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パトラッシュが駆ける!

これくらい なら出来そうが 禍根なり 

2014年05月30日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「ねえ、これ、教えて。意味がわかんないの」
妻が、読みかけの新聞を、私の方に差し出した。
眼鏡をかけ、何を真剣に、読んでいたのかと思えば、
それは川柳欄であった。

「わからない言葉があったら、私に聞け」
妻には、日頃から、豪語している。
彼女は、難しい本を読まない。
女性作家の、随筆などが好きで、佐藤愛子なんかを、
よく読んでいる。
だから、質問されたって、これまで、少しも困らなかった。

但し、苦手な言葉もないではない。
新語、そして、横文字だ。
最近はこれが、世の中に蔓延していて、とても覚えきれない。

新聞なら、安心だ。
記事の中に、世上に定着していない、新語を用いることはない。
しかしながら、川柳欄である。
そこは、新聞の良識の、埒外ということも出来る。
もしも即答出来ないと、恥をかくことになる。
少し気構えて、その指差すところを見た。

 * * *

「夜出来た 朝になったら ただの愚痴」 甲斐三十郎(山梨県)

「何が出来たのか、さっぱりわかんない」と妻が言う。
私も一瞬、首をひねった。
「夜出来た」と来れば、それは子供ではないか。
私はすぐに、いかがわしい方を、連想してしまう。
しかし、違うようだ。
子が生まれたからと言って、翌朝すぐに、愚痴に繋がることはない。

短詩形の場合、主語を省略する。
この句もそうだ。
読者がそれを、察してやらねばならない。

「主語は『川柳』さ」
「川柳が出来たってこと?」
「そう。作者は傑作と思ったけれど、しかし一夜明けて、
よくよく見たら、単なる愚痴に過ぎなかったと、失望している図さ」

よくあることだ。
私なんか、のべつやっている。
例えば、寝ている時に、エッセイのネタが、突然閃いたりする。
これはいい、これで読者を、笑わせることが出来る。
明日にも書いてやろうと、幸福感に包まれて眠る。

しかし、一夜明け、文字にしてみると、これががっかりだ。
陳腐であり、粗雑であり、軽薄でさえある。
読者が笑ったとしても、それは失笑、あるいは、憫笑であろう。

夜の思い付きは、あてにならない。
頭がもう、眠っている。
翌朝になったら、その閃き自体を、けろっと忘れていたりもする。

「それほど、面白いとは、思えないけど」
「分かる人には、よく分かる。つまり、川柳をやる者向けの句だな」
「それで、後ろの方にあるのね」
川柳欄においても、作品の優劣はあり、それは序列につながる。
選者は、傑作を、頭に持って来るだろう。
楽屋落ち的な作品は、末尾に据えざるを得ない。

妻は、真面目一方の人だ。
これまで、格別に、ユーモアを愛しているようには見えなかった。
それが、やけにしげしげと、川柳欄を眺めている。
いかなる風の、吹き回しであろうか。

 * * *

私も川柳を、嫌いではない。
人間の弱点や、世俗の欠点を、掘り下げ、笑いに持って行くのは、
私の好きな作業だ。
やりたいな、やろう、始めようと、何度思ったことか。
しかし、その度に思い止まった。

私は若い頃、短歌をやったことがある。
同人誌に、加わったりもした。
短詩形だから、簡単そう・・・と思ったら、これが大間違い。
実は短いからこそ、難しいのである。

それで才能に見切りをつけ、結婚を機に、すっぱりと辞めてしまった。
以来、手を出さない。
俳句も川柳も、その難しさは、共通している。
そのことを、わかっている。
だから、ちょっかいを出さないでいる。

エッセイの方が、自由度が高い分、私の性に合っている。
散文一筋、もう、浮気は致すまいと、心に期している。

「どうして、主語を省略するの?」
「短詩形の場合『皆まで言うな』が基本だ。
全部を言わないところに、詩が生まれる。滑稽が生まれる」
「へー、そう言うもの・・・」
何だか妙な、その納得ぶりだ。
まさか、川柳をやりたいと、言い出すのではないだろうね。

私が断念した道を、彼女が進む。
そんなことは、ないと思いつつも、少し心配になっている。



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よろしく・・・

パトラッシュさん

Yさん、おはようございます。
私は数年前まで、金物店を経営しておりました。
フランダースの犬を、飼っていたのが、阿漕な金物屋の親父でした。
少年ネロは、犬を譲り受けました。
そんな因縁で、ハンドルネームを犬の名「パトラッシュ」にしました。

