メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

代理出願 

2014年07月11日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「主人が、ヒマを持て余しておりまして・・・」
「碁は楽しいですよ。是非、おやりになるといい」
「帰って伝えます。一度、こちらへ伺うようにと」
熟年のご婦人が、喜色に満ちて、帰って行かれた。

「亭主元気で留守がいい」と言われる。
リタイアした亭主が、日がな、家にごろごろしていては、
女房はもう、うんざりしてしまうだろう。
家でごろごろは、三食と共に、本来、主婦に固有の権利であった。

その亭主が、ふとつぶやいた。
「囲碁なら、昔、やったことがある・・・」
亭主を外に出したい女房が、これを聞き逃すわけがない。
「なら、行ってみなさいよ。私に心当たりの、ところがあるから」
それで、私のサロンへ、リサーチに来たというわけだ。

私のサロンは、「来る者拒まず」を標榜している。
壁に書いてはないが、何かにつけて、私が広言している。
どうぞどうぞと、歓迎の意向を示し、名刺を渡した。
サロンについて、あらましの説明もした。

我ながら、愛想のいいことだ。
しかしながら、それは顔だけであり、心の中は、冷めている。
「来るわけがない」と思っている。
彼女の希望が、萎むまで、そう長くはかからないだろう。

過去に、こんな話が、幾つもあった。
言ってみれば「代理出願」である。
しかし、代理の帰った、その後、一人として本人の、現れたためしがない。

「馬を水辺に、連れて行くことは出来る。しかし、水を飲ませることは、出来ない」
と言う諺がある。
やる気のない者を、周囲がいくら説得、勧誘しても、無駄だということだ。

“馬”の皆さんは、ただの一匹として、水を飲むどころか、水辺にも現れなかった。
馬丁の皆さん方には「ご苦労さんでした」と慰めるよりない。
お気の毒だが、その憂色は、さらに深まったであろう。
「もう、知らないっ」
ご亭主の社会復帰に、匙を投げた人も、居るのではあるまいか。

 * * *

「ちょっと伺いたいのですが」
サロンの戸を開け、女性が入って来た。
背が私と同じくらい、ということは、女性としては高い。
そして端正な短髪だ。
その身のこなしが、きりっとしている。
となると、私はすぐに、宝塚の男役を思い出してしまう。
あるいは、何処かの大学の、先生に見えなくもない。
五十歳くらいであろうか。
一目で、何かを持って居ると、推測がなされる人だ。

「実は父が・・・」
なあんだ、おなじみの“代理”であった。
但し「うちの主人が」よりは、まだいい。
女房は亭主を、追い出したいだけだが、娘の父に対するそれには、
多少なりとも、真情というものがこもっている。

「当地へ越してきて、日が浅いです。父は碁を打ちたいのですが、
適当な相手が居ません」
「それは、お困りでしょう」
例によって、名刺をお渡しし、あらましの説明をして差し上げた。

その日の夕刻である。
見覚えのある顔が、サロンの外に見えた。
宝塚さんだ。
後ろに老人を一人、従えている。
気の早い人だ。
その日のうちに、引き連れて来るとは、思わなかった。
見かけによらず、彼女、気が短いのかもしれない。

「ここは、いわゆる碁会所とは違いましてね・・・」
営利目的ではなく、初心者指導を優先する場であり、
生徒には、小学生などが、多いことを語った。
「楽しそうですね」
「いやいや、それは私の口からは、言えません。
お客さんが判断することです」
淀みなく答えたつもりだ。

「ありがとうございました」
礼を言って、父と娘は帰って行かれた。
今までにない事例だ。
今後のことは、まだわからない。

彼O氏は、明日にでも、現れる可能性がある。
一方で、このサロンには、代理出願全滅の、粛然たる過去がある。
やはり・・・となる可能性も高い。

「いっそ、あなたもご一緒にいかが?」
宝塚さんに、そう言わなかったことを、今になって、悔いている。
「将を射んと欲すれば、先ず馬を射よ」と言われる。
私はこの際、将なんかどうでもいい。
馬が、惜しい。
馬に対し、もっと、アタックするのであった。



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

きっと

パトラッシュさん

彩々さん、
今のところ、来ません。将も馬も。
釣り落とした魚・・・ではなく、射そこねた馬は、
美しかったです。
惜しまれます。
未練がましいですが、もう少し待ちましょう。

「保亭所」ですか・・・
いいネーミングですね。
書いて、張り出してみようかしら・・・
また、何か釣れるかもしれないし・・・

彩々さんは、ご亭主の操縦が、上手かったようですね。
掌に載せ、転がすように・・・
きっと、その技が、今の陶芸に、生きているのでしょう、きっと。

2014/07/14 15:20:06

いえいえ

彩々さん

パトさん、きっとこの男装の麗人は
いつの日か、お一人ででもいらっしゃいますよ。

気長に待つのも、これ楽し・です!

