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ネタがない 

2016年05月14日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

書くものがない。
と言う時のエッセイストは辛い。
そうなのだ。
お金にはならないものの、私は自分をエッセイストのつもりでいる。

何かの都合で、職業欄への記入を求められた時、私はそこに、
「囲碁サロン経営」と書く。
「無職」では侘しいからだ。
経営者と名がつけば、知らぬ人が一目おいてくれるかもしれない。
実は、サロンとは名ばかり、収入なんて、雀の涙ほどのものだ。
とても業とは言えないのだが。

私は普段、そのサロンに座して、客を待っている。
客は、滅多に来ない。
仕方なく、パソコンに向かい、取りとめのないことを書いている。
当人がそれを、エッセイのつもりでいる。
それだけのことである。

こんな私でも、長いこと書き続けていると、さながら澱のように作品が溜まる。
溜まると欲が出る。
澱の再利用、それはつまり、本の形にして世に出すということだ。
これを出版と言う。
出版への意欲が高じると、他のことが眼中になくなる。
私の場合、何年かに一度、これが発症する。
出版病と言う名の、もはや紛れもない病気である。

これとてもちろん、金儲けにはならない。
自費出版と言う名の、大いなる自己満足に過ぎない。
ところがこれが、気持よいのだ。
カラオケ大会のステージに立ち、公衆の面前で唄うようなものだ。
そこで受ける、拍手というものが、何とも言えずに快い。

本の場合は、贈呈した皆さんからの、賛辞が届く。
それがお世辞とは分かっていても、悪い気がしない。
この辺、ヴァレンタインデーの義理チョコに似ていなくもない。
予めギフトを配っておき、やがてチョコの集来を期待するようなものだ。

長い時間をかけ、収載する原稿を選び出した。
四十編ほどある。
目下、それらの原稿の、整理にかかっている。
推敲しつつ、行を整え、一定のページ枠内に収める。
この作業が、なかなかに厄介だ。
時間がかかる。
忙殺されている。
それで、エッセイを書く暇がなくなっている。

このブログのことも、気にはなっている。
書き溜めていた原稿を、ほとんど放出してしまった。
ストックがない。
それで困っている。

書こうにも、こんな時に限って、ネタがない。
身辺周辺において、そよとも波風が立たない。
焦れば焦るほど、私の周囲は平穏に過ぎて行く。

 * * *

町内の米屋Aは、ギャンブル好きであった。
日曜の度に、競馬場に通っていた。
その馬を見る目は、まんざらでもなかったようだ。
俗に万馬券という、大穴を当てたことも、一度や二度ではなかったようだ。
巷の馬券名人として、週刊誌に載ったこともあると自慢していた。

そのAが、店をたたみ、隣接するアパートへ移った。
お定まりの破綻である。
店は売り払ったらしい。

Aは、アパートに移ってからも、営業は続けていた。
幸いに、長年の得意先を持っている。
卸商から米を取り寄せ、それを配達しては、日銭を稼いていた。
その期に及んでも、彼は意気軒昂であった。
「なーに、店なんかすぐに、取り戻してみせるぜ」
豪語していた。
Aの脳裏には、かつて当てた、大穴馬券が常にある。
俺には、馬を見る目がある。
その気になれば、万馬券の一つや二つ、すぐに当ててみせる。
と信じていたのだろう。
しかし、その目論見は叶わなかったようだ。
その後Aは、アパートからも姿を消し、やがて行方知れずとなった。

 * * *

書けるさ、何時だって。
ネタさえあれば、すぐにでも書いてやる。
あっという間に書き終えてやる。
豪語している私は、このAに似ていなくもない。

違うのは、話の大きさだ。
私の場合、行き詰まったとしても、店を失うことはない。
書き込みを怠り、読者の信用を失うくらいのことだ。
「くたばったか、あいつ……」
と失笑される。
その程度の事だ。

ネタがない。
こんな時、漫談家は手の内をさらす。
仲間内だけで通じ、一般には知られていないことを「楽屋落ち」という。
その楽屋落ちに奔る。
今の私も、多分にその気味がある。

とてもエッセイとは言えない。
しかし当人は、そのつもりでいる。
常にエッセイイストのつもりでいる。
しかし職業欄に書くには、さすがに忸怩たるものがある。



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なるほど

パトラッシュさん

音楽家にとっては、リサイタルになるのですね。
(美術家にとっては、展覧会であるように)
何の分野でも同じ。
日頃の成果を見て聞いてもらいたいものですね。
病人は私だけでないと知り、少し安心しました。

いくら奥の手があると言っても、シシーマニアさんの職業欄は、ピアニスト。
これ以外にないと思います。

2016/05/15 16:24:52

出版病

シシーマニアさん

師匠、おはようございます。

出版病、は自分に当てはめると、自主リサイタル病ですね。
多分、文章を書くだけでは飽き足らなくなって、自分がすべてを背負い込んだ一冊の本を出版したくなる、という衝動(もっと長期的ですね)でしょうか。

そして、
「しかし職業欄に書くには、さすがに忸怩たるものがある」という一文にも共感してしまいました。
女性には「主婦」と書く奥の手がありますが・・。

2016/05/15 10:51:51

本当は横文字の似合わない男なのですが

パトラッシュさん

loveqさん、
ありがとうございます。
精々名乗らせて頂きます。

「評論家」だけは、なりたくないです。
自分ではできないくせに、口だけ達者。
その偉そうなところが、嫌いなのです。

あ、昨日今日、テレビに出てるあの顔も嫌いです。
あれが情けないことに、知事をやってるのです。
我が東京都の……

2016/05/14 14:01:26

エッセイストP、ここにあり

さん

いいじゃないですか、エッセイスト。
エッセイストなんだから堂々とエッセイストと名乗ればいいと思います。
テレビを観れば、・・・評論家、溢れていますよ。
どこが評論家?、そんなのが平気で出演しているんですから、何も遠慮することないですよ。
パトラッシュさんのブログ、面白いです。
随筆家よりエッセイストが似合うと思います。

2016/05/14 13:40:13

是非どうぞ

パトラッシュさん

ryuuseiさん、
井の頭公園は吉祥寺。
私の住む西荻窪は、その隣です。
戦後の闇市的色彩を残す飲食店街や、アンティーク店が多く集まることなどから、昭和の匂いを色濃く残す町と言われております。
一度下車してみて下さい。
何か、興味深いものが、見つかるかもしれません。

2016/05/14 12:10:51

日がな一日

ryuuseiさん

井の頭恩賜公園へは何度か写真を撮りに
行きました。
デートの場所でもありました。

杉並で下車した記憶がないのです。

西荻窪界隈を散歩もして見たいです。

突然お伺いしましたら
その節はよろしくお願いします。

2016/05/14 10:20:14

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