2014/06/06 07:07:13

こんばんは

さん

フランダースの犬に
泣けて泣けての世代です^^
パトさん面白いかたですね^^
学びになります
今後とも宜しくお願いします。

2014/06/05 23:54:05

魔力

パトラッシュさん

喜美さん、
中途半端に、手を出さない方が、よろしいですよ。
川柳には、人を引きずり込む、魔力がありますから。
眺めているだけの方が、気楽でいいです。

2014/05/31 15:25:50

季節感

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
我が家では、原則として、私が食事のリクエストを出すことはありません。
年に数回の、例外はありますが。
例えば今日です。
「昼は、パンにしてくれ」
珍しく注文しました。
昨日作った梅ジャムを、トーストにたっぷりと塗りたくり、季節感に浸りました。
今年は、少し早いけど、もう夏なんだなあ・・・と。

ごくたまに、妻が首をかしげていることがあります。
夕飯の献立が、きまらないのでしょう。
「魚にしてくれ。そうだな、カツオの刺身がいい」
ここを先途と、言ってやります。

テーブルに着いてみたら、あれ・・・
とんかつが皿に載っていました。

2014/05/31 15:23:30

川柳

喜美さん

面白そうでも作れない
読んで笑うのは大好き 皆上手に作りますね あなたも作って公表してください

2014/05/31 10:28:55

どんなご夫婦なのかな?と・・

さん

思っていましたが、その一端が伺えたようで楽しかったです。

我が夫は酷かったですよ。
「今夜は茄子を棒に刺して焼いてくれ」なんて、わかりやすくて、どっと疲れる事しか言わない人でしたから。

だから下手に質問などしたら大変!
そんな疲れる事しませんでした(笑)

短詩は難しくて手が出ません。

2014/05/31 08:34:02

悲しいかな・・・

パトラッシュさん

マリーさん、
文学関係だけです、私が威張っていられるのは。
何しろ、家庭内野党ですから。
それも、現下の政治情勢と同じく、一強独裁体制のもとに、あるようなものです。

自費出版は、その多くが、自己満足です。
(私も、二度やりました)
装丁は、どうしても、豪華にならざるを得ません。
内容では、世間を驚かせられないからです。

2014/05/30 20:49:49

川柳

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
鋭いですね。
私はちょっと、考えてしまいました。

吾喰楽さんだって、その気になって作れば、そこそこ出来ると思いますよ、川柳。
ただ、他のことを、犠牲にしてまで、やるかどうかは、別問題ですが・・・

2014/05/30 20:44:31

他所の亭主は、よく見えるかも・・・

パトラッシュさん

ばばたまさん、
優しいご亭主で、よかったではありませんか。
優柔不断は、言葉を替えれば、慎重ということ。
果断は、言葉を替えれば、猛進ということ。
どちらが良いかは、にわかには言えません。

2014/05/30 20:41:36

弱きもの、それは亭主です

パトラッシュさん

彩々さん、
私が自慢出来るのは、文学関係だけです。
衣食住、すべて、妻の言いなりです。
離婚を言い出されると、私は生きて行けませんので、すべてに、恭順の意を表しております。

2014/05/30 20:37:34

川柳

さん

「奥様に質問されても、これまで少しも困らなかった。」って素晴らしいことですね。
今回の件でますますパトラッシュさんの株が上がったことでしょう。
私はたいてい疑問に思ったものは自分で調べ解決しています。
前職で、数人から短歌・俳句・川柳・随筆・自分史など自費出版したものを頂きました。
どれも装丁は立派ですね。

2014/05/30 19:46:38

川柳

吾喰楽さん

ある程度、理解は出来ます。
今回のも、夜、何が出来たかは、直ぐに分かりました。
でも、自分では、全く作れません。

貴兄も、直ぐに分かったのではありませんか。
「子供が出来た」は、創作かと。

2014/05/30 19:19:50

なるほど

さん

そういう旦那様だったら頼もしいですね。
色んな意味で尊敬できる 自分より秀でてるそういう男性が魅力的でしたが・・・

わが家は優しさが取り柄でした。
優しさは今になると優柔不断になりました。

2014/05/30 18:28:06

何だかほほえましい

彩々さん

こんにちわ。

イイですねぇ。
新聞を読みながら夫婦で頭を
ひねる。
ふ〜ん…と言ってどちらかが
それなりに納得する。
パトさんのお家の中が透けて
見えた感じです。
透けてといっても、透明感のある
熟年夫婦って意味ですよ。(笑)

2014/05/30 16:38:36

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