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パトラッシュが駆ける!

鈴は鳴る鳴る旅路は遠い 

2010年05月14日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し

「熊が出るかもしれません」
「話には聞くけど、ほんとかね」
「熊のやつ、昔は山奥に居たものですが、今は人里近くに下りて来るそうです」
「人が恋しくなったかね?」
「エサの関係でしょうね、きっと」
「困ったな、それは」
「ご用心下さい」


山ちゃんは、諏訪市に住んでいて、しかも若い頃、カーキチだったから、
長野県下の道には詳しい。
私の中山道歩きが、信州に入ろうとするのを知って、電話をかけて来た。


特に、和田峠の辺り。
自分の縄張りみたいなものだから、この際、黙っちゃ居られませんよと、
そうは言わないけれど、言っているようなものだ。
嬉しそうに話す。
あそこには、道が幾つもあるけれど、旧中山道は、
いちばん高いところだと、縷々説明する。
それから軽井沢は、町の中にだって、たまに熊が出没すると言う。


「いよいよ碓氷峠ですかぁ、どうぞお気を付け下さい。
じゃあ、どうもどうも。いやいやどうも。それではどうも」
何だか、からかわれているような、気がしないでもない。
しかし、万が一ということもある。
「中山道歩きの旅人、熊に襲われる」
なんて言う新聞記事が、頭をかすめる。
熊の爪は、鋭いらしい。


「被害者は、東京の金物屋さん」
こんなテロップと共に、顔を包帯でぐるぐる巻きにした私が、
テレビに映ったりしたら、どうしたらよいか。
金物屋さんなら、鈴くらい売っていなかったのかしら・・・
視聴者に笑われるだろう。


確かに私は、長年金物屋を営み、防犯用の鈴を売っていたことがあった。
長さ15センチほどの、板バネの先に真鍮製の鈴が付き、
これを扉の上部にネジで取り付ける。
すると、扉が開閉する度に、バネの反発力により、先っぽの鈴が揺れ、
チリンチリンと音を立てる。
名付けて「稲穂ベル」
たわわに実った稲穂が、首を垂れている姿に似ているからだろう。
900円ほどだった。


しかし、大分前に売り切ってしまい、それ以来もう仕入れていない。
何しろ、一箱に10個も入っているから、一度仕入れると、
何年も在庫があり続ける。
とても、私が生きている間に、売り切る自信がないから、やめてしまった。


鈴ばかりでない。
同じように、先行きを考えて、仕入れを断念した商品は、いくらでもある。
私は、金物屋を名乗ってはいるが、これは、職業を聞かれた時に、
「無職」と答えるよりは、体裁がいいかなと思うからで、
実態はもう、稼業から足を洗ったようなものだ。
その洗った足を、今度は道楽に使っているわけで、どちらにしたって、
世間に自慢出来るようなことではない。


背に腹は替えられない。
鈴を買うことにした。
インターネットで調べると、これがまた、いろいろ出ている。
ベルトや飾りが付いて、洒落ているのはいいが、その分値段も安くない。


新潟県燕市の、金属研磨の会社が出しているのが、一番単純で、
従って値段も安い。
送料を含めて、1700円ほどだ。
ものは考えようだ。
900円が頭に残っているから、いけないのであって、
1700円で命が助かると思えば、こんな安い出費はない。


私の行く中山道には、これから、山が立ちはだかっている。
きっと何度も、役に立つだろう。
首尾よく歩き終ったら、店で売ればいいと思っている。
中山道を歩く人は、さらに増えそうな気がするし、一方の熊だって、
ますます人里に現れるのではあるまいか。
私は今しばらく、金物屋を続けようと思っている。


* * *


このところ、しきりに天気予報を見ている。
それも、週間予報だ。


昨年、東海道を歩いていて、雨に降られ、帰ってから、
気管支炎になったことがあった。
忘れもしない、三河路に入ったところの、二川宿でだ。
それに懲りて、以来、雨中の行軍は慎むことにしている。


このところ、晴天が続かない。
次回、私の旅は、碓氷峠を越えて、軽井沢に出る。
そこからは、西に向かって、信濃路をひた歩く。
二泊し、和田峠を越えて、下諏訪にまで達しようと思っている。
つまり、三日がかりだ。


かなりの強行軍だが、これを一気にやってしまおうと思っている。
途中が辺鄙であり、鉄道の駅に遠いところばかりだから、
一旦街道から離れると、また戻るのが厄介なのである。
そこで是非とも、三日続きの晴天が欲しい。


いや、贅沢は言うまい。
降りさえしなければ、曇天でもいい。
ところが、このところの週間予報と来たら、三日に一遍くらい、
傘のマークが入る。
さながら、私をあざ笑うようにだ。


 * * *


本日十四日は、第二金曜日であり、我が西荻碁宙会の、月に一回の例会日。
ただいま午前10時、東京には、青空が広がっている。
昨日も好天であった。
予報によれば、明日もまあまあのはずだ。


例会さえなければ、私は昨日早朝に出発し、今頃は旅の二日目。
浅間山を眺めながら、足取りも軽く、新緑の信濃路を歩いていたはずだ。
しかし、仕方ない。
代表者の私が、会を休むわけに行かない。


本日はまた、例会を終えた後、江戸川橋のウナギ屋に
繰り込むことになっている。
これを皆さんが、心待ちにしている。
碁なんかどうでも、飲み食いには行きたい人々ばかりだ。
(私もその一人だが)
とても抜けられなかった。


私は気の短い男である。
スタート地点の横川まで、電車の乗り継ぎなどを、
既にしっかり調べ上げてある。
泊るための、良さそうな宿も、何軒かリストアップした。
一人旅の気安さは、リュックを引っ担いで、何時でも出発出来ることだ。
しかし、どうにもならない。


手に入れた鈴を、腰に下げて、店の中を歩いてみる。
涼やかな、いい音が立つ。
さすがに研磨屋だけあって、鈴はよく磨かれ、黄金色に輝いている。


道行く人が、何事ならんと、こちらを見て通る。
つまり遠くまで、よく響くということだ。
これさえあれば、熊との遭遇は、避けられるだろう。
ただ一つ、問題は天気だ。
私にはこれが、どうすることも出来ない。
それで、悶々としている。
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