メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

破門 

2013年08月11日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

追放、謹慎、放逐・・・
どれもこれも、小学生相手に、ふさわしくない。
けん責、訓告、戒告・・・
これでは、公務員の懲戒処分みたいだ。

「もう来ないでおくれ」と、分かりやすく言った。
そうしたら、K太が泣き出した。
姉のM子は、黙ってうつむいている。

小学二年生だから、無理もないのだが、K太は普段でも、よく泣く。
大石を取られたと言っては、泣く。
10本の指、全部を使うようにして、その目をこする。
「男は泣くな」
言ってやりたいのだが、まだ男でないのだから、仕方あるまい。
「汚い手でこするな」
ティッシュを投げてやる。

「先生は、何度も注意しました。でも、二人とも、騒ぐのを止めませんでした」
筋道を立て、説明しなければならない。
単に癇癪を起こしたと、受け取られては、心外だ。

二人とも、私の生徒である。
囲碁を教えている。
それもそうだ。
この私が、学科を教えるわけがない。
音楽と美術は、もっとだめだ。

夏休みに入るや、毎日のように、私のサロンに現れていた。
よほど、好きなのであろう。
二人とも、めきめきと、その棋力を伸ばしている。
特に、姉のM子は、初段が視野に入っている。

「段」は、囲碁将棋をやる者にとって、一つの目標だ。
柔道や空手だって、同じだろう。
生徒の成長は、先生の喜びだ。
何とかして、そこに到達させてやようと、こちらもその気になっていた。

「大きな声を上げて、騒がれると、隣のお店にも、迷惑がかかります。
こんなことがあると、先生はもう、教えることが出来ません」
さらに言うのだが、二人とも、帰ろうとしない。
碁石を片付ける、私の背後で、ひそひそ話をしている。

やがて、K太が私の前に来た。
「ごめんなさい、先生」
M子も神妙だ。
「弟を、注意しなかった、あたしが、いけませんでした」
こう言うところが、いかにも現代っ子だ。
如才ないのである。

しかし、ここで甘い顔は見せられない。
「今日は帰りなさい」
獅子は、その子供を、谷に突き落とすという。
また「獅子吼」なんて言葉もある。
私は、吼えはしないが、獅子になったような気でいる。

 * * *

「本日をもって、二人を破門にした」
「かわいそうに・・・」
「当分来ない」
「許してあげたら・・・」
「少しお灸を据える」

妻は、関わりがないから、気楽だ。
すぐにでも、電話してあげなさいと言う。
しかし、それでは、今後への示しがつかない。
しばらく様子を見ようと思っていた。

翌日。
昨日の今日であり、さすがに来ない。
どの面下げて・・・というところだろう。

二日後。
まだ、ほとぼりが冷めない。
来られないだろう。

三日目。
そろそろかと思ったが、現れない。

四日目。
時たま、商店街に出て見る。
偶然通りかかったら、「寄って行きな」とでも、言おうと思っていた。
しかし、通りかからない。

「どうしたんだろ、あいつら・・・」
「嫌気が差したんじゃないの。先生が、厳しいからって」
「当たり前のことを、言っただけだ」
「今の子供は、叱られ慣れていないのです。だからすぐに、
自殺なんかが起きるわけです」
「おいおい」
「大阪の方で、あったでしょ。コーチに叱られたキャプテンが」
「あれは、行き過ぎた指導があったからだ」
「私は知りません」

いざとなると、妻は頼りにならない。
気の利いた女房なら、亭主に内緒で、交渉相手の家に乗り込み、
それとなく内実を伝え、妥協点を探ったりするものだが、
我が家の女房に関しては、それはない。
そもそも、内助の功なんて意識がない。

五日目。
仕方ないから、自分で電話した。
「M子ちゃんかい?碁はやってるかい?」
「やってません」
「どうするの?」
「・・・・・」
「来てもいいよ」
「・・・・・」

何だか、話があべこべになっている。
先生の方が、生徒にすり寄っている感がある。
「もう辞めちまおうかな」
「どうぞご自由に」
獅子が獅子たろうとするのも、今日日大変なことだ。



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

なるほど

パトラッシュさん

イエローカードという手がありますね。
いきなりレッドでは、可哀想な時に、これを使えばいいですね。
我太郎さん、妙案をありがとうございます。

2013/08/13 20:16:20

落としどころ

我太郎さん

順当な線かと思いますが、来ても良いと誘いをかけたとことが難しいですね
落としどころとして、イエローカードをもう1枚残しておき、それでもやったらレッドカードだってことをきっちり宣告しておく必要が有るように思います

囲碁の勉強は、強くなるだけではないことを悟ってくれれば万歳ですね

2013/08/13 19:06:24

破門効果か・・・

パトラッシュさん

二人とも、また来るようになりました。
少しだけ、態度が神妙になっています。

2013/08/12 12:09:10

優しいね

hanahanaさん

それから二人はどうなりました?
また、来ましたか?気になります。

2013/08/12 11:34:59

掌中の珠

パトラッシュさん

のようなものかもしれません。
縁あって、私のところへ来てくれた生徒達、
こちらから切っては、いけないのだと、こう思うに至っております。

秋桜さん、ご心配頂きまして、ありがとうございます。

2013/08/12 07:09:14

根気が要りますね。

秋桜さん

一度突放したものの、気になる様子が
親心以上の情を感じさせます。
大人を導くのも大変ですが子どもはそれ以上ですね。
接するこちらにも相当の覚悟がいるようですね。

>獅子が獅子たろうとするのも、今日日大変なこと だ。

お察しします。

2013/08/12 04:35:14

教育者にはなれません

パトラッシュさん

かしこさん、こんにちは。
その後何とか、旧に復しました。
生徒を見捨てられない、あまーい先生であります。

2013/08/11 19:04:25

こんにちわ

かしこさん

昨今 獅子となりて叱るなど ないのでしょう
子供は社会からルールを教わり覚えるもの
日々の生活常識は親からしつけられても
囲碁教室の事なと知る術もない親では無理

それでもーーー気になり
妥協するーーー大人の優しさ

分かっているのかな?

2013/08/11 16:07:43

PR







上部へ