彰さんと私

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パトラッシュが駆ける！

2019年10月12日ナビトモブログ記事
テーマ：テーマ無し

「似てるなぁ、この顔」
「誰に？」
「私」
「まーた始まった。あーたったら、山中さんの時も、
そう言ったじゃないの」
「そう言えば、あれも似てたな」
「おこがましいんじゃないの。受賞者が出る度に、
似てる似てるって」
「いや、全員じゃない。今のところ、二人だけだ」
「無理ですよ、無理。お願いですから、そんなこと近所で、
喋らないで下さいね。私まで、物笑いになりますから」

「この人の笑顔がいい。自然のままだ。これを天衣無縫と言う」
「そりゃ、一つのことを成し遂げた人ですもの、自ずから、
滲み出るものがあるでしょうよ」
「ちょいと待ちな。ここに私の写真がある。見比べてごらん」
「なにこれ？大口開けて、ただ笑ってるだけじゃない。
どこで撮ったの？」
「赤兵衛」
「赤いわけね、このホッペ。それにオデコも」
「邪気がないだろ」
「なければいいってもんじゃありません。
求められるのは知性です。教養です。
それが顔に現われるのです」

「さすがに吉野さん、いいこと言うよな。
科学する者には、柔らかな頭と、その真逆の執念が必要だって」
「柔らかいところだけは、似てますね」
「そりゃ、私は文系だもの。硬かったら、どうにもならん。
それに、私だって執念くらいあるよ。
歩いて四国を一周したんだから」
「それを他人様が、どう評価するかです」
「そりゃ、リチウム電池のような、公益性はないけどさ」

「あーたにも、似てるところが、一つだけありました」
「………」
「家でゴロゴロしているところ」
「私には、出勤するところがないからな」
「ヒマさえあれば、寝てますね」
「囲碁サロンに、客が居ない時だけ」
「よくあれで、夜も寝られるわね」
「眠ってるわけじゃない。
仰臥して、瞑想にふけってるだけ」
「何か、悟りましたか？」
「人生は所詮『無』だということ」
「無だと、どうなるんです？」
「一喜一憂することはない。ということ」
「人間って、喜怒哀楽があるから、いいんじゃないの」
「私はもう、涅槃に入りつつある」
「何なの、涅槃って？」
「煩悩から離れた世界だ」
「それにしては、些細なことに、不平を言うじゃないの。
Ｈなことも」
「………」
「宝家の鯛焼きには、尻尾まで餡が入っていない。
けしからんとか。
リスボンのママの、スリップ姿を見ちゃったーとか」

「よくもまあ、亭主をこき下ろすもんだ」
「そんなことありません。あーたにも、
一つだけ吉野さんに勝っているところがあります」
「何だ？」
「あーたも薄いけど、それでも吉野さんに比べたら、
少しは多いですよ。髪の毛」

「この話はもう、よしのにしよう」