらいで、大騒ぎすることはない。
実は、私だって、出版をしている。
同じく、遍路旅についてである。
遍路経験者は、それを何かの形にして残したい。
もっと言えば、世に問いたい。
そういう気持が強い。

もう四年も前になる。
印刷所から送られて来たそれを、当然のように、先輩にも送呈した。
その返事の来たのが、何と、三か月後であった。

よほど熟読したのであろう、その読後感は、全編に及び、
細部に渡り、A4の紙六枚に、びっしりと書かれてあった。
そう言う先例がある。
私にも、プライドと言うものがある。
あちらがそうなら、こちらだって……という思いがある。

私が、本を持ち帰ってから、ほぼ半月になる。
先輩からは、三か月後に手紙が来たのだから、
それに倣えば、私にはまだ、二か月半の余裕がある。
しかし、私は短気者だ。
先輩のような、悠長は、やりたくない。
早いところ片付けて、後顧の憂いを無くしてしまいたい。
折しも夏だ。
子供の頃、宿題を後回しにし、後で焦りに焦ったことを、
思い出している。

 * * *

先輩の文には、比喩や張喩がない。
レトリックというものを、ほとんど駆使しない。
それを、堅実な文ということも出来る。
遍路旅の、根源的な意味を考える際に、その乾いた文体が、
役立っている。
般若心経を、解釈する場合もそうだ。
そこに湿気のような、情緒を含まない方がいい。

但しそれが、道中の風物を紹介する際などには、
少し硬い感じになる。
犀利な匂いが、鼻に付く場合もある。
もっと、くだけた方がいい。
潤いのあった方がいい。
その辺のことを、重点的に書いてやろうと思っている。
しかしそれでも、A4一枚を埋め切れるかどうかだ。

感銘を受けたセンテンス、これを拾い上げ、列挙してやろう。
これつまり、褒めることでもあり、作者だって悪い気は致すまい。
しかし、どう考えても、それらを合わせ、
六枚に達することはない。
仕方ない。
量で張り合うのは、諦めねばなるまい。
そんなことを、考えているうちに、半月が経ってしまった。

 * * *

先輩はかねがね、もう本は出さないと言っていた。
「あなたの『風に吹かれて遍路旅』、あれを越える本は書けない」と言っていた。
それがどうだ。
私の気付かぬうちに、着々と原稿を用意し、気が付いたら、
もう刊行を終えている。
まことに油断も隙も、ありはしない。

その本を、先輩はすぐに渡してくれなかった。
「今ここで読まれると、はずかしい。帰りがけに渡すから、
私の居ないところで読んで下さい」
他の事は、遠慮会釈なく直言に及ぶ人が、
さながら乙女のような、可憐なセリフを言う。

私は、もらったそれを、帰りのあずさ号の中で、
あらかた読んでしまった。
何が恥ずかしいものか。
立派な旅行記ではないか。
遍路解析文ではないか。

先輩の謙遜は、これをまともに受け取ってはいけない。
一筋縄では、行かない人なのである。
だから考えている。
どういう風に褒め、何処を貶そうか、それを考えている。

今回は、特殊な例だ。
相手が悪い。
ただの人ではない。
だから、ただの手紙には、なり得ない。
私の苦衷を、お分かり頂けるであろうか。

手紙を書くのは、時に気の重いこともある。
この暑さの中を、スーツ着用で出かけるようなものだ。
私は、えいっとばかりに、気合を入れなければ、
袖が通らなくなっている。



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宿題は愛の鞭

パトラッシュさん

Reiさん、
そうなのです。
愛あればこそ、Reiさんを鍛えたのです。
その後も、方々で、鞭を振りまくっておりました。
その報いでしょうかね、こんなことになるとは……
聡明なるReiさーん、助けてー

2016/08/14 07:42:46

宿題

Reiさん

師匠が宿題?に苦しんでおられるのを見て、気の毒なような、嬉しいような・・・(^^;)

私が、最初に師匠に宿題を出された時のことを思い出しました。
素晴らしい文章力を持った皆さんがいらっしゃる中、「今日のことを書きなさい」と言われ、すごいプレッシャーを感じました。

師匠、暑い中ですが、いっぱい悩んでください。
私も、世の中はお盆休みですが、違う宿題に追われているところです(>_<)

2016/08/13 20:04:47

あだやおろそかには……

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
批判は難しいですね。
しかし、今回の場合は、褒めるだけでは済ませられません。
空世辞や、胡麻すりなどは、苦も無く見抜いてしまう人だからです。
一応、感じたことは、言おうと思っております。
それが怒りを買うことはないのです。
但し、納得できないと、さらに質問魔となり、突っ込んでくることはあります。

