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パトラッシュが駆ける!

進呈します 

2018年05月26日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

夕刻から、雨が降り出した。
俗にいう「七つ下がりの雨」であり、
これは、容易に止まないとされている。

傘を持たない通行人を、見かける。
朝の予報では、雨が降るかもしれないと、
確かに言っていた。
しかし、午前中、くっきりと晴れていたから、
彼らは、これに惑わされたのであろう。

若者は、元気がいい。
濡れるを厭わず、走って行く。
子供も駆けて行く。
問題は年寄りだ。
雨に濡れ、風邪でも引いたら、大ごとになる。
幸いに、時間だけは、たっぷりとある。
商店の店先で、しばし雨宿りということになる。

隣の酒屋の軒下に、覚えのある顔が見えた。
Y先生だ。
今はリタイアしたが、かつての大学教授であり、
この国の、細菌学の権威と、伝えられている。
現役時代は、送迎のハイヤーが、
その家の門前に横づけになっていた。
今は、権威も何もない、ただの、好好爺である。

「どうぞ、お持ち下さい」
私は、傘立てにあった、ビニール傘を引っ掴み、
先生の元へと走った。
「よろしいんですか、頂戴して?」
「どうぞ」
先手を越されてしまった。
実を言えば私は「返さなくていいですから」
と言うつもりであった。
つまり、進呈するつもりであった。
傘の一本や二本、惜しくも何ともない。
太っ腹なところを、見せるつもりであった。
ちなみに、私が裕福なのは、傘くらいのものだ。

差し出した傘に対し、Y先生は、恐縮などしない。
当然のように、これを受け取り、去って行く。
これつまり、傘の価値について、
彼我に、温度差のあることを表している。
「ビニール傘なんて、ただみたいなものだ」
という考えがある。
一方で
「暗夜のマッチ一本と同じく、金で買えない価値がある」
とする、見方もある。

翌日は晴れた。
Y先生は、当然のように来ない。
私の傘は、Y家の傘立てに、収納されたと思われる。

いや、それも一時のことであり、永久保存など、
されるわけがない。
折を見て、処分されるだろう。
不燃ごみの日を、見てみるがいい。
町の其処此処に、ビニール傘が捨てられている。
私の進呈した傘も、同じ運命をたどると思われる。

 * * *

自慢ではないが、私には、傘の供給源がある。
貸家の店子、慶介だ。
彼は、通勤途上で、降雨に遭遇すれば、
すぐにビニール傘を買う。
「安いもんです。そして、不要になったら、
すぐに捨てられますから」と言う。
実にもう、その辺を割り切っている。

ビニール傘の溜まり具合で、その人の性格がわかるそうだ。
ストックを、大量に抱えている人は、だらしない、
計画性がないという事に、なるのだそうだ。
となると、慶介はそれだろう。
そのだらしなさで、よく、食品スーパーの店長が
務まるものだ。

当人も、少しは気にしているのかもしれない。
傘が溜まると、ゴミ置き場に捨てていた。
それを拾い上げ、私が使っていた。
今では自ら、私のところへ運んで来る。
「どうぞ、お使い下さい」
私が、囲碁サロンの客などに、貸し出すことを知っている。
これがほんとの「持ちつ持たれつ」であろう。
私が、需給の中継点になっている。

 * * *

二日後のことだった。
Y夫人が、私のサロンに現れた。
その手に、傘が見える。
先日、旦那に渡したところの、それであろう。

「先日は、主人が、お世話になりました」
意外にも、返却に来たのである。
さらに、ガラスの小瓶を差し出して言った。
「庭で採れた夏みかんを、マーマレードにしました」
「いやぁ、それは……」
えらいことになった。
おんぼろ傘が、結構な食品へと変身した。
これだから、傘の進呈は止められない。

私は今後とも、外部監視の努力を、怠るまいと思っている。
にわかに雨の降り出した際は、特に要注意だ。
私の囲碁サロンには、売る物が何もない。
せめて、通りすがりの困惑者を見つけ、
恩でも売りつけようかと思っている。



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なるほど

パトラッシュさん

澪つくしさん、
「気持を頂戴する」という意味でしたか……
それなら、意味が通りますね。

ビニール傘に、その人の美学が垣間見えますね。
私は、フォーマルな時には、布製を、カジュアルな時には、ビニールをと、使い分けをやっております。
澪邸に行く時は、もちろん、布であります。(笑)

2018/05/29 05:58:43

さすが パトさん(^^♪

澪つくしさん

急な雨の時には安価で手に入るので、
重宝させてもらいますが・・・

なぜか私の様な年代の者は、ビニール傘を
潔しとしませんね〜!

