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パトラッシュが駆ける!

碁盤大尽 

2013年08月23日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「碁盤が余っております。お使いになりませんか?」
「使わせて頂きます」
「ならば、お持ちします」
「いいえ、それには及びません。こちらから、取りに伺います」

見ず知らずのご婦人から、電話があった。
詳しい話を、聞くまでもない。
私も囲碁に関わる人間だ。
碁盤のこととなれば、大方の察しが付く。

旦那が亡くなって、家族は誰も、碁をやらない。
道具屋に持ち込んでも、金にならない。
それなら、誰かに活用してもらった方がいい。
私のサロンのことを、人伝に聞き、それで電話をかけた。
と言うことだろう。

道具屋は「高価買入」なんて看板を、掲げてはいるけれど、
いざとなると、客の足元を見る。
買い受けたとしても、その碁盤が、簡単に売れないことも、知っている。
「ここに、キズありますねえ・・・、おや、ここにもシミが・・・」
ことさらに瑕疵を強調し、買い叩くことになる。

一方で、客の側には、思い入れがある。
買った時は、高かったのである。
それを、後生大事に使っていた。
年数こそ経っているけれど、使用頻度は、そう多くない。
車に喩えれば、年式こそ古いが、走行距離は極めて少ないということだ。
それなのに、道具屋のやつめ、人の足元を見て、忌々しい。
みすみす、その言いなりになるくらいなら・・・
ということに、なるのではあるまいか。

最近、持ち込まれる碁盤が、増えている。
碁盤の中古品が、売れなくなったせいもある。
ネット碁の普及が原因だ。
今時は、パソコンで碁をやる人が増え、それは、モニターに向かって、
クリックするだけで済む。
碁盤も碁石も、必要ない。

昔は違った。
碁を始めて、そこそこの腕に達するや、必ず碁盤と碁石を
買い求めたものだ。
初段にでも上がると、さらに厚い碁盤が欲しくなる。
ゴルフと同じだ。
初心者用のクラブを、何時までも振っているゴルファーなんて、
滅多に居ないであろう。

それにしても、今回のは「出物」だ。
カヤの六寸盤である。
新品であったら、百万近くするのではあるまいか。
碁盤とは、そういうものだ。
美術品と同じで、高ければ高いほど、価値があるとされている。
碁盤商はだから、強気の値段を付ける。
そこから、相手の足元を見つつ、値引きに応じるのである。

金なんか、どうせあの世に、持って行けるわけじゃなし・・・
ドラ息子に残すくらいなら、自分で使ってしまおう・・・
そう思う年寄りが、清水の舞台から、飛び降りるような気持で、
その百万の碁盤を買う。

買ったはいいが、そうそう使うわけではない。
高価な碁盤は、日常の対局には、もったいないという頭がある。
さながら高価な茶器を、格別の茶会の時にだけ、
引っ張り出すのに似ている。
言ってみれば「所有する満足感」であろう。
特別な相手が、来た時だけ使い、普段は床の間に飾っておいたのだ。

そこへ行くと、私は囲碁サロンの経営者、道具は、
使ってなんぼと、割り切っている。
サロンの中央にある、桂の五寸盤を引っ込め、そこに、
入ったばかりの六寸盤を置いた。
どうだ・・・
サロンの風格が、一段と上がったように思われる。

引っ込めた、その桂の五寸盤だって、実は、悪くなかったのだ。
それも、元を正せば、もらい物であった。
二年前、同じような経緯の末に、私の元に来て、随分と使わせてもらった。

その前には、そこには、欅の三寸盤が置かれていた。
それももらい物であった。
何だか、歴史が、繰り返している。
もらい物の歴史である。

より厚い碁盤が来ると、すぐさまそれに、それに取って替わられる。
これ、何かを象徴しているようだ。
より魅力のある女が、現れるや、さっさと妾を取り換える、昔の大店のあるじに似ている。

そんな身分になりたいもんだ・・・
という願望が、私をして、つい、卑しい比喩に、走らせている。
現実は厳しい。
車ももう、手放してしまった。
今や、私が換えられるのは、碁盤くらいしかない。

問題は、不要となった碁盤だ。
お妾さんなら、相応の手切れ金を渡し、去ってもらうのだが、
碁盤はそうも行かない。
前述のようないきさつから、もう“実家”には、戻れない身だ。

その余生は、私が見るよりあるまい。
仕方ないから、サロンの片隅に、積み上げてある。
ひょっとして、貰い手が現れないかと、期待しつつだ。

それにしても、増えて来た。
このまま碁盤が増え続けると、このサロンは、どうなるだろう。
姥捨山ならぬ、碁盤捨て山に、なるかもしれない。

心を鬼にして、新規の話を、断るべきだろう。
しかし、断ったその碁盤が、飛び切りの逸品であったら、どうしよう。
という欲が、私をして、女を見る、大店のあるじのような、目にさせている。



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最近やる子は増えています

パトラッシュさん

おや、我太郎さんは、囲碁倶楽部で、ご活躍でしたか・・・
それは知りませんでした。

折り畳みの碁盤でも、初心者には喜ばれます。
最初は、それで十分ですから。
周囲に誰か、居ませんかねえ・・・

2013/08/27 15:52:12

碁盤

我太郎さん

会社の囲碁倶楽部で昼休みの楽しみでやっていたことが有ります
40分ほどで2番てなこともあるヘボ碁でしたが、新人が入らず年ごとにメンバーが減って、最後に盤と石はお持ち帰りになり、持ち帰ったものの邪魔になるだけです
折り畳みの安物ゆえリサイクルショップでも引き取ってくられないのでは
最近子供に人気だとか
下さいって言う子はいないんでしょうか

2013/08/27 09:56:35

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