娘が楽しそうに学ぶ姿を見て、やおら将が
お姿を現すことでしょう!

それにしても冒頭の年季の入った奥様。
気持ちは解りますが、根性がいけないねぇ。
年季の入ったご主人の動かし方を改めて
学ばなければ、自分の首を絞めることに
なりそう。
いっそのこと、パト’s Salonで
保育所ならぬ「保亭所」の看板も挙げられても
いいのかも!?
世の年季の入った奥方から
賞賛の嵐に包まれるかも(笑)

2014/07/14 13:06:33

贅沢は言いません

パトラッシュさん

プラチナさん、
三日でもいいです。

2014/07/12 06:59:42

馬が惜しい

パトラッシュさん

マリーさん、
そう思いたいです。
説得が効くといいのですが。
でも、将だけ現れても・・・
嗚呼、複雑です。

2014/07/12 06:49:43

そうですね

パトラッシュさん

喜美さん、
馬の方が、しっかりしています。その扱いには、
細心の注意が必要ですね。
心して、臨みます。

2014/07/12 06:46:44

一碁一会

プラチナさん

美味(馬)い話は、期待だけの方が、美人は三日で飽きると云います。一度飽きてみたい気もしますね。

2014/07/11 22:57:36

美しいのがお好きでしょ

さん

パトラッシュさん。まだ望みは捨てないで。
馬は今頃将を説得しているのではないかしら。
そのうちひょっこり現れるかもしれないです。
Dreams come true !

2014/07/11 20:02:31

大丈夫?

喜美さん

馬はしっかりしているわよ
蹴られて怪我する人もあるし
乗ったらすぐ強く走り出すかもしれない 馬にはご用心

2014/07/11 19:50:35

どうせなら

パトラッシュさん

のびたさん、
娘さんの方には”価値”がありますが、
お父さんの方には、???です。
世間にざらに居る”お父さん”のようですから。
サロン経営者としては、将より、美しいお馬さんの方を、
望んでいるのですが・・・

2014/07/11 19:05:53

父は娘に弱い

のびたさん

娘さんは幾つになっても可愛いもの
こうすればと言われるとその気になりますね
宝塚の男役ね・・
お父さんがやる気になって 毎日通ってくる方が
実際には良いでしょうね・・違う? (笑)

2014/07/11 18:28:48

パッと見、そうなります

パトラッシュさん

風香さん、
確かに、「代理出産」の方が、今どきの流行語ですものね。
無理ありません。

なるほど、将は馬に乗って・・・ですね。
そうすると、まだ希望がありますね。

2014/07/11 16:39:20

期待しましょう

さん

将は徒歩では来ないでしょう、たぶん。
たぶんですけど将は馬が無ければ移動できないのでは。

私、「代理出願」の「願」を一瞬「産」と読み違えて・・あわてんぼうねぇ。。
ごめんなさい<(_ _)> 

2014/07/11 16:27:39

それがね

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
ちょうど私が、夕飯に上がろうかと、言う時間にいらしたもので、誘わなかったのです。
惜しいことをしました。
押しが足らなかったですねー

いえ、あのお父さんの方は、諦めます。
宝塚さんが、惜しまれてなりません。

2014/07/11 16:12:25

もう一押し

さん

よかったら一局如何ですか?とお誘いなさらなかったのですか?

きっと宝塚さんはよく言えば行動的、悪く言うとセッカチな私に似たタイプとお見受けしました。

見ていて馬の方も、「これは!」と興味を示されたかもしれないのに残念!と思う私はやはりセッカチなのでしょうか?

今までのジンクスが破れる事をお祈りしています。

2014/07/11 13:28:42

PR





上部へ