いずれにしても、批評において取るべき態度は、文においても、ピアノにしても、ほとんど変わらないと思います。

結局は、批評する自分自身が問われるわけです。
あだやおろそかには、出来ないと言う事で……

ちなみに、シシーマニアさんは、脳天気でも傲慢でもありませんよ。

2016/08/13 14:59:18

なるほど

パトラッシュさん

彩々さんの文に、人並み外れたところがあるのは、
(もちろん、上手いと言う意味です)
運命鑑定の結果を、文で伝えることにより、鍛えられた……という側面があるのかもしれません。
(もちろん、それだけでなく、天性のものも、あるのでしょうが)
書き慣れる、ということが、何より大事なのでしょうね。

私のような、書評とは違い、下手をすれば、人の運命を左右しかねない側面があり、回答には慎重を期す必要がありそうです。

私には、なおのこと、荷が重い感があります。

2016/08/13 14:45:52

脳天気は、時に傲慢と化してしまいますが

シシーマニアさん


彩さんのコメント、私にも強く、伝わってきました。

私は、ちょっと褒め過ぎてしまう傾向があります。

ピアノの場合は特に、結果はもとより、それまでの過程を思うと、既に○と思ったりさえもします。
賞賛は、たとえそれが外れていたとしても、相手は余り傷つきませんから。むしろ、こちらがバカにはされる位で・・。

批判するのは、覚悟が要りますね。
批判された方は、一生覚えていることもあります。
でも、私の場合は、今まで受けてきた数々の批判で、自分を鍛えてきた、とも思っています。

師匠が、先輩に対して批評なさるケースとは、ちょっと次元が違うかもしれませんが、でも大きくは変わらない気がするのは、ちょっと脳天気かな・・。

いつも、ダサいのです。

2016/08/13 13:31:44

続き

彩々さん

>先輩の謙遜は、これをまともに受け取ってはいけない。
一筋縄では、行かない人なのである。
だから考えている。
どういう風に褒め、何処を貶そうか、それを考えている。

一等最初に感じた読後感が、一番的確な思いだと言えるのでは!?
それが一言であろうと、相手が唸るほどに納得すれば、
それが最高の感想になるのではないでしょうか!?

一筋縄ではいかない人なら、黙って言葉を発しないという
方法も、ある意味では、インパクト大のメッセージだと
言えるのでは。

口幅ったいことを申し上げて、すみません!

2016/08/13 12:22:40

私もよく、う〜んと

彩々さん

一人、腕を組んでは組みなおし、また組みなおしを
繰り返し、書き出す言葉が見つからない時があります。

特に、メール鑑定で相談を受ける内容の時は一言目の
書き出しが大事だと思うと、余計考え込んでしまうのに
似ている気がします。

その相談者にとって相談内容は、その人の人生が
語られたエッセイでもあるからです。
悩みの答えも80%は、すでにご本人が決めている
ことがほとんどです。

それが間違いの方向へ行くにしても、そうしたいのなら
それが、その人の生き方の通過点で、間違っていても
それがいつか役に立つことが多いから、私は何も言いません。

かと言って、運命鑑定士として何も言わない訳はいかず、
そういう時は、「ここだけ気を付けて、これで
いいのでは!?」と、一言くらいで突き放したように
まとめます。

          続きます

2016/08/13 12:22:12

正装苦手です

パトラッシュさん

喜美さん、
清雅亭に伺う際は、気楽な略装で行きます。
スーツで包丁研ぎは、出来ませんので。(笑)

実を言えば、背広は持っているのですが、
もう何年も着ていません。(カビが生えているかも)

2016/08/13 10:39:29

スーツ

喜美さん

文章書く人は違いますね
スーツは着る物しか考えていませんでした 今は嫌ですし もう全く持っていません 何事もいい加減で丸く仲良くが好きですから適当な服が良いですね 私とのお付き合い間違ってもスーツは着ないでね

2016/08/13 10:30:16

もっと露出を……

パトラッシュさん

澪つくしさん、
私は普段、エアコンも付けずに、
短パンにランニングシャツ一枚で過ごしております。
正装は苦手、と言うより、地獄の苦しみなのです。

手紙も、時候の挨拶程度なら、気楽でよいのですが、
批評を書くとなると、神経を使います。
えらい人と、付き合ってしまったものです。(笑)

大磯は海の町、夏場は賑やかでしょうね。
皆さん略装で、闊歩されていることでしょう。

澪さんの浴衣姿、粋でやんしょうね。

より露出度を高めて下さい。
ええ、ブログのことです。(笑)

2016/08/13 10:28:45

残暑お見舞い申し上げます

澪つくしさん


>この暑さの中を、スーツ着用で出かけるようなものだ

文章を書くのは苦手な私です!
パトさんがこのように仰るなら、尚更私なんか・・・

暑い夏のスーツはキツイですね〜

私は海辺の住人ですから・・・
男性はアロハに短パンとビーサンがいいですね!

浴衣か、もっと軽く甚平さんでもok!

今日はお盆の入り!
私も浴衣でお迎えしようかしら∬´ー`∬ウフ♪

2016/08/13 09:51:23

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