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パトラッシュが駆ける!

開業医ですか 

2012年07月13日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「そのお父さんは、開業医ですか?」
「病院に勤めています」
「勤務医ですかあ・・・」
H氏の声が、受話器の向こうで、残念そうに尾を引いた。
私は、それを聞きながら、何だろう、この男はと思った。

医者に変わりはないではないか。
それも、当人ではない。
父親の職業ではないか。
見合いの相手は、高校の先生だ。
背は高くて、収入は安定しているし、今流行の「三高」と言えるだろう。
こんな良縁は、滅多にあるもんじゃない。
H家では話を聞き、家族そろって、小躍りしたのではと思っていた。

「うちだって、工場を経営し、土地の二百坪くらいは、持ってますからね」
H氏は言った。
財力なら、こっちだって、負けちゃいませんよと言う意味だろう。
こりゃだめだ・・・
私はこの時点で、この縁談は無理だと思った。

地方の小都市で、工場を経営している男が、皆こう自我が強いわけではあるまい。
H氏だけの、特異な性格だと思いたい。

「いや、お話を頂いたのは、感謝してるんですよ」
「・・・・・」
「あなただって、娘さんがいるから、いずれお分かりになると思いますが
娘を持つと大変です。金の草鞋で、婿を探さねばなりません」
「・・・・・」
私はもう、話を続けるのが、嫌になってしまった。
誰が金の草鞋なんか、履くものか。
うちの娘なんか、高校生で、もう彼氏が居るんですからねと、こう言ってやりたくなった。

 * * *

NHKの朝ドラ、今回は女医さんの物語だ。
「梅ちゃん先生」
一人の女性が、医師を志し、困難を乗り越えながら、目標に向かって行く。
そのひた向きさが、好ましいからだろう、視聴率も高いと聞いている。
ドラマは今、彼女が大学病院の助手の座を投げ捨て、町医者として出発したところだ。

「開業は大変なことだ」
ドラマの中では、何度もこんなセリフが出て来た。
莫大な資金が要る。
ああそうか・・・
開業医は一国一城の主であり、それだけに世間では、勤務医より上に見られるのかな・・・
こう考えているうちに、かつて手がけた縁談の、H氏を思い出したわけだ。

 * * *

縁談の仲介をして、困るのがその幕引きだ。
大体が、まとまらないのである。
出来れば、女性の側から断ってくれればいい。
「ご縁がなかったようで」
これを男の側に伝えて、それで一件落着となる。

厄介なのは、H氏のようなケースだ。
仮に話を進めてくれと言われても、父親の人となりが、見えてしまったからには、
この私自身もう、嫌気が差している。
どうするか・・・
実はお父さんと言う人が、かくかくしかじかで・・・
正直に、相手側に伝え、この際、男の方からでも、断ってもらうよりない。
もちろん、無難な口実を設けてだ。
そう覚悟していた。

「あーたはまったく、懲りないんだから」
妻の嫌味にも、耐えねばならない。
それでも、ほとぼりが冷めると、また縁談に手を出してしまうのだから、
我ながら、つくづくお節介焼きと言うよりない。

 * * *

こんな頑固親父が居るだろうか・・・
今回の朝ドラを見ながら、何遍思ったことだろう。
ヒロインの父である。

その笑った顔というものを、ついぞ見ない。
ことごとに、我を通し、家族の意向というものに、一切頓着しない。
梅ちゃんの姉の嫁入りに際しては、その挨拶を受けるのが嫌で、盛装のまま、
トイレに籠ったりする。
実にもう子供じみていて、漫画と言うよりない。

ドラマの中の「帝都大学病院」は、もしかしたら、東大病院のことであろうか。
いわゆる「象牙の塔」である。
そこの教授ともなると、きっと威張っているのであろう。
庶民感覚とはかけ離れた、特異な人格が、形成されても不思議ではない。
それにしては、その家族たるや、皆、円満な常識人ばかりなのだが。

ここでふと思ったのが、H氏だ。
案外に事情通であったやもしれない。
医者に、偏屈や、威張り屋が多いことなども、見聞きしていたのであろうか。
可愛い娘を、頑固な舅のもとに、嫁がせたくない・・・
その一念での、私への電話だったかもしれない。

実際のK先生たるや、私の囲碁の仲間でもあり、よく知っている。
好々爺を絵に描いたような人物である。

ともかくも、破談に終わった。
結局、両方から断って来たのだ。
こんなケースも珍しい。
普通、片方くらいは、乗り気になるものだ。
しかし、正直なところ、ほっとした。

「もう止めなさい」
妻からは、またしても怒られたが、これに懲りるような私ではない。
もう、歴戦のツワモノなのである。

 * * *

H氏は、娘の花嫁姿を見ることもなく、数年後にこの世を去った。
脳溢血であった。
それからしばらくして、娘は結婚し、今は幸せに暮らしていると聞く。
“重石”が取れてよかった・・・ 
私は、彼女の結婚を聞いて、思わずつぶやいた。

K医師は、勤務医を勇退し、今も時たま、私のサロンに碁を打ちに来る。
息子さんは?と聞くまでもない。
その後ずっと、独身のままだ。

「随分と大勢の、子供を見て来た」
先生は言う。
小児科医だ。
だから、「見て来た」は「診て来た」が正しい。
「その代わりに、孫の顔を見ずに終わりそうだ」
笑いながらこう言われると、私は何と返事をしていいか、わからないでいる。



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満足で

パトラッシュさん

喜美さん、何時もながらの御馳走、楽しませて頂いております。

信じられないでしょ、今どき、財力をひけらかす父親なんて・・・
幸いに・・・というべきか、その父親が死んだので、
娘さん結婚出来たのだと、私はこう思っています。

喜美さんのところは、皆さんお幸せで、いいですね。
喜美さん手作りの御馳走に、旦那さんも、「余は満足じゃ」と、こう言っていることでしょう。

2012/07/15 12:06:07

同感

パトラッシュさん

我太郎さん、
そうなのです。
断られると、自分のお節介が、バカのように思えて、自己嫌悪に陥りますね。
しかし、これに懲りず、ほとぼりが冷めると、またやってしまうのですから、困ったものです。
我太郎さんは、賢明ですよ。

何とかとパソコンは、新しい方がいいようす。

2012/07/15 11:59:53

驚き

喜美さん

今時そんな家があるのね 我が家は二人とも恋愛で結婚しましたけれど
本人が人物を安心して信頼して結婚
しましたから親は口出ししません
今皆幸せです 昨日は主人のお誕生日で皆で楽しく過ごしました

2012/07/15 09:56:19

医者嫌いゆえ

我太郎さん

医者は皆業突く張りがと思っていますが、ドラマのようなことが有るのかな?

お見合いに関しては私は1度だけ経験が有ります
断られると自分が悪いように思えて嫌な思いをし、2度と手をだすことは止めました

PC買い換えました
さくさく動き気分爽快です
早く買い換えていたらと思っています

2012/07/15 08:08:26

はい

パトラッシュさん

そうですね、yopikoさん。
子供が居るだけでも、大いなる幸せです。
この世はなかなか、思い通りには、行きませんもの。
土筆ちゃんですか・・・
いい名前ですね。

何時も、ご愛読を頂きまして、ありがとうございます。

2012/07/14 19:09:10

孫もですが・・・

yopikoさん

うちのご近所には、子供がいないご夫婦が二組(60代と70代)います。
そのうちの70代のご夫婦には
土筆ちゃん(猫)という息子がいますが・・・
孫は望めませんね・・・

子供がいるだけでも
なんて幸せなんでしょう

2012/07/14 15:31:35

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