恩を売るだなんて・・・
パトさん! シャイが見え見えです(*^-^)ニコ

こんなお節介をすかさず出来るのは、
常日頃からの気配り・目配りの神髄でしょう♪

Y氏も奥様も素晴らしい価値観の方です。
Y氏はパトさんの気持ちに「頂戴します」と、
奥様はその気持ちには気持ちでお返しされる。

気持ちの良いご縁でしたね(^^)v

2018/05/28 22:59:02

そりゃ、罰当たりで……

パトラッシュさん

彩々さん、
私は、お節介病です。
つい、良いところを、見せようと、張り切ってしまいます。

気を悪くする人が居る?
それは、困ったことですね。
私のところは、幸いに、そういう人は居ません。

2018/05/27 18:25:09

生って良し生らぬも良しの夏みかん

パトラッシュさん

喜美さん、
おたくは、来客が多いですから、置忘れの傘も、多いことでしょう。
シニアナビの、誰かさんも、かつて忘れて行きましたっけ。
ジャムつくり、大変でしょう。
頂く方は、美味しいから、覚えているのですね。
今年は、残念でした。

2018/05/27 18:22:32

粋なオチ

彩々さん

こころ温まるお話です。

こうした、心のやり取りが
幸せを運んでくれますね。
ちょっとした事なんですがねぇ…

中には、気を悪くする人もいたりして
人付き合いも難しいなと、改めて
思うことがありました。

2018/05/27 07:38:12

喜美さん

貰えるものは貰いに行こうかと思いましたけれど傘では。我が家はビニール傘でなくても長居客が忘れます
何方か解ればいいですけれど最近は
問い合わせ有るまで其のままにしています
夏みかんジャム聞いて下さい
我が家も毎年作りますけれど
手間かかります おいしいです
今年は植木屋さんが早くて切り過ぎで
余りならなく肩の荷降りたところ
老人会の人たちが奉仕で草取り10〜20分くらい来てくれました(勿論有料)そのうちに代表の方が今年はジャムはないのですか皆お宅に来るの楽しみにしています 唯驚きでした昨年は沢山出来て其の日も小分けにしてありましたから
20人位でしたけれど上げたの覚えていたみたい私忘れていました

2018/05/27 07:02:34

傘の動向

パトラッシュさん

漫歩さん、
一度きりで、御用済み……
こりゃ、もったいないと言うものです。

それにしても、布製傘の、少なくなったこと。
先日も、数えて見たら、十人の内、七人がビニール、三人が布でした。
布製傘のメーカー、果たしてやって行けるのかしら……

2018/05/26 14:22:32

そうと知ったら……

パトラッシュさん

月あかりさん、
そうなんですか、夏みかんは難しいのですか……
そうともしらず、パンに塗りたくり、さっさと食べてしまいました。

外部監視において、Y先生は、特にマークしておきましょう。

2018/05/26 14:16:40

妙案

パトラッシュさん

秋桜さん、
こんな手も、考えました。
中古ビニール傘を、背中に十本ほど括り付け、
にわか雨の町を、売り歩くのです。
「えー、傘はいかがー」
「一本ひゃくえーん」
とか言ってです。

でも、いい歳をして、みっともないので、止めました。

2018/05/26 14:13:29

お役ご免にあらず。

漫歩さん

役目が終われば捨てられる反面、置き捨てや廃棄品で大助かりされるビニール傘。

好意には好意が返って来る。

それを楽しみに、これからも困惑者に恩を売り続けてください。

2018/05/26 11:32:46

落語のように

月あかりさん

話がスムーズに流れて
面白かった。Y婦人の訪問は予想していました。
さて何を持ってくるかな?
という楽しみがありました。

マーマレードですか。夏ミカンで上手に
これを作るのは難しいんです。

これからも外部監視お続けになって
爽やかな人情噺を聞かせていただきたいと思います。

2018/05/26 10:48:10

さすがですね〜。

秋桜さん

通りすがりの困惑者を見つけ、
恩でも売りつけようかと思っている。

思わず笑ってしまいました。

2018/05/26 10:45:52

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