小噺　富士山

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パトラッシュが駆ける！

2013年07月10日ナビトモブログ記事
テーマ：テーマ無し

　「おい、熊よ、リュックなんか背負って、何処へ行く」
「えへへ、大家さん。ちょっくら富士山に」
「こんな時間にか？」
「へえ、夜明かしで登り、明日には、けえってめえりやす」
「今流行の、弾丸登山か」

「世界遺産たあ、てえしたもんじゃ、ねえですか。
この機会に、登ってみようかと」
「それを、野次馬と言うのだ。
何も急に、富士山が変わったわけじゃない。
標高が、高くなったわけでもない」
「でも、世界に認められたんでしょ」

「それがいけない。ミシュランの三ツ星が付いた途端、
その店に、客が詰めかけるようなもんだ」
「いけませんか」
「日本人には元々、富士山への格別な思いがある。
外国に言われて、それで騒ぐのは、みっともない。
愚者のやることだ」
「饅頭でも、踏み潰しましたか？」
「愚かしい者という意味だ」

「そりゃ、大家さんは、利口者でしょうよ。
さぞかし富士山なんか、登らなかったでしょうね」
「いや、登ったぞ。若い頃にな。しかし、一度で懲りた」

「そりゃまた、どうして」
「あの山は、ごみだらけだ。そして酷い混雑だ。
山小屋に泊まって見な。雑魚寝で、隙間もありゃしない。
トイレは臭いし、それでもしっかり、金は取る。国辱ものだと思った」

「ごみが邪魔して、自然遺産にへえらなかったってえ話は、聞きやした」
「あの山は、見る山だ。見て美しい山だ。登るのは、一度でいい」

「あっしも、その一度に、行ってめえりやす」
「気をつけて行け」
「ばかにやさしいね。何時も、おめえみたいのは死んじまえって、
悪態つくくせに」

「店賃が溜まっておる。払わないで死なれては困る」
「そん時ゃ、あっしの家財を、売り払って、家賃に充てて下さい」
「お前の家財なんか、いくらにもなるもんか。
月賦だって、残ってんだろ」
「名人・熊五郎の使った道具一式、文化遺産に・・・」
「なるもんか。精々、太田胃散だ」

「何です？そりゃ」
「げっぷには、これが効く」