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パトラッシュが駆ける!

三千五百円の運 

2015年10月03日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「今日のことは、神様の思し召しではないかと思うんだ」
「何が?」
「カードが戻ったってこと」
「どうして、神様なの?」
「私の日頃の行いを、良しとして、ご褒美を下さったというわけさ」
「それなら神様、最初から、カードを落とさせないように、
予防してくれたらよかったのに」

「そこが神様だ。一旦、失敗させておいて、
警鐘を鳴らしてから、戻してくれる。
これが、神心ってやつじゃないだろうか」
「それにしちゃあ、警鐘ばかり多いわね」
「ん?」
「あーた前に、免許証落したこともあるでしょ。カギの束も」

「どっちも、戻って来たぜ」
「バッグは戻らなかったわよね。お金も」
「酔ってたから、仕様がない」
「あたしなんか、落したことないわ。拾うばかりよ。
一万円札でしょ、財布でしょ・・・」

これを藪蛇と言うのかもしれない。
神様を引き合いに、一言自慢をしたら、妻から逆襲を食らってしまった。
広島駅の、ロッカーのカギを失ったこと、あれは言っていない。
旅先のことでもあり、黙っていれば、ばれる気遣いはない。

本日のそれは、よもや戻らないと思っていた。
プリペイドカードであるから、現金と同じだ。
残高の範囲内で、買い物も出来る。
電車に乗れる。
拾った者は、これ幸いとわがものにするだろう。
「戻ったら、奇跡よね」
妻だって、言っていた。
それが誰かの手により、駅員に届けられていた。

 * * *

「紛失されたのは、何時頃ですか?」
「10時少し前です」
「残高は、どのくらいありましたか?」
「3500円ほどです」
「カードに何か特徴はありますか」
「表面が擦れて、文字がかすれています」

遺失物係の駅員は、しつこいくらいに、質問を重ねる。
ここで、見えてくるものがある。
「Suicaを落しました」と偽りの申告をする者が、居るってことだ。
あわよくば、他人の届け出たそれを、横取りしてしまおうとの魂胆だ。
そういう不逞の輩がいるから、駅員は、私のような正直者をも、
疑ってかかる。

「よく利用される路線はありますか?」
さらに訊く。
電車通勤をしているわけではないから、特に何処がということもない。
「昨夜は、四谷から西荻窪まで乗りました」
これが決め手になったようだ。
駅員が頷いた。

何のことはない。
カードをリーダーにかざせば、利用履歴が出る。
所有者の電車利用の詳細が、すべてわかるのだ。
あるいは、駅構内のコンビニにで、弁当を買ったまで、わかるのかもしれない。
最初から、それを聞く方が早いではないか。
しかし駅員にも考えがあるのであろう。
外堀から埋めて行って、最後に本丸においてとどめを刺す。
それが公共交通機関に携わる者の、公平な態度と言うのであろう。
私はやっと、自分のカードを取り戻すことが出来た。

 * * *

そもそもが、バカな話なのである。
カードにて、改札を通過したのは間違いない。
隣駅の荻窪で、地下鉄に乗り換えようとしたら、胸のポケットに固いものがない。
取り出し易いように、カードは何時も、そこに入れておく。
そう言うクセがついている。

しかし、何かのはずみで、カードを入れそこなった。
そう推測する以外にない。
ポケットというポケットを、片っ端からまさぐる私を、
先に改札を出た妻が、不審な顔で見ている。
やがて諦め、駅員にわけを話す、その一部始終を見ている。
この事態を、隠しおおすことは、もう出来ない。

私達はそれから、銀座へ出て、芝居を見た。
新橋演舞場の二等席、8500円である。
この方が、失ったカードよりよほど高い。
一等席が12000円。
つまりこう言うことだ。
一等席で見るつもりだったところ、にわかに誰かに、
功徳を施したくなり、カードを落してそれを行い、
私は二等席に甘んじた。
そう言う風に思えばいい。

 * * *

西荻窪駅に戻って、カードが届けられていることを知った。
なんてついてるのだろう・・・
正直、びっくりした。
この世の中、まんざらでもない。
私が逆の立場に立ったら、何が何でも、届け出てやらねばならない。

