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パトラッシュが駆ける!

義を見てせざるは 

2018年07月20日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「この人よ、ほら、このイケメンの……」
妻が、テレビ画面に映る、若い男を指差して言った。
「被災地で、ボランティアをやってるんですって……」
「へぇ……」
「エライわねえ」
そんなこと、言われなくても、わかっている。
悔しくて、歯噛みしたいくらいに、わかっている。
わかっていて、どうにもならない、
おのれ自身の不甲斐なさをも、わかっている。
私は、その若いイケメンに、顔はもちろん、
義侠心でも負けている。

河川が氾濫し、多くの家屋が、水に漬かった。
堆積した土砂を取り除くために、多くのボランティアが、
炎天をものともせずに、駆け付け、スコップを振るっている。
そういう場面を、テレビに見る度に、焦燥感が募る。
「だめですよ、あーたなんかが行ったって、
足手まといになるだけ。
下手をすれば、倒れて、周りに迷惑をかけるだけですよ」
妻に言われるまでもない。
今の私では、微力にもなり得ないであろうことを、
百も承知、二百も合点で、焦っている。

若い時に、やっておくのであった……と、つくづく思う。
しかし、日々の暮らしに追われ、
ボランティアに出るどころでは、なかった。
リタイアし、やっと自由な時間が得られた。
今なら、好きなだけ、現地への泊まり込みも出来る。
しかし、皮肉なものだ。
もう、体力がない。
テレビに映る、ボランティアの皆さんの姿を、
ただ羨ましく眺めている。

 * * *

あの肘川が、氾濫したようだ。
となると、大洲の市街は、たちまち、水浸しになっただろう。
私は、遍路旅で訪れた、愛媛県、西予地方にある、
小さな町を思い出している。

弧を描くように、町の外周を、川が流れていた。
その名を「肘川」は、穏やかな流れであり、
とても溢れるようには、見えなかった。
左に大洲城を見ながら、橋を渡ると、そこは家々の密集する、
大洲の町であった。

夕暮れの迫る市街を、その日の宿に向かい、
ひたすら歩いていた。
「お遍路さーん、待ってー」
中年の婦人から、呼びかけられた。
「これ、お接待でーす」
ペットボトルのお茶を差し出された。
ありがたいことだ。
水なら、リュックにあるけれど、人様の好意を断ってはいけない。
それが遍路の礼儀とされている。
丁重に礼を言い、受け取った。

しばらく行くと、今度は、菓子のお接待に預かった。
餡入りの焼き菓子であった。

秋の日暮れは早い。
十夜ケ橋(とよがはし)の下で、旅の一夜を、
お過ごしになられている、お大師さんの、
寝像にお参りした頃には、とっぷりと日が暮れていた。
ようやく、宿に着くや、その入り口に、
立っている人影が見えた。
宿の主であった。
到着の遅い、客を気遣ってであろう、外に出て、
待っていてくれたようだ。

大洲の町の人々は、遠来の旅人に対し、皆、親切であった。
横断歩道を渡ろうとすると、左折する車が、
行けば走り抜けられるのに、じっと待ってくれていた。
東京人のように、あくせくするところがない。
ただ通り過ぎただけなのに、私は、長閑な大洲の町が、
今でも好きだ。
もっとも、それを言えば、四国の各町村で、
私の嫌いなところは、一つもない。

その大洲の町が、水浸しになっている。
床上浸水が、三千戸を数えているとか。
水源地が被災したため、水道も断水が続いているとか。

私はもう、居ても立っても、いられないでいる。
炎天下で、復旧作業に勤しむ人々を見ると、涙が滲んで来る。
大洲ばかりではない。
宇和島でも、山崩れがあった
ここも遍路旅で、通った町である。

四国ばかりでない。
山陽路でも、私の訪ねた町が、軒並み被災している。
高梁、倉敷など、実にもう、興趣の深い町々であった。
何の因果であろうか。
私の訪れた町ばかりが、被害に遭っている。
と思ったが、そうではない。
豪雨禍の被害が、想像を絶するほど、
広範囲にわたっていたということだ。

