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“今”でしょ末広亭 

2013年07月12日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「ちょっと、松坂屋に寄ります」
銀座へ出た、その帰りに、妻が言った。
そう言えば、近々、店仕舞いをすると、新聞に出ていた。
「老舗デパートの落日」
と言うような、見出しであった。

彼女のお目当ては、閉店セールだ。
有名デパートだけに、その商品のクオリティは、間違いなかろう。
それが安くなる。
普段のバーゲンより、もっと安くなると、
勘定高い主婦は、そう踏んだのであろう。

「一緒に行きますか?」
「行きません」
「そうですよね、行くわけがないわよね。じゃあ」
四丁目の交差点で、別れた。

女房と一緒に、デパートで買い物?
冗談ではない。
私は、ただでさえ、気が短い。
その物色に、付き合っているだけで、死んでしまいたくなる。

これが信じられないのだが、世間には、女房の買い物に、
いそいそと付いて行く、亭主が居ると聞く。
よほど、仲睦まじいのか・・・
そうではあるまい。
「濡れ落ち葉」であろう。
いくらヒマでも、男たる者、てめえの女房に、付き纏ってはいけない。

もう一つ、私には、閉店セールに行かない理由がある。
あれは、必ずしも気分のいいものではない。
人間の、あさましさが見えるからだ。

私自身も、過去に、店仕舞いを経験している。
閉店セールもやった。
すると、現金なものだ。
普段、顔を見せない客が、にわかに、やって来る。
破格の値段を前に、その、目の色が変わる。

「ご自由にお持ち下さい」コーナーでは、さらに変わる。
必要ないと思われるものまで、手当たり次第に抱える。
あーあ・・・
その姿に、うんざりしてしまう。
いっそ、ゴミに捨てた方が、気分がいい。
早々に、そのコーナーを中止した覚えがある。

私はかつて、松坂屋で買い物をしたことがない。
それが閉店と聞き、いそいそと行く。
そう言うことは、出来ない。
余人は知らず、この私だけは、やってはいけない。
そう思っている。

 * * *

よく引き合いに出されるのが、鉄道の廃線だ。
赤字続きで、とうとう路線の廃止が、決定される。
途端に、別れを惜しむファンが、殺到する。
もっと早くに、詰めかけてくれたら、廃止にならなくても、済んだのに・・・
関係者は、苦笑するだろう。
愚痴も言いたくなるだろう。

その点において、山口瞳先生は、明確なポリシーを持っておられた。
後で、惜しんでも遅い。
そう思われるものに、積極的に肩入れをした。

例えば、日劇ミュージックホールである。
草競馬と称される、地方競馬である。
これらを初めとする、頽勢のものに対し、足繁く通ってやった。
一種の「判官びいき」でもあろう。

これが本当だと、私も思っている。
お金のない悲しさ、先生のような応援は、なかなか出来ないのだが。

 * * *

私は時たま、新宿の末広亭に行く。
昔ながらの、寄席である。
その古びた、木造の建物がいい。
テレビでは、見かけない芸人ばかりだ。
それらが一所懸命に、落語や色物を、演っている。

客は、弁当を食べつつ、これを見ている。
昼夜、入れ替えなしだから、ここで一日を過ごす客も、居ると聞く。

時間がゆっくりと、過ぎて行く。
さながら、異次元空間である。
そこにぼんやり、身をゆだねているだけでいい。

もし、この末広亭が閉鎖にでも、なったら・・・ということを、考える。
客もそこそこ、入っているから、当面、倒産などは、考えられない。
しかし、建物の、築年数のことがある。
老朽化は、誰の目にも、明らかだ。
すると、建て替えなんてことが、何時、浮上しないとも限るまい。

すると、どうなるか・・・
発表した途端に、客が詰めかける。
全国の落語ファンが・・・
と言うことになるだろう。

連日、立錐の余地が、なくなるに違いない。
そんな混雑の中で、落語を聞くのは耐えがたい。
私は、断固として、行かないであろう。

その分を、普段から、行っておけばいい。
そう思っている。
それで、せっせと通っている。
いざという時に、慌てないように、そして、悔いを残さないように、である。

「あたしも行くわ」
ごくたまに、妻が言い出すことがある。
「どうぞ」
女房に追従はしないが、付いて来る分には、それも良かろう。
しかし、現実を重視する主婦に、あの異次元の良さが、わかるだろうか・・・
一抹の疑問を、抱いている。



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