しかし、少しばかり惜しくもある。
滅多にない幸運を得たというのに、その額が小さ過ぎる。
どうせなら、もっと大きなチャンスに、この幸運を生かしたかった。
例えば病院でだ。
切り取った腫瘍が、良性か悪性かという時にこそ、神様が、
この私を思い出してくれたらいい。
あいつは善行を積んだから、この際良性の方に入れておこうと。
今、カード如きで、その褒章を受けてしまうのは、
少々もったいないような気がする。



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妙な心理

パトラッシュさん

喜美さん、
早起きでいらっしゃるのですね。
私の五時は、まだ夢の中です。

そうなんです。
飲むときのお金は、少しも惜しくないのに、落としたとなると、自分の頭を殴ってやりたくなるほど、
悔しくなります。

あれ以来、ポケットを、逐一確かめる癖が付きました。
「たぶん」とか「だろう」だけでは、通用しない、
そういう年代になったのだと思います。

2015/10/04 07:15:56

良かった

喜美さん

奥様にそんなこと言ったら
ダメヨ私も倍返ししちゃうかな

1万円飲んでも楽しくて何ともないのに
3500円無くなるのは私は自分の馬鹿さ加減に癪に障ります 何処でだったかとか
此処まではあったとかクヨクヨします
もう少し賢ければ気が付くはずと此れからは気を付けよう この位の月謝はまあいいやとか
其処に出てきた喜び何とも言えませんね
お金は楽しく使うものですね 

2015/10/04 05:00:41

なるほど

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
それはそれは、残念でしたね。
しかし、物は考えよう。
四千円で、まだよかったとも。
プリペイドカードに、あまり残高を貯めておくのも、考え物ですね。

記名式の方が、安心というわけですね。
私は、一度懲りたから、当分は落とさないと思うのですが・・・

2015/10/03 19:20:34

地道にコツコツ

パトラッシュさん

Reiさん
神様はどうも、公平でないようです。
幸運を与える人には、うーんと与え、与えない人にはさっぱりですもの。
問題は、どうやって、与えてもらえる側に入るか・・・です。
まあ、地道にコツコツ・・・よりないようです。

お天気は、そうです、確率です。
低気圧が周期的にやって来る、それだけのことです。

2015/10/03 19:15:09

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
私はネタに飢えた男、
禍福何でも、ネタにしてしまうのです。
しかし、些細な福でした。
もう少し、価値のあるケースで、この幸運を使いたかったです。
運がついているとわかっていたら、宝くじを買うのでした。

2015/10/03 19:05:03

四千円の不運

吾喰楽さん

半年ほど前のことでしょうか、品川駅で降りようとしたら、プリペイドカード(スイカ)を落としたことに気が付きました。
パトラッシュさんと違い、日頃の行いが悪いのか、出て来ません。
と云うか、届け出もしませんでした。
四千円の損失です。
今は、記名式のカードにしています。
紛失したカードを無効にし、カードを再発行出来るそうですよ。

文章のネタは、何処にでも転がっていますね。
ところが、中々、見付かりません。

2015/10/03 18:19:28

日ごろの行いが

Reiさん

よかったのでしょう。
奇跡的にカードが戻って来るとは!

最初の奥様との会話は、漫才かと思いました・・(失礼)

人は、どこかへ出かける時、とても天気がよかったりすると、「日ごろの行いが良い」などと言いますが、それには、私は非常に不満です。
(雨女と呼ばれているからではありませんよ!)

これは、単に、確率の問題です。

でも、もし神様がいて、世の中の人たちに幸運を平等に与えているとしたら・・・
私はやっぱりドーンと当たる宝くじに幸運を残しておこうかな・・・(^^;)

2015/10/03 13:50:05

スイカを落しただけで

さん

パトラッシュ師匠 こんにちは。

スイカを落しただけで、こんなに面白い文章が書けたのも、神様の功徳でしょうか?
いえいえ、これは実力ですね。^^

口は禍の元。
親切な人はまだまだいる。
人情も健在なり。

最後の運の使い方、これは共感しました。
私は、駄目元の公募でも、自分で努力した物に幸あれと、宝くじは買わないでいます。
宝くじの方がずっと儲かるのに。(笑)

2015/10/03 12:47:31

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