仮に、私に体力があったとしても、
これらの町々を巡るのは、無理だ。
今の私に出来ることは、一つしかない。
当分、道楽は慎もう。
芝居、寄席、サッカー見物、そして外での飲酒……
これらを自粛すれば、多少の金が浮く。
これを浄財とは言うまい。
貧者の一灯とも言うまい。
体力のない者は、お金に頼るよりない。
ささやかでも、これを被災地に送るよりない。

 * * *

折も折、私は明日から旅に出る。
出ねばならない。
同行者との約束もあり、私一人が抜けるわけには、
行かなくなっている。
岐阜県の郡上市で「宗祇水連句フェスタ」が行われる。
連句など、やったことのない私が、
文字通り「めくら蛇に怖じず」で、これに加わろうとしている。

内心忸怩たるものがある。
素人が、由緒ある連句の会に、
加わってよいものかどうか……である。
もう一つある。
旅を取りやめ、その旅費を全額、義捐金に回したらどうか……
ということである。
そこまでの覚悟がない。
意気地がない。
所詮私は、かの若いタレントに、及ばないことになる。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【作者註】
当ブログは、毎週土曜日発行を慣例としておりますが、
今週に限り、都合により、一日繰り上げての発行とさせて頂きます。
猛暑により、頭脳はかなり、疲弊しておりますが、
ご安心ください、
曜日を間違えるところまでは、まだ、行っておりません。



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盆踊りを見てきました

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
先ほど、岐阜の旅から、帰宅致しました。
いやぁ、暑かった………
昨日の郡上八幡も、今日の名古屋も。
連句に挑戦しましたが、思うように行きません。
その顛末は、来月号のホームページに載せたいと思っております。

スペイン巡礼の旅、そのレポートを楽しみにしております。

2018/07/23 19:54:01

こちらの近くまで

シシーマニアさん

今日は、隣県までいらっしゃるのですね。
暑い中お気をつけて・・。

私は現在、白内障の手術、進行中です。
終了したら、師匠のエッセイを真っ先に読もうと、楽しみにしています。

「悩みも何もないんです。現在幸せです。過去もです。ただ体験してみようかと」

私が今企てている「スペイン巡礼の旅」と共通しているなぁ、と思いました。

2018/07/21 07:03:04

上手く踊れるかどうか……

パトラッシュさん

漫歩さん、
郡上踊りの季節に、ひっかけて、連句大会が行われます。
今年は間に合いませんが、漫歩さんを、お誘いすればよかった……

踊りは、夜なので、熱中症は、多分大丈夫だとは思いますが、気を付けて行って参ります。

2018/07/21 05:29:36

是非踊ってください

漫歩さん

清流と名水と古い町並み。
郡上八幡は私の好きな街です。

♪郡上のな〜 
 八幡出て行く時は 
 雨も降らぬに
 袖しぼる

くれぐれも熱中症に気をつけていってらっしゃい。

2018/07/20 21:53:54

そうなんです

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
郡上市も含め、岐阜県の各市が、猛暑のニュースに、頻繁に登場しています。
その渦中に、わざわざ行くことになりました。
句会以外は、外出を控え、宿で碁を打っていることに、なりそうです。
夜には、郡上踊りがあるのですが、この暑さの中で、皆さん踊るのかしら……
少々、心配になっております。

風流寄席、残念です。
今月は、盛況のようですね。
S氏始め、皆さんに、よろしくお伝えください。

2018/07/20 16:57:10

郡上市

吾喰楽さん

こんにちは。

最近の猛暑のテレビニュースに、郡上市も登場しています。
連句の会に熱中しすぎて、熱中症にならないよう、ご留意ください。(笑)

私は、風流寄席で、貴兄の分まで楽しんで来ます。
今回は、S君に加え、先日のOB会の一員である、O君も出席します。
キャンセル待ちで、やっと追加できたそうです。

2018/07/20 13:08:57

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