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パトラッシュが駆ける!

続・碁盤大尽 

2013年09月06日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「もしもし、先日、碁盤をお届した、花沢でございます」
「その節は、ありがとうございました」
「実はですねえ・・・」
そこで一瞬、声が切れたので、もしやと思った。

女性は、気が変わりやすいと言われている。
いや、そうではない。
仮に心変わりしても、男ほど、責められないと言うことだ。

しかし、もらってから、もう一週間が経っている。
碁盤は今や、私の占有物だ。
尖閣や竹島のような、ややこしい問題はない。
サロンの中央部に、でんと置かれ、皆さんに、使って頂いている。

カヤの六寸盤だけあって、石を置いた時の、響きがよろしい。
気持がいいですねと、どなたも褒めて下さる。
現に今も、N氏が来て、「女房と碁盤は、新しい方がいい」
と言いながら、打っていたところだ。
今さら返してくれと言われたって、困ってしまう。

「お友達のところでね、同じように、使わない碁盤が、ありましてね・・・」
なぁんだ・・・である。
「どうでしょう? もう一面、引き取って頂けるでしょうか?」
心変わりどころか、さらに、お譲り下さるというわけだ。

もらった碁盤が、意外な上等品であったので、それでつい、余計な心配をしてしまった。
カヤの六寸の、しかも柾目である。
新品だったら、百万の値が付くかもしれない。
中古であっても、十万は下るまい。
それを私は、ビール券三枚と引き換えに、頂いてしまった。

もし花沢さんが、碁盤屋を見て回ったら、きっと悔しがるに違いない。
亡夫の遺品の壺が、実は名品であり、意外な価値があったと判明したようなものだ。
「知らないもので、うっかり、差し上げてしまいました。お願いです、返して下さい」
言い出したとしても、不思議はない。

しかし、どうやら、気付いてはおられぬ。
あるいは、そんなことに、頓着しないほど、お金持ちなのかもしれない。
さらに、別口を下さるとおっしゃる。
世の中に、こんな良い人が、居るだろうか。

「頂きます」
「お持ちして、よろしいでしょうか? 」
「お願いします」
私はこの際、貪欲になっている。

他の碁会所では、テーブルにずらりと、卓上盤を置いている。
その厚み、精々二寸だ。
こちらは六寸で、しかも足付きだから、優に四倍の高さがある。
大いなる優越感と言うよりない。
この際、名刺に、キャッチコピーを入れようかと思っていた。
「カヤの六寸盤の並ぶサロンです」と。

 * * *

しかし、この事態を、大局的に見た場合、喜んでばかりは、居られない。
碁盤が余るのは、囲碁人口が減少しているからだ。
少子化も、影響していよう。
ネットで碁を打つ人が増え、碁盤を用いなくなっていることもある。

囲碁ほど、深淵にして優雅なゲームはない。
これを、次の世代に、伝えて行かねばならない。
若年層への普及を、促進せねばならない。

私に何が出来るか。
小学生の生徒を増やし、彼らを鍛え、有段者を輩出せしめる。
そうすれば、彼らは、囲碁を一生の趣味とするだろう。
そのために、カヤの六寸盤を、天が与え給うたのだと、こう思うことにした。

 * * *

ライトバンの後部ドアが開けられるや、私は思わず、目を疑った。
確かにそれは、碁盤に違いない。
厚さは三寸。
それは、まあ仕方ない。
問題は、その外観だ。
何の木だか、分からないほど黒ずんでいる。
多年の酷使によってだろう、罫(けい)なんか、かすれている。

「利用して頂けると、大変うれしいです」
花沢さんの友達なのであろう。
その車の、助手席から降りた女性が、嬉しそうに言う。

「使わせて頂きます」
こう言うよりあるまい。
わざわざ、隣の区から、運んで来て下さったのである。

形は同じようでも、程度の甚だしく違うものを喩えて、
「月とすっぽん」「提灯に釣り鐘」などと言う。
私の貰った、二つの碁盤の対比には、もっと適切な喩えがある。
「楊貴妃と○○△子」「クレオパトラに××□子」
いくらでも喩えられる。
しかし、例えタレントであっても、こんな場合に、
その名を挙げては、いけないだろう。

違い過ぎるのである。
落差が、甚だしいのである。
しかし、今さら、持ち帰りを願うわけには、行かない。

「これ、ほんの少しですが・・・」
用意しておいた、ビール券を差し出した。
「あーら、そんな・・・」
彼女も、花沢さんと、同じように遠慮をされたが、結局、
同じように受け取り、帰って行かれた。

その「辛酸を舐めた」ような碁盤を前に、私は立ち尽くしている。
哀れではある。
しかし、サロンには、とても置いてやれない。
さりとて、廃棄物として、処分してしまうのは、情において忍びない。
さあ、困った。
欲を掻くから、こういうことになる。
誰か、引き受けてくれる人を、探さねばならない。



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戸惑い

パトラッシュさん

我太郎さん、
骨董と同じですね。
目の利く人には、お宝ですが、そうでない人には、正にガラクタです。
たまたま、お宝とガラクタが、ほぼ同時期に入って来ましたので、戸惑っています。

ガラクタの方を、矯めつ眇めつしながら、その行く末を考えております。

2013/09/08 12:21:02

その通りです

パトラッシュさん

トパーズさん、そうです。
二匹目の泥鰌は、居ませんでした。
世の中、そんなにウマイ話が、続くわけありませんよね。

でも、一匹目の泥鰌が、なかなかなので、満足しています。

2013/09/08 12:15:21

猫に小判

我太郎さん

感心ない人にはお宝もガラクタも頓着ないことですが、その価値が分かっている人には垂涎の的は良くあることです
逆に頓着ない人は、その価値が分からないのだから、お宝もガラクタも無いですよね
運悪くガラクタってことも有ってしかりですが、さてこの扱いや如何に
碁盤を碁盤としてではなく、何かリメークで生きかえられませんかね
私にはその知恵が無いのが悩ましい

2013/09/08 08:48:29

あら、まぁ〜残念!

トパーズさん

柳の下に泥鰌は、2匹いませんでしたね。
でも最初のカヤの6寸盤があるから、少しは
慰められますね。

2013/09/08 02:19:39

お近くなら・・・

パトラッシュさん

ももこさん、こんばんは。
お宅にも、カヤの碁盤が・・・
それも、物語がある碁盤なのですね。
罫を引き直す業者も、少なくなったようです。

遠隔地に住む相手なら、ネット碁が便利でしょうね。
でも、碁盤を使っての対局も、捨てがたいです。
相手の顔色を窺ったりして・・・
お近くなら、旦那さんと、一戦交えたいものです。

2013/09/06 21:25:45

口コミ効果

パトラッシュさん

hanahanaさん、こんばんは。
そうなんです。
また碁盤が来そうな気がします。
少し話を聞いてから、もらうかどうかを、決めたいと思います。

2013/09/06 21:20:44

残念でした!

ももこさん

実物を見ないとわからないことですね。

主人も囲碁が趣味。
私の実家にカヤの碁盤がありました。それに目を付けていて、父が亡くなった時、直ぐに「あれを形見に欲しい」と言いました。

幸い私の兄弟に碁打ちはいなかったので我家へ来ました。
それは母方の祖父が借金の形に貰ったものだったそうです

碁盤に似合った碁石が欲しい、と言い、業者に削って罫を引き直してもらい…
宝物になったようです。

でも最近はネットでの碁、専門です。
今夜も、神奈川に住む義弟とこれから対局、とPCに向かったようです。

2013/09/06 19:42:17

残念

hanahanaさん

今回は残念でしたね。
でも、このうわさを聞かれた方がもっと凄いのを
持って来られるかもです。
次に期待を!

2013/09/06 19:15:28

そうです

パトラッシュさん

二個分だと思えば、仕方ないですね。
世の中に、そんなにウマイ話は、ないということです。

2013/09/06 17:14:28

碁盤

喜美さん

残念でした まあ2個を割れば
ビール券でも良いでしょう もし此れで初めを返してくれと言われたら?
やっぱり返さなければならないのね
そうなったら大変

2013/09/06 13